表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/159

妹の髪すげーな。あんな派手な縦ロール、初めて見た


 ついに、リゾートアイランドへ出発する日がきた。


 空港のロビーで集合した俺達は、時間に余裕を持って午後すぐの便に乗り、わずか一時間足らずで八丈島に着いた。

 ジェットが離着陸する空港があると、さほど距離を感じないのな。


 実際には、東京から三百キロ近く離れているらしいが。


 ただ、八丈島はあくまで途中の経由地に過ぎず、俺達は高原家が用意してくれた大型タクシーに乗り込み、さらに島の某所にある桟橋つきの港へと移動した。

 どう見てもできたてほやほやの綺麗な桟橋を見て、「八丈島は、前に来たことがあるんだ」と言ってた鈴木が、首を傾げていた。


「ここに、こんな桟橋付きの港なんてあったかな」


 車を降りて歩き出すなり、もうきょろきょろしていた。





「うちの関連企業が100パーセント出資で、最近建設したんだ。今から行くリゾートへの、直行便のために。もうすぐ定期便が就航する予定だが……まあ、それは俺達の意見を聞いた後のことらしい」


 さらりと言ってのける高原に、鈴木は眼鏡の奥のちっこい目を驚愕に見開いていたね。

 まあ、こいつが新興財閥の御曹司だと知っている俺ですら、「マジかよ」と思ったからなあ。


 しかし、驚愕の事実はまだまだ続く。 


 今度は短髪の工藤が「で、同行するはずのおまえの妹は?」と今更のように尋ねた。

 空港の時点でいなかったのだから、気付くの遅すぎなんだが。


「あいつなら、プライベートジェットでもう着いてるだろう。出航までにはここに来るんじゃないか?」


 しれっと高原が言う。


「まあ、来なきゃ置いていくだけだ」

『プライベートジェット!』


 工藤と鈴木が同時に叫ぶ。

 まあ……普通は驚くわな。逆に俺は、そういう存在も知ってたので、むしろ高原がそっちを利用して別行動取らなかったことに、感心してたんだが。





「それで、目的地へ向かう船は、もしかするとアレかしら?」


 工藤や鈴木のように驚くでもなく、泰然たいぜんとした表情を崩さない絵里香ちゃんが、ふいに桟橋の方を指差す。

 本日はショートパンツにノースリーブのシャツという開放的な格好で、ここまで工藤達の視線を釘付けで来ている。


 美貌度ならうちの妹も負けていないが、こいつは露出少なめのワンピースだからな。

 ちなみに、絵里香ちゃんが指差す方を見れば、なんと船の舷側左右に、巨大な外輪が装備された外輪船が、既に桟橋の端に停泊していた。


 一同また、ポカンと口を開けて眺めてしまう。金持ちすげー。





「あれもどう見ても新品だけど、リゾートへの直行便として建造か?」


 歩きつつ俺が尋ねると、高原は当たり前のような顔で頷いた。


「まあな。高天原(たかまがはら号って名前がついてるが、順調に運行されるかどうかは、これまた先行の俺達次第だ」

「も、モニターの責任って、重大なんですね?」


 妹の可憐が、初めて発言した。

 早速一人で責任を感じているのか、顔が緊張気味である。


「そう構えなくていいぞ、可憐」


 以前から面識のある高原は、苦笑して両手を広げた。


「最後に思った通りの感想を叔父さんに伝えればいいさ」

「なるほど、おまえの叔父さんが計画したことか?」

「そう。まあ、場所的にあまりにも不便だし、本当に観光用途に適するかというと……ちょっと危ういよな」


 ……他人事のように言うヤツである。


「もしもこの新規事業がコケたら、どうなる?」

「に、にいさんっ」


 可憐が俺のTシャツを引っ張ったが、高原は気にした様子もなく言ってのけた。


「その場合、うちの関連会社の専用保養地になるだろうから、そう心配しなくていいさ」

「な、なるほど」


 暗に、仮にしくじってもさしたる損害じゃない、という意味があるような気がして、俺達はまた密かに驚く始末である。


 まあ、こいつと付き合っていると、しょっちゅうこんな気分になるけど。

 それは置いて、桟橋を歩いてる最中、ふいに女性の声がした。




「お兄様ぁああああっ」


 俺達が一斉に振り向くと、奇天烈な集団が急ぎ足でこっちへやってきた。

 先頭に、派手にパーマのかかった長い髪の、いかにもキツそうな性格の女子と……彼女の侍従のごとく従う、男ばかり三名ほど。


 なぜか男は全員、二枚目だったりする。


「……なんだ、間に合ったか。つまらん」




「もしかして、あの子が妹か?」


 俺も初対面なので尋ねると、これまでで一番嫌そうに高原が頷いた。


「今から謝っておく。いろいろと傲慢な奴で気分を害するかもしれんが、その時は蹴り倒してくれていい。俺が許すぞ」


 ……いや、そんなこと言われても。

 俺達は困惑してそっと顔を見合わせた。


 なんか、前途多難だな……あと、妹の髪すげーな。あんな派手な縦ロール、初めて見た。


 昔のフランス貴族かと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ