恋敵というより、仇敵を見るような目つきで睨んでたわよ(絵里香ちゃん談)
幸い、基本的に孤独を好む絵里香ちゃんも、参加人数少ないこのイベントは気に入ったらしく、「面白そうじゃない?」と乗り気だった。
「ただ……妹さん、あたしを受け入れてくれるかしら」
なぜか、そんなことを心配する。
「いやぁ、あいつは俺以外には当たりが良いし、愛想もよいと思うけど。ていうか、絵里香ちゃんと妹って、顔合わせしたことあったっけ?」
「啓治くんのマンションに遊びに行った時に、二度ほど……かな。恋敵というより、仇敵を見るような目つきで睨んでたわよ」
「あいつがぁー?」
確かに、絵里香ちゃんと遊んでた頃と、妹がうちに来た頃は、一部重なってる時期がある。
「……そういや、その頃はちょうど俺に懐いてくれた頃だったかな」
「おにいさまをとらないでっ――なんて、幼女とは思えない、綺麗な字で書いたメモ書きを渡されたしね」
「えぇーーーっ!?」
驚くどころじゃないな、それ。
今のあいつからは、とても信じられん。
絵里香ちゃんは「ホントホント」と言いつつ、空になった缶を、そっちを見もせずに背後へ投げる。
これがまた、綺麗な放物線を描き、嘘みたいな精度で空き缶専用のゴミ箱にスポッと入るという……ちゃんと見てても難しいのに。プロの投手でも、こんなの無理じゃないのか。
「久しぶりに見たな、その神業」
ワンモアプリーズ、とばかりに自分の缶を押しつけようとしたら、唐突に了承してくれた。
「うん、決めた! あたしもお呼ばれするわ」
どこか吹っ切れたように絵里香ちゃんが微笑む。
「赤い糸の話を知る前だったら遠慮したかもだけど。もう遠慮しないことにする」
意味ありげな目つきで見られ、俺はにわかに緊張した。
「そ、そうっ。ありがとう、ははっ」
これは……実は妹の糸も小指に見えるとは、とても言えんよな。
「もう飲んだ?」
絵里香ちゃんの方から手を出してくれたので、俺は自分の空き缶を渡した。
「三つ向こうだと入る?」
ここから十五メートルは離れた、ポツンと離れて置かれたゴミ箱を指差す。
下手すると、女の人なら投げても届かない距離である。
「それだと、さすがに見ないとね」
なんて言いつつ、ロクに構えもせず、特に緊張感も見せずに投げてしまうんだな、この人。
しかも、どこにも掠らず、二度目も缶投入口のちっこい穴にすぽっと入れてしまう。
金が取れるレベルじゃないのか、この投げ技。
……まあ、他のいろんな秘密から比べれば、こんなのは絵里香ちゃんにすれば、大したことないか。
「帰宅するなら、送りましょうか?」
実際、何事もなかったように言われた。
おおざっぱそうに見えて、実はひどく気が利く絵里香ちゃんは、今回、最初から俺のヘルメットを用意してくれていた。
「また乗せてあげる時のためにね」
なんて言ってくれたが、嬉しいやら申し訳ないやら。
あと、前はそう意識しなかったが、二人乗りだとどうしても絵里香ちゃんと密着する必要があり、いろんな意味で意識してしまった。
なるべく触らないようにしようと思っても、向こうが「しっかり掴まってね」と言うしな。
女性の乗るバイクの後ろに乗せてもらうのは、想像以上に胸の鼓動が高まるもんだとわかったね。あと、絵里香ちゃんのウエストの細さに感動した。
どう見ても、胸の方は大きめなのに、実に不思議だ。
送ってもらったお陰で、かなりよい気分で帰宅した俺だが、鍵を開けて中へ入っても、妹がいる気配はなかった。
「……もう帰ってるはずだがな」
首を傾げ、一応俺はあいつの部屋を覗いてみる……と。
ぐったりとベッドに横になっているのを見つけ、慌てて枕元へ急いだ。
「おい、か――」
名前を呼びそうになり、慌てて控える。
どうも眠っているようだが……汗がひどいな。
しかも、帰宅してすぐにベッドに倒れ込んだらしく、制服着たままである……パンストまで、まだ穿いたままだ。
やっぱり起こした方がいいな。せめて着替えてから眠らないと、寝汗で風邪引くかもしれない。
「起きろ、可憐っ」
揺すってもなかなか起きなかったが、諦めずに続けるうちに、ようやく可憐が目を開けた。ぼおっとした目つきで俺を見つめ、「……お兄様」と小さい声で呼んだ。
汗まみれの顔でにこっと微笑む。
今更なんだよ、おい。だいぶ熱が出てるらしいな。