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ゲーム会社は関係ないという仮説

 念のために俺は、隅っこに連れて行った高原に尋ねてみた。


「さっきのがアメリカ大使館ってマジか? 本当は飲み屋の店名とかじゃないだろうな?」

「いくら仕事もたまにするとはいえ、高校生の俺が飲み屋なんか知るか」


 呆れたように見られた。


「だいたい、あんなデカい飲み屋なんかないだろ」

「そ、そうだけど……たまにスナックの店名に、大統領とかキャメロットとかつけるところがあると叔父さんが――いや、それはどうでもよくて、この際、ゲームは辞退した方がよくないか? イヴから聞いたことを話す前にいきなり意見するが」


 高原はすぐに返事をせず、なぜか自分のスマホ……というか、衛星携帯電話とも言うべき、ゴツいのを出した。

 そこで、画面にある写真を出す。


「返事の前に、これを見てくれ。戦利品だ」

「スマホは切った方が――て、わあっ」


 モロに馬鹿デカいUFOが写ってた! もちろん、最近地下で目撃した、ギーとやらの乗り物だっ。


「画像とかカメラは、あの時に全部破壊されたはずだろっ」

「念のため、事前にメモリーカードの一枚を、薄い鉛(なぜ鉛だよ)のシールで包んで飲み込んでおいたのさ」


 無表情で述べた後、真顔で訊いた。


「ちなみに……戻ってからどうやって取り出したか、知りたいか?」

「絶対に知りたくないっ」


 俺は一喝して、ため息をついた。


「……つまり、こう言いたいわけな? ここで退く馬鹿がどこにいる? と」

「おまえは、話が早くて助かる」

「満足そうに言うな! 長い付き合いだから、嫌でもわかる」


 俺は顔をしかめて考え込んだ。


「俺達が参加取り消しても、おまえは一人でもやらかす気だな」

「まあな。仮に死んでも恨んだりしないから、安心してくれ」

「そうはいかない。前にも言っただろ、おまえが行くなら俺も行くしかない。じゃあ、他のメンツがどうするかは、絵里香ちゃんが戻ってからだな」

「それでいい。俺も、全員に話しておくことがあってな」


 また気になることを言ってくれたが……そこで空美ちゃんと可憐が寄ってきたので、内緒話は終わった。


「なんのお話ですかぁ?」


 可愛らしく小首を傾げる空美ちゃんに、俺は両手を広げた。


「いやぁ、ゲームは辞退した方がいいんじゃないかって話してたんだけど」


 しかし俺は、唐突に思い出した。


「自分で言っておいてなんだが、しかし本当に辞退するのも問題あるかもな。電話してきたイヴによると、辞退すると必ず後悔する的なこと言われたし」

「えっ」


 空美ちゃんや高原はもちろん、きょとんとしてた可憐まで、いきなり背筋が伸びた。


「あの会話って、冗談ごとじゃなくて、本当だったんですか!?」

「おまえ、横で耳を澄ませてただけなのに、ちゃんと聞こえてるんじゃないか……そりゃ冗談の可能性がないとは言えないけど」


 俺は首を振った。

 でもこれまでのところ、あのイヴにジョークなんか言う性格が宿ってるとは思えない。


「とにかく、説明が二度手間になるから、絵里香ちゃんが戻ってきたら話そう。スマホ切ってからな!」


 俺はきっぱりと言い放った。





 やがてそう待つほどもなく、絵里香ちゃんがマンションに戻ってきて、俺達と合流した。

 既に高原達とソファーを配置し、コーヒーまで煎れて待っていた俺達を見て、彼女は目を丸くした。


「みんなで迎えてくれたのは嬉しいけど、なんだか深刻そうね」

「そりゃ、ただのオンラインゲームだと思ってたのに、なぜか大使館が絡むとなると」

「う~ん」


 絵里香ちゃんは俺の正面に座り、眉根を寄せた。


「車から降りた二人を、なんだか高官らしき人達が出迎えてたわよ。入り口でちょっと言葉を交わしたくらいですぐに全員で中へ入っちゃったけど、あの二人、立場的にはあそこでもお客さんに見えたけど」

「なんだろうな……じゃあ、別に大使館職員ってわけでもないのか」


 気になりはしたが、元より俺は外人さんなどとはほぼ無縁である。大使館がどうのとなると、お手上げだ。

 そこで謎の二人組のことは一旦置き、代わりにイヴから最後にかかってきた電話のことを話した――ほぼ全て。


 みんなしばらく黙っていたが、同じく斜め前に座る高原が、思い出したように教えてくれた。


「そういや、空いた時間にちょっとあのゲーム会社のことを調べてみたんだ。前にも話した通り、AIはそこそこ優秀なんだが……それ以外はホントに普通、いや下手したら普通以下のゲーム会社かもな。歴史も浅いし、資本金も少ないし」


 俺達は揃って顔をしかめた。

 どうも話が妙なことになってきた。


「そこでだ」


 高原が愉快そうに俺達を見回した。


「実はそれとなく出資をほのめかして、電話で直接、探りを入れてみたのさ。高校生の質問なんか本当ならシカトするだろうけど、高原家の代理としての俺には、ちゃんと答えてくれたさ。結果、意外なことがわかった」


 まるで気を持たせるように一拍置く。



「実はゲーム会社の方じゃ、イヴなんてAIは知らない?」



 あてずっぽで言ったのに、高原が苦笑した。


「先に言うなよ、おい」

「え、本当に知らないのかっ。早く言えよ、そういうことは!」


 単なる可能性のつもりだったのに、モロに当たって俺の方がたまげた。


「俺は場合によっちゃ本気で出資するつもりで、電話じゃかなり踏み込んだところまで話したし、質問もしたんだ。相手は向こうの社長だぜ? 出資の話に大喜びしてた彼の返事が嘘だっていうなら、あのおっさんはよっぽど演技が上手いか――それとも本当に知らないかだ。俺は後者だと思うね。わかる限りじゃ、財務状況だってあんまりよくないし。だとすりゃ、出資に飛びつくのも当然だ」

「よくわからないけど、なんだかいんぼーの香りがするのよっ」


 わくわく顔で空美ちゃんが言う。

 危機感足らんぞー。


「じゃあ、AIのイヴってのは、本当に自分の意思でこの件に関わってるのか? バックはいない?」

「わからんが、少なくともゲーム会社はあまり関係なさそうだ。その点じゃ、俺達は偽の誘導されている気がするね」


 高原はあっさり言ってくれた。


「今の俺は、あいつはエターナルキングダムというゲーム、あるいは会社を、単なる隠れ蓑にしてるだけだと思っている。本人が言う通り、本当に自主的に動くAIかもな」

「でも、ゲーム画面に表示が出ましたよ!」


 可憐がたまりかねたように発言する。確かに俺も、エターナルキングダムのゲーム画面で表示が出るのを見た。

 もう登録済みとかなんとか。


「相手は、都内の広範囲で故意に停電起こすようなスーパーAIだぞ? そんなことが可能な奴なら、こっそり俺達だけに違う画面を表示するなんて、簡単だと思わんか?」


 言われた俺はもちろん、絵里香ちゃんや可憐まで、そっと周囲を見渡した。

 どこかにイヴの目があるのじゃないか……思わずそう疑ったからだろう。


「まさかとは思うがっ」


 ふと閃いた俺は、慌ててスマホを出した。

 ……思った通り、一度電源切ったはずなのに、また勝手に電源が入っていた。 


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