表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/159

き、着替えさせるって、俺がかぁー?


 とはいえ、この態度は実はわざとで、また新たな嫌みやら苦情やらを始める布石の恐れもある。


 そこで俺はあまり相手にならず、「ほら、服着替えろよ? 風邪引くからさ」とだけ声をかけてやったが、妹は「……ダルくれて起き上がれないんです。着替えさせてくださいな」と言うではないか。




「き、着替えさせるって、俺がかぁー?」


 素っ頓狂な声で訊いても、当たり前のように頷くのだな。


「風邪の時は、そうしてくれたじゃないですかー」


 と甘えるような声音で。

 ああ、そういう時もあったな。それこそ可憐が小学生の頃の、今とはまるで違う態度の時だが。

 冗談だよなと尋ねても、不思議そうな顔で首を振る。

 その間にも汗は出ていて、これは本当に放置しておくとまずそうだ。


 やむなく俺は立ち上がり、「よぉし、望み通りにしてやるから、後で文句言うなよっ」と宣言し、パジャマと下着とタオルの用意をした。


「よし、電気消してなるべく見えないようにして、ババッと着替えさせてやるからな」と言ってやると、「別に見られても平気ですよ? 妹じゃないですか」とぼおっとした笑顔で呟く。


 一瞬、そこまで言うなら――と思ったが、正気に戻った後でガミガミ言われそうなので、やはりカーテン閉めて電気消して、最小限の明かりで素早く着替えさせた。


 一応、全裸にした後で、汗も拭いてやったんだが……こいつがまた、ぐんにゃりとしたままで、やりにくくてしょうがない。


 そのくせ、俺が意図せずに胸に触ったりすると、くすぐったそうに笑うのである。

 事情を知らない第三者が今この場面を見たら、「こいつ、女の子を全裸にして、あちこちまさぐってやがる!」と誤解されたかもしれない。

実際は妙な緊張感があって、俺は俺で焦っていたんだが。


 ……まあでも、結構隅々まで見てしまったのは否定しない、うん。


 最後に風邪薬を飲ませてやって、ようやくミッションが終わった。




「……ふう。なんか寿命が縮んだ気がするな」


 まだ笑顔のままの妹を見やる。

 こんな可愛い状態の可憐は、当分、見られないだろうから。


「で、大丈夫なのか、本当に? 往診を頼むとか、救急車呼ぶとか、しなくていいか?」

「そんな大げさな……大丈夫ですよ……夜には起きられると思います」

「そうか? ならいいんだが」


 俺が出て行こうとすると、なぜか妹は両手を差し伸べた。


「なに?」

「お礼をしたいから、手を」

「手を?」


 わけがわからないまま、手を握ると、いきなり問答無用で引き寄せられて、熱烈なキスをされた。

 これは、マジで驚いた!


 わあっと思った時には、もう熱烈なキスをされている最中であり、いかんともし難かった。そのうち、ようやく妹の腕から力が抜けたので慌てて身を引いた。


 ……なに考えてんだ、おまえ!


 そう言ってやろうと思ったけど、本人はもうすやすや眠っていたな。

 熱があるのは確かなんだが、あまり苦しそうには見えない……ぼおっとしていたが。


「そりゃまあ、別に妹とするのは初めてじゃないが……だが、随分と久しぶりだったよな」


 幼い頃はせがまれて何度もしてるが、それ以来か。

 妙に優しい気持ちになり、俺は最後に妹の顔の汗を拭ってやってから、部屋を後にした。





 特に腹は減ってなかったし、用事もなかったせいか、俺はそのまま、リビングのソファーで居眠りしてしまったらしい。

 次に起きた時は、既に夜の八時を回っていたが――。


 妹の焦った声と共に身体を揺すぶられた。




「にいさんっ、にいさんっ!」

「ふぁ?」


 寝ぼけ眼で俺が見ると、すっかり正気に戻った妹が、赤い顔で俺を見ている。


「なんだよ、まだ熱が下がらないのか?」

「いえっ、もう平熱なんですけど……わたし、いつの間にパジャマに着替えたのでしょう?」


 なんだか切迫した声で訊く。

 わざと「自分で着替えたんじゃね?」等の適当な返事をしようかとも思ったが、後でバレるとその方がうるさいので、やむなく事情を話してやった。


「――つーわけで、俺が部屋を暗くして、ぱぱっと着替えさせてやった。言っておくが、おまえに頼まれたんだからな」

「え……そんな記憶も確かに……あぁああああ」


 途中で段々思い出してきたのか、へなへなっとその場に座り込みやがる。

 しかも、両足の間に腰を落とした、女の子座りで。

 顔が真っ赤かだし、こりゃ「いやぁ、下半身の縦線みたいなアレもばっちり見たぜ!」とか、冗談も言えんな……いや、冗談じゃなくて半分は本当だけど。


 惜しいことに、その時はすぐ目を逸らしてしまった。

 ……そのことには触れず、俺はおもむろに切り出した。


「ところで可憐、おまえ、夏休みの予定はどうなってる?」


こちらでも、同じく一度だけお願いを。

……気が向いたらで構いませんので、よろしければブックマークや評価などお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ