前にお部屋をお掃除した時、ベッドの下に、アイドルの水着写真集が
俺は女の子座りして呼吸が荒い妹を見て、「これは、可憐の俺への好感度が激高な故である」などとは微塵も思わず、とっさに、なにかめまいでも起こしたのかと思ったほどだ。
しかし可憐は真っ赤な顔で、しかも涙目になって俺を見上げ、「だから、兄さんに触れられたら、わたしは駄目なんですってば!」と口走るや否や、弾かれたように立ち上がって、自室の方へ走り去った。
俺が止める暇もなかった。
「えぇええええ」
後には、困惑して棒立ちする、俺が残るのみ。
……しかし、熱出して寝込んでた時はおまえ、今のアレどころじゃなかったぞ? なにしろ、全裸だったし。
別にわざとじゃないが、着替えさせるにあたり、ヤバい部分もかなり触ったもんな。
とはいえ、熱で朦朧としてたせいで、いつもの状態じゃなかったのも、事実だが。
ちなみに、しばらくして部屋から出て来た可憐は、表面上は元通りになっていたが、スキンシップの件は断固として拒むようになってしまった。
「やっぱり、そういうのは不潔です!」とか言ってな。
でもその言い分も、どこかこう、とってつけたような理由の気がしたね。
一応、気合い入れて頬を見ると、相変わらずの赤字で100という数字が見えるしな。おまけに、赤い糸も今は完全に復調して、綺麗に輝いているという。
こいつ本当に、こっちの数字はブレないな。
別に嫌われたような兆候はなさそうだ……俺が糸と数字の解釈を誤ってない限りにおいては。
ところで、俺はとことん諦めの悪い男である。
もう絶対に無理だとでも思わない限り、妹デレデレ計画をやめるつもりはない。そこで今回の反省点を活かし、翌日にはまた妹にアプローチしてみた。
「いよいよ明後日には出発だから、今日か明日中には、買い物に行かないとな?」
――新たなミッションの発動である。
兄妹揃ってキャッキャッウフフの買い物にいそしみ、距離を縮めるわけだ。
「買い物……ですか?」
中学の終業式が終わって帰宅してから、なぜかそわそわした様子の妹が首を傾げる。
ちょうど、キッチンのテーブルで、向かい合っておやつ食ってる時だった。
可憐もどういう風の吹き回しか知らないが、昨晩から今朝にかけてのむすっとした態度は完全に消えていた。
どういう事情か気にはなるが、この時の俺は自分のミッションで必死だった。
「おうとも!」
だから当然、元気よく答えた。
「リゾートアイランドと言えば海、海と言えばプライベートビーチ! 幸い、今回向かう島では、こじゃれた綺麗な砂浜を、俺らが占領して使えるらしい。こうなれば当然、水着を新調しないとな」
「……わたし、自分の水着ありますけど?」
余計なことを吐かす奴である。
「どんな水着?」
俺が疑い深い表情を作って尋ねると、案の定、可憐は言いかけた。
「ええと、中学校の授業で――」
「かぁあああ、それは駄目っ。もう全然駄目っ、最悪だっ、話にもならん!」
自分も大した水着を所持してるわけじゃないのに、俺は盛大に否定してやった。
「要するにそれ、スクール水着だろっ。どこのお子様だって話だよ!? 高原の妹だって来るんだぜ。きっとそれなりの水着を持参してくるから、おまえも多少は考えないと」
「スクール水着だと、恥をかくということですか? では、どういうものなら、穏当でしょうか?」
おお、乗って来た乗って来た。
こいつ、よくも悪くも他人より目立つのは嫌いだからな。今回の場合、悪い意味で目立つと思ったようだ。よしよしっ。
「そうだなっ」
俺はわざとらしく真面目な顔を作って腕組みした。
考えるまでもないが、考えるふりをする。
「……まあ、候補の第一はビキニだろう。なんつーかこう、なるたけ面積の少ないヤツ。第二候補は……そうだなぁ、まあ競泳水着かね。こう身体の線がびちっと出るヤツ!」
可憐はしばらく沈黙した後、しんねりとした目つきで俺を見た。
「それ、兄さんの趣味で言ってません? 前にお部屋をお掃除した時、ベッドの下に、アイドルの水着写真集が」
「勝手に人の部屋を漁るなよなあっ」
――あと、俺の秘蔵水着写真集を暴くな、馬鹿馬鹿っ。
油断も隙もない奴だな!
人に言えんけどっ。
「そもそも、高原の妹がビキニ水着なのは、マジだぞっ」
俺は慌てて反撃し、焦っているのをごまかした。
事前に電話で訊いたので、こればかりは本当である。高原曰く、『似合うか似合わないか、いちいち着替えてから訊かれて、ウザかった』そうな。
……俺に言わせれば、それこそ「死ねよ、リア充」と思うんだが。
まあ、そんな本音は置いて。
俺の渾身の「高原妹の、水着ネタリーク」は、割と効果があったようだ。