だいたいおまえ、俺が知らないような能力あるだろ?
「わあっ」
俺は思わずスマホを放り出したが、無論、そんなことをしても問題の解決にならないのはわかっている。
「ひとまず、話がまとまるまで、みんなのスマホを向こうの部屋に置いておくか」
高原が提案し、俺を含めて全員が賛成した。
イヴと話すにしても、こっちの話がまとまってからだろうと。
盗み聞きされたら、たまらん。
全員、指でつまむようにしてスマホをテーブルの上に置き、それを高原がまとめて別の部屋に持って行った。
とりあえず、距離を置けばいくら何でも聞き取れまい。
「よし、十分遠ざけたから、少なくとも会話は聞こえないぞ」
戻ってきた高原が保証してくれた。
「ゆ、油断も隙もないな」
俺が愚痴ると、また斜め前に座った高原は、肩をすくめた。
「相手が人間なら文句も言えるが……そもそも向こうは、自称通りならAIだからな。情報を入手するのは当然、くらいの意識かもだ」
「そこだよ!」
俺はびしっと友人を指差した。
「謎だらけだが、あいつには謎の目標があるくさいのはわかる。ゲームが本当に実行されるのかどうかは置いて、選ばれた百人ってのが、なんらかの意図で実際に選別されたのも……まあ信じよう。しかしだよ」
とここで俺は、みんなを見渡した。
「たまたまその人選が俺達数名に集中したとして、なんで俺がメンツに入ってるのさ!」
顔をしかめて疑問を提示した。
「まず、高原はわかる。俺がなんか企むなら、やっぱり高原を選ぶような気がするしな」
「……ふ」
さりげなく相手が髪をかき上げたけど、きっぱりと無視。
「わたしは無視ですかっ」
右横からいきなり、可憐が不服そうに突っ込み、なおかつ肘鉄までくれた。
「げふっ」
こいつ、俺が何か言う度に肘鉄食らわすのは、癖なのかっ。
「今は高原の話だろっ? ちょい待て」
いつも極力隣に座るくせに、微妙に俺と距離を開けた可憐に言い置き、次に正面に座る絵里香ちゃんに目を向ける。
「絵里香ちゃんが打ち明けてくれたお陰で、今やみんなその出自を知っているけど、現実に彼女の身体能力はすさまじい。視力を含めて、全て。昼間に天をよぎる衛星が見えるってのも、俺は信じている。AIがどこからか絵里香ちゃんの出自を探り当て、その能力も知っているとすれば……そりゃ選ばれるのも当然だろう」
「ありがとう~。今後ともケージ君の役に立つわよ? どんどんあたしを頼ってほしいわぁ~」
なぜか絵里香ちゃんがにこやかにそう言ってのけ、俺は慌てて目をそらした。
ていうか、なんでそこで、ぴっちりセーターの胸を、両手で持ち上げるようなポーズするんですか?
焦るがなっ。
「あ、あと空美ちゃん」
俺は、左横でいつの間にか手を繋いできてた空美ちゃんを見た。
「これまた、前回のUFO騒動のせいでみんなに話したけど、空美ちゃんには超絶切り札のPKがある。しかも、実は空美ちゃんはコールドスリープ中に睡眠学習までしれっと実行されてて、めちゃくちゃ頭いい。これまた選ばれるのも、もっともだ……あいつが空美ちゃんのことを知ってたとして」
「にゃにゃ~ん」
なぜか本人が、めちゃくちゃ上手い猫の鳴き真似をした。
「空美は強い子よい子、かしこい子」
嬉しそうに俺を見上げ、左右の頬に手を当て、天使のような笑顔を広げる。
猫の鳴き声は意味不明だが、なにこの、可愛いい生き物っ。
思わず目を奪われそうになったが、俺はかろうじて右側の可憐に目を戻した。思った通り、俺が他を褒めまくるから、拗ねとる。
「あと妹だが、こいつは何をやってもほぼ万能だ。虫も殺さないような顔して、人間とは思えないような身体能力見せるし、成績は中学でも全国トップクラスだし」
「言い方はともかく、ホントにそう思ってます、それ? ていうか、運動神経は普通だと思いますが」
……運動神経普通の奴は、部屋で身軽に飛び上がって、気楽にスクリュー回転なかできるかって。しかも、水平に近い姿勢でっ。
おまえは少林○ッカーかでも目指してるのかと。
そういや忘れてたけど、こいつバック転とかも気楽にできるしな。
「なにうろたえてるんだよ、この際、謙遜はいらん」
「いや、謙遜ではなく、兄さんが本当にそう思っているのかと――」
「というわけで」
俺は可憐の発言をスルーして言ってのけた。
「こいつも、なにをやるにしても、メンバーに選ばれても不思議じゃない。だけど、俺が選ばれるのはどういうわけだ!? 薫みたいに選に漏れて当然だろうにっ」
俺が言い切ると、みんな得心したように考え込んだ。
それはそれで、なんかむかつくっ。考え込むなよ、くそ。
「でも、空美はおにいちゃんが参加しないなら、最初から参加する気ないのよ?」
空美ちゃんが繋いでいた手を持ち上げた。
「わたしもです、わたしもっ」
なぜかまた肘鉄をくれつつ、可憐が言う。
「いてっ」
手は、空美ちゃんが繋いできたんだっつーのに。
「あー、でもあたしもケージ君が参加しないなら、絶対断ってたわねぇ」
うんうんと絵里香ちゃんが頷く。どこまで本気か知らんが。
「だいたいおまえ、俺が知らないような能力あるだろ? ここらでゲロしろよ、親友」
……トドメに高原が鋭い突っ込みを! 最近、なぜか疑いを持っているようだ。
しかも、女の子達が一斉に俺に注目するというね。
「案外、おまえの選考ポイントは、そこだったりしてな」
「ねーよっ」
俺がすかさず言い返した。
「おまえなら、俺の普通人っぷりを一番よく知っているだろ?」
可憐に振ったが、こいつはなぜか首を振った。
「……そう思っていた時期もありますけど」
「実際にそうなのっ」
「ま、おまえがそう言い張るなら、そういうことにしとこう。今決めるべきは、参加するかどうかだろ?」
俺が白状しないせいか、高原はあっさり話を変えた。
「よくよく考えたら、参加するしかない」
むっつりと俺は答える。
「俺はもちろん、他のみんなだって、将来、下手したら死ぬかも? なんてあのクソAIに脅されてるんだ。あれだけのことがやれる奴なら、笑い飛ばすこともできん」
「そう思われるのが、向こうの狙いでもあるんだろうが……でもまあ、じゃあそこはもう決まりだな」
高原が嬉しそうに言いやがる。
「まともなゲームじゃないかもしれないかもしれないし、そもそもゲームですらないかもしれんが――それでも、俺達はイヴのイベントに参加すると」
「はいはい、そういうことだな。じゃあ、オンライン接続はその時にみんな集まってやるとして、今日は解散解散」
俺がヤケクソで立とうとすると、高原が止めた。
「待てって。まだみんなに見せておきたいものがある」
「重要なことだろうな?」
懐疑的な俺に、奴は言ってのけた。
「多分な。……実はネットに、選ばれた百人のうちの一人が、現れてる」