今までの妹の態度は、内心では全然逆だってことか?
うちのマンションは3LDKだが、両親は既に亡く、便宜上の保護者である叔父さんは、家を留守がちである。
おおむね、妹と俺の二人で暮らしていると言っても過言ではない。
だからというわけでもないが、妹が動き回る程度の音でも、すぐに聞こえる。
いつものように嫌みを言われた俺は、いつものような態度は取らず、自分の部屋でベッドに横になり、ひたすら聞き耳を立てていた。
いや、キッチンやらリビングやらをうろうろする足音からして、あいつは相当にテンパっているようだなと。
まさか、ちょっと落ち込んだ振りをするだけで、そこまで慌てるとは思わなかった。
そのうち密かなノックの音がした。
「……なに?」
「あ、いえ……入っていいでしょうか?」
おお、声が落ち込んでるぞっ。
あまりの効果に少し後悔したが、ここでボロを出すと、史上最大級の逆ギレをされる恐れがある。そこで、わざと重々しく言ってやった。
「まあいいけど、手短にな」
「わかりました……」
そっとドアを開けて入ってきた可憐は、なんだか目が充血していた。
泣き腫らしたみたいな瞳に見えるが、まさかな。
手にはお盆を持っていて、どこに隠してあったのか、俺の好物の肉まんが二つ、皿に置いてあった。
「……今日は、少し言い過ぎたかもしれないですねと」
「いつものことだろうに」
机に置いてくれた肉まんを凝視しつつ、何気なく俺が答える。
すると、妹の肩がぴくっと動いたのがわかった。
こりゃどうも……勘違いじゃなさそうだな。こちらを振り向いた時、また気合いを入れて可憐の頬を見ると、やはり点数が浮かび上がったし。
相変わらず100のままだった。
「……今晩は、カレーですから」
またしても俺の好物をボソリと口にし、可憐が出ていこうとする。
俺は思わず呼び止めた。
「可憐」
「な、なんでしょう……」
「ちょっとこっちへ」
「……はい?」
ベッドに横座りする俺の元へ、恐る恐るといった態度で可憐が近付く。
俺はふいに手を伸ばし、もはやこいつが小学生の時以来、全然しなかったことをした。
つまり、ヘアバンドをしたストレートのロングの髪に触れ、そっと撫でてやったのだ。
「え、ええっ!?」
驚いた様子の可憐に構わず、滑らかな髪の感触を確かめるように撫でつけ、それからそっと肩を叩いてやる。
「いや、俺も悪かったよ。もう忘れるから、気にするな、なっ?」
いつもの軽薄な口調で言ってやった。
「……な、なんなんですか本当にっ」
驚きの表情を貼り付けたまま立っていた可憐だが、徐々に頬が桜色に染まっていく。なんだか、今なら「こっちへおいで」と手を差し伸べれば、普通に身を任せてくれそうだった。
押し倒すのじゃなく、「俺の胸に抱き締められそう」ってことだが。
さすがにそれはためらいがあって、しばし見つめ合っていたが――。
「ま、まあ、いいです……では、お夕飯できたら呼びますから」
やがて可憐の方が身を翻し、慌てたように部屋を走り出ていった。
「お、おお……」
惜しかったなあ。
やっぱり、どさくさに紛れて、抱き締めてやりゃよかった。
しかし……さすがにこれで確信ができたな。
信じ難いことではあるが、あの数字は確かに好感度なのだ。
ということは、今までの妹の態度は、内心では全然逆だってことか? あんなに毒舌だったのに!?
よし、それなら俺も、そういうつもりで妹を愛でよう!
元々嫌いじゃなかったし、血も繋がってないしで、俺は妙に張り切っていた。
ただ、妙に鋭い奴なので、ミッションは慎重に運ぶ必要があるだろうな、うん。