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オンライン結婚という誘惑(もしくは餌)



 あまりの驚きに着替えるのも忘れて、寝起きのままでずっとニュースを見ていた。


 そのうち、可憐や空美ちゃんも起きてきて、同じくびっくり顔でテレビの前にかじりつくという……朝食の時間にはうるさい可憐ですら、今回はテレビ優先だった。


 例によってテレビでは、テレビ局それぞれが勝手な予想を立てていたが、よほどニュースソースに自信があるのか、「拘束された二人がアメリカ大使館に滞在していたというのは本当だし、しかも彼らの身分はCIA職員だ」と断言口調で語るジャナーリストまでいたりして。




「CIA! CIAとかっ」

「す、スパイさんですよね?」

「びっくり。話がおおごとなのっ」


 三人揃って、仲良くびっくりである。

 ホント、朝飯どころの騒ぎじゃないぞ。


「こ、これって偶然じゃない……ですよね?」

「んな偶然あるかー」


 俺は可憐に言ってやった。


「もちろん、あのイヴが――て、その前にそこらにスマホないだろうな?」

 昨日のことがあるので、可憐も空美ちゃんも、慌てて確認してた。

 そばにないのを確かめてから、俺は断言してやる。


「そりゃもう、あのイヴが大嘘情報をリークしたかなにかで、尾行してた連中、二人揃ってとっ捕まったんだろうさ。自分の計画に邪魔だって理由じゃないか?」

「なにが邪魔なんです?」

「それがわかれば苦労はない。昨晩見た掲示板じゃ、ファウスト計画とやらがなんか関係しているらしいが……その計画のこともさっぱりわからんしなあ」

「でも、その計画を実行されちゃ困る人達がいるってことなのね? あるいは計画が漏れたら困る人達?」


 聡い空美ちゃんが鋭い指摘をした。


「全くだね……でもって、最新ゲームで緩く遊ぶつもりだった俺達は、日を追うごとにヤバい事態にずっぽり嵌まってる気がするね! 喜んでる奴も、役一名いるけど」 


 暗に高原のことを当てこすってやった。


「ネットゲームは、そもそも男女がオンラインで結婚して、ずっといちゃいちゃするのが目的だと聞きましたのにっ」


 可憐が珍しく膨れっ面で言う。

 前にも聞いたぞ、それ。


「目当ての誰かがいるのか?」


 俺が訊くと、なぜかお人形さんみたいに固まった。


「そ、それは――あ、電話です電話っ」


 ほっとしたように可憐が立ち、電話を受けに行く……しかし、すぐに緊張した顔つきで帰ってきた。


「あの……代表して兄さんに、だそうです?」

「代表? なんの代表?」

「だから、例のイヴさんですよ」

「……うっ」


 さすがにテレビを注視している場合ではなく、俺は立ち上がって電話の子機を受け取った。そのまま、少し可憐達から離れた場所に座ったのだが、どのみち可憐も空美ちゃんも、わざわざ俺が避難した場所に移動してきた。


 そして、がっちり左右に座り込む。聞き耳立てる気らしい。

 まあ、仕方ないか……俺得だし。




「も、もしもし?」


 おっかなびっくりで声を出したが、向こうは完璧な他人事トーンで語った。


『業務連絡です。ゲームの開始は、三日後の夜二十三時と決まりました。よって、辞退したい場合、今夜の二十三時までにお願いします。それ以降、必要な機材の発送に入りますので、辞退はご遠慮ください』

「待て待て、切るなよっ」


 自分の話が終わったらすぐガチャ切りするイヴに、俺は慌てて声を荒げた。


『なにか?』

「なにかじゃないよっ。怪しい健康食品のテレビショッピングじゃないぞっ。そんな簡単な業務連絡で終えるな! だいたいおまえ、いろいろヤバいことしでかしてるだろっ」


 俺が詰問すると、右横で可憐が「オンライン結婚のこと訊いてください」とひそひそ声を出した。

 別にギャグじゃないようだが……なに考えてんだ、こいつ? 

 危機に陥っても、どこかのんびりしているのは、いつものことだが。



『オンライン結婚、できますよ。どうぞ、ご自由に』



「いやそれはどうでもよくて――て、ええええっ」


 聞き流そうとして、慌てて俺は子機を持ち直した。

 イヴはちゃんと聞いてたらしい。

 ちなみに、今のイヴの返事を聞いたようで、可憐は空美ちゃんと同時に立ち、手を取り合って「やりましたね!」とか「わーい!」とか二人で言い合って、踊っているという……君ら、緊張感が足りなさすぎるだろ。


 二人は放置して、俺はイヴを問い詰めた。


「おいおい、ゲームって言うけど、本当にそんなゆるゆるのゲームなのか? これまでの出来事とか見ると、とてもそうは思えんがっ。レベル上げまくってギルドでドヤ顔して、挙げ句にモンスター退治してヒャッハーとか、そんな内容じゃ、絶対ないよな!?」


『それは違いますね、ええ。全然違います。ゲーム内で死ぬこともありますし。でもまあ、仮想現実なのだから、時間内になにをしようと、それはプレイヤーの自由です』

「死ぬって、ゲーム内の話だよなっ!?」


 慌てて俺が確認すると、AI女は実に微妙な返事をした。


『……ゲーム内で死ぬ人も、歴史上皆無というわけではありますまい? それに、最初のメールでも書きましたが、クリア目標は私を見つけることであって、モンスター退治してヒャッハーではありません。少しヒントをあげますが、私の真の目的を悟ってくれれば、なおいいですね。では、辞退したい時には、連絡先はわかりますね? 既に期限は設定したので、後はよろしく』


「あ、待て待てっ」


 慌てて止めようとしたが、今度は間に合わなかった。

 既に電話は切れた後である。

 俺は、ようやく踊りをやめて寄ってきた二人に「切れちまった」と呆然と言ってやった。


「なんですか、もうっ。わたしも質問ありましたのに」

「結婚ルートの話、くわしく聞きたかったの!」


 二人してブーイング飛ばす、可憐と空美ちゃんである。

 あまり似てない面が多いと思ったのに、呑気なのだけは共通するらしい。

 ていうか、二人してフラグ立てるのやめてくれと。


 そんなぬるい予想立てると、必ず外れて笑えない事態になるんだよっ。


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