(将来的に)まさかの同級生か?
俺の勧めに従って、可憐は下はショートパンツみたいなスタイル(名前知らん)のビキニ水着に変更し、俺はかなりほっとした。
まあ、ビキニだって露出多いが、エロすぎる競泳水着よりマシだ……多分。
あとは俺の買い物で、見た目は半ズボンに酷似した水着を買い、予定の買い物は終了した。
……しかし、本番はここからで、可憐の「お話があります」というのに付き合い、ショッピングセンター内のレストランに足を運んだ。
二人でボックス席に座ったのだが、メニューから注文した後、可憐はいきなり爆弾を落としてくれたね。
「実は、わたし達が住む区内の中学校全てに、試みで飛び級制度が採用されるんです」
「飛び級!?」
思わぬ話に、俺は首を傾げた。
「おまえは今、二年生だから、三年生になったりするってこと?」
「いえ、実験的な試みとはいえ、同じ中学の学年を飛ぶんじゃなく、最低、高校一年生~高校三年生になる、ということです。施行してみて問題がないようなら、この制度を都内全域に広げるとか」
「へぇええええ」
ちなみに、可憐の成績は半端なくよい。
クラストップなんて当たり前の世界で、普通にいつも学年一位……よほど悪くても二位だ。
「年末までに試験があって、受かれば来年の四月から、新たに高校生となります……あくまでも受かれば、ですけど」
「いや、おまえは受かるよ」
俺は真面目に言ってやった。
「そこは心配しなくていいさ。しかし……へぇええ、下手すると俺より上級生になったりしてな」
こいつなら普通に有り得る。
なにせ、大学生が使う参考書とか、普段から平然と使ってるからな。
レベルが違うぜ。
「わ、わたしとしては、来年の四月からなら、高校二年生くらいが、穏当だと思いますけど」
なぜか上目遣いにそんなことを言う。
「まあ、それでもいいけど……しかし、仮にうちの高校に編入したとして、いきなり高校生だらけの教室内に、元中坊のおまえが紛れ込んだりするのか? それって大丈夫か? その……虐められたりしないかね」
俺なりに案じて訊いてやると、可憐はいつになく笑顔で首を振った。
「飛び級になって高校生として通う場合、同じような飛び級合格者だけのクラスが作られて、そこに入ることになるそうです……人数は通常より少ないですけど」
「なるほどなあ。実質、エリート学級だな、そうなると」
俺は感心して腕を組んだ。
そこで、頼んでおいたランチメニューが来て、ウエイトレスのお姉さんが料理を置いてくれたが、彼女が去るのを待って、可憐は緊迫した顔で尋ねた。
「兄さんは、賛成してくれますか?」
「おまえがそうしたいのなら、俺は反対しないさ。万年留守の叔父さんだって、反対しないと思うぞ。だけど、残された中学生活とかが全部消えちゃうのは、いいのか? 友達だっているだろうに」
……日記で、アヘ顔がどうのとか吐かしてゲラゲラ笑ってたらしい女子は、この際、切った方がいいかもだが。
声に出さずに、俺は思い出していた。
「お友達と別れるのは、それは辛いです……けど」
可憐はちょっと寂しそうに答える。
「でも、いいんです。来年から高校二年生になれることを目指して、がんばります!」
「いや、がんばらずとも、今の時点でその実力は余裕であると思うが――もしそうなったら、俺と同級生になっちまうなあ」
「そう、そうなりますね……兄さんと同級生です」
この時、俺を見つめた可憐の顔を、俺は以後ずっと忘れられずにいた。
いつもの嫌みったらしい顔つきでもなく、怒った顔付きでもなく、目を細めてなぜか嬉しそうに微笑んでいたのだ。
意外というか、「もしかして、俺と一緒の学年になりたいからか?」と思わず勘違いしそうになった。
まあ、そんなはずはないだろうけど。
こいつは、ストーカー嗜好とか、全然ないしな。
でもアレだな……もうやめるつもりだったけど、またそのうち、可憐の日記を覗いてしまいそうだな、俺。
まあ、明後日から謎のリゾートアイランド行きなので、当分、機会はないが。