いやぁ、俺もかなりわがままで、独占欲強いわな
夏目前のため、日曜祭日は思いっきり混雑する水着売り場も、さすがに平日の今日は比較的空いていた。
ただ、この辺の中学や高校は、既に終業式を迎えたところが多く、ティーンの女子は割と多い。参ったのは、女子の水着売り場にいる野郎は、俺だけだったということだ。
「俺も、自分の選んでくるか」
わざとらしく去ろうとしたら、すかさず止められた。
「そんなこと言わず、まず試着したわたしの水着を見てくださいな。そのために一緒に来たのですから」
真面目に訴える可憐を見て、俺は目を瞬いた。
「見られるのは平気なわけか」
「兄さんになら……ええ」
さっきとは矛盾するようなことを言う。
「そ、そう? じゃあ、よさげなのを選べよ」
「……では、最初は比較的露出の少ない、競泳水着を」
俺の駄法螺を真に受けたらしく、可憐は本気で競泳水着のコーナーで探し始めた。
金属棒のハンガーに吊られた中から、好みのを探し出す。マジかよと思ったが、俺はあえて止めなかった。
いや、可憐のそういう水着姿は、ぜひとも見てみたいな、うん。
「この赤色は……少し派手でしょうか?」
「ピンクのよりはいいんじゃないか? そこまで派手に見えないし」
「わ、わかりました。では、まずこの水着を試着してみます」
「……お、おお」
いやぁ、俺まで緊張してきた。
この売り場には複数のドア付きの試着室があって、ちゃんと鍵もかかるのだが。
でも、あの箱の中でまさに今、可憐が脱いでるかと思うと、ちょっと気になるな。
棒立ちで待つこと数分、ようやく扉が薄く開き、可憐が手招きした。
「に、にいさん、にいさん」
「いま行くよ」
俺が隙間に歩みよると、恥ずかしそうに内股で立つ可憐が中にいた。
「ど、どうでしょうか……」
無理もないが、少し顔が赤い。
「むううう」
これは……なんというか、唸るしかないな。
競泳水着というのは、思いのほか、ヤバいものだと悟った。
特にこいつみたいに、贅肉の欠片もない女子が着ると、目に毒だ。もうなんというか、視線が吸い寄せられるように、鋭く切れ込んだ股間から始まり、引き締まったお腹を経て、適度に膨らむ胸へとねっとり見てしまう。
考えようによっては、身体の線が全部見えてて、裸とそう大差ないような。
「……ぬうう」
さらに唸っていると、可憐にいきなり言われた。
「なんで兄さんまで赤くなってるんですかっ。恥ずかしいわたしが、余計に恥ずかしいじゃないですかっ」
「いや、そう言われても」
俺は頭を振り、やや方針を転換した。
「可憐、競泳水着はやめて、やっぱビキニにしよう。それも、下はショートパンツみたいに、布地広めのヤツ」
「……え、どうしてでしょう? 考えが変わったのですか?」
「どうしてと言われても」
俺は我ながら困惑した。
「馬鹿みたいに聞こえるかもしれないが、構わないか?」
「いつものことじゃないですかー」
天使の笑顔で、俺を煽りやがる可憐である。
「おまえね……まあ、いいさ。なら教えてやる」
俺は一拍置いて答えた。
「予想以上に色っぽいんで、あんまり他の男に見せたくない」
可憐のヤツ、なぜか俺の返事を聞いて、長らく絶句していた。
そんな意外な返事か?
「ああ、いや! まあ、今の馬鹿な言い方だったな、我ながら」
「いえ……そんなことはありませんよ」
珍しく、可憐がゆっくりと笑みを広げた。
「では、兄さんのお勧めに従い、この水着はやめておきますね。もっといいのを探しましょう」
「そ、そうだな……はは」
いやぁ、俺もかなりわがままで、独占欲強いわな。