妹の髪すげーな。あんな派手な縦ロール、初めて見た
ついに、リゾートアイランドへ出発する日がきた。
空港のロビーで集合した俺達は、時間に余裕を持って午後すぐの便に乗り、わずか一時間足らずで八丈島に着いた。
ジェットが離着陸する空港があると、さほど距離を感じないのな。
実際には、東京から三百キロ近く離れているらしいが。
ただ、八丈島はあくまで途中の経由地に過ぎず、俺達は高原家が用意してくれた大型タクシーに乗り込み、さらに島の某所にある桟橋つきの港へと移動した。
どう見てもできたてほやほやの綺麗な桟橋を見て、「八丈島は、前に来たことがあるんだ」と言ってた鈴木が、首を傾げていた。
「ここに、こんな桟橋付きの港なんてあったかな」
車を降りて歩き出すなり、もうきょろきょろしていた。
「うちの関連企業が100パーセント出資で、最近建設したんだ。今から行くリゾートへの、直行便のために。もうすぐ定期便が就航する予定だが……まあ、それは俺達の意見を聞いた後のことらしい」
さらりと言ってのける高原に、鈴木は眼鏡の奥のちっこい目を驚愕に見開いていたね。
まあ、こいつが新興財閥の御曹司だと知っている俺ですら、「マジかよ」と思ったからなあ。
しかし、驚愕の事実はまだまだ続く。
今度は短髪の工藤が「で、同行するはずのおまえの妹は?」と今更のように尋ねた。
空港の時点でいなかったのだから、気付くの遅すぎなんだが。
「あいつなら、プライベートジェットでもう着いてるだろう。出航までにはここに来るんじゃないか?」
しれっと高原が言う。
「まあ、来なきゃ置いていくだけだ」
『プライベートジェット!』
工藤と鈴木が同時に叫ぶ。
まあ……普通は驚くわな。逆に俺は、そういう存在も知ってたので、むしろ高原がそっちを利用して別行動取らなかったことに、感心してたんだが。
「それで、目的地へ向かう船は、もしかするとアレかしら?」
工藤や鈴木のように驚くでもなく、泰然とした表情を崩さない絵里香ちゃんが、ふいに桟橋の方を指差す。
本日はショートパンツにノースリーブのシャツという開放的な格好で、ここまで工藤達の視線を釘付けで来ている。
美貌度ならうちの妹も負けていないが、こいつは露出少なめのワンピースだからな。
ちなみに、絵里香ちゃんが指差す方を見れば、なんと船の舷側左右に、巨大な外輪が装備された外輪船が、既に桟橋の端に停泊していた。
一同また、ポカンと口を開けて眺めてしまう。金持ちすげー。
「あれもどう見ても新品だけど、リゾートへの直行便として建造か?」
歩きつつ俺が尋ねると、高原は当たり前のような顔で頷いた。
「まあな。高天原号って名前がついてるが、順調に運行されるかどうかは、これまた先行の俺達次第だ」
「も、モニターの責任って、重大なんですね?」
妹の可憐が、初めて発言した。
早速一人で責任を感じているのか、顔が緊張気味である。
「そう構えなくていいぞ、可憐」
以前から面識のある高原は、苦笑して両手を広げた。
「最後に思った通りの感想を叔父さんに伝えればいいさ」
「なるほど、おまえの叔父さんが計画したことか?」
「そう。まあ、場所的にあまりにも不便だし、本当に観光用途に適するかというと……ちょっと危ういよな」
……他人事のように言うヤツである。
「もしもこの新規事業がコケたら、どうなる?」
「に、にいさんっ」
可憐が俺のTシャツを引っ張ったが、高原は気にした様子もなく言ってのけた。
「その場合、うちの関連会社の専用保養地になるだろうから、そう心配しなくていいさ」
「な、なるほど」
暗に、仮にしくじってもさしたる損害じゃない、という意味があるような気がして、俺達はまた密かに驚く始末である。
まあ、こいつと付き合っていると、しょっちゅうこんな気分になるけど。
それは置いて、桟橋を歩いてる最中、ふいに女性の声がした。
「お兄様ぁああああっ」
俺達が一斉に振り向くと、奇天烈な集団が急ぎ足でこっちへやってきた。
先頭に、派手にパーマのかかった長い髪の、いかにもキツそうな性格の女子と……彼女の侍従のごとく従う、男ばかり三名ほど。
なぜか男は全員、二枚目だったりする。
「……なんだ、間に合ったか。つまらん」
「もしかして、あの子が妹か?」
俺も初対面なので尋ねると、これまでで一番嫌そうに高原が頷いた。
「今から謝っておく。いろいろと傲慢な奴で気分を害するかもしれんが、その時は蹴り倒してくれていい。俺が許すぞ」
……いや、そんなこと言われても。
俺達は困惑してそっと顔を見合わせた。
なんか、前途多難だな……あと、妹の髪すげーな。あんな派手な縦ロール、初めて見た。
昔のフランス貴族かと。