ネットゲームといえば、イチャラブとオンライン結婚(だと思ってました)
話は決まったので、俺達は早速、元のマンション内に移動した。
最上階の部屋が開いているというので、またしてもエレベーターに乗り、屋上近くまで上がる。
幸い電気は回復していて、部屋の中に入ると、広さと豪華さにため息をつくだけの余裕があった。
「家具は最初からあるのなあ……しかも、ニ○リとは無縁な、ゴージャスそうな家具ばかり。ここの家賃とか聞きたくもないぞ」
「普通に買い取りもあるぞ!」
すかさず高原が教えてくれたが、借りられない奴が買えてたまるか。
「一万円のお部屋はどんな感じですかぁ?」
うきうき顔で空美ちゃんが訊く。
さっきも思ったが、本当に住む気満々だ。
「そこもこの下の階で、決して悪くないぞ。家具も完備だし、なんなら母親と一緒にすぐ引っ越してきてもいい」
「わーい! わーいっ」
万歳した空美ちゃんは、これまた本気で美人ママさんに相談しそうだが……ふへー。まあ、高原がマジなのを知る俺としては、止めたりしないけど。
「一万円のお部屋!? ここにそんな安いお部屋あるんですかっ」
きょろきょろしてた可憐が、俄然興味を持ち始めた。
「ホントはない。ただ、高原が安くで貸してくれるとよ」
「おう。身内価格でおまえ達は九千円でいいぞ。さっきも言ったが、条件はここがなくなるまでだ。ちゃんと契約書に明記しとく」
高原が大仰に頷く。
俺と同じく、こいつの大ボラ(に聞こえる話)は、ほとんどが本当であると知る可憐は、「えっ」と声に出して俺を見た……なぜか切ない目で。
「ど、どうしましょう、兄さん。たとえそこがワンルームでも、マンションの立地としては最高ですよね?」
……早速、その気になってからに。
「いや、ワンルームはないな」
高原が冷静に突っ込んだ。
「悪いがここのメインは4LDKだ」
「それが九千円!?」
「ああ」
そこでニヒルに笑い、可憐を見る。
「既に空美とあの銀髪さんが、確保した。おまえ達もどうだ? 二人が住むなら、俺もここに移るかもしれん」
……ていうか、空美ちゃんはともかく、銀髪さん(絵里香ちゃんだろう)と聞いた時のこいつの顔がまたっ。
たちまち険しい目つきになり、じろっと俺を睨んだ。
「兄さんっ、どういうことです!?」
「俺を責めるな、馬鹿。あ、ちょっと待て」
その銀髪さんから早速スマホに連絡があり、俺は画面を見た。
li○eに画像を載っけて、配信してくれたので
『向こうが黒塗りの車で移動しようしたんで、タクシーで追いかけたら、こんなところに入ったんだけど?』
とあるが……う~ん、ここどこだろう。
暗くてよくわからん。
「なんか、周囲の景色に見覚えがあるんだが。皇居とか近かったよな、ここ」
「どれどれ?」
「どれどれ~?」
高原に続き、相変わらず口調を真似っこするのが好きな空美ちゃんが、覗き込んだ。
すると、一目見た高原が、意味ありげに片方の眉をあげた。
「このゲームとやら、俺達が考える以上に問題アリらしいな」
「どういう意味だ?」
俺が尋ねると、高原はさらりと教えてくれた。
「わからんか? そこに写ってるのは、アメリカ大使館だ」
「……は?」
「はい?」
奇しくも俺達兄妹揃って、ぽかんと聞き返してしまった。
「聞こえたはずだろ? そのまんまだ。となると、さっきの連中は、少なくとも他国の人間ってことになるな」
「ちょ、ちょっと待て」
動揺した俺は、それでもスマホに慌ててこう打った。
この際、絵里香ちゃんが気づいて写真送ったのかどうかは、どうでもいい。
『急ぎ、さっきのマンションに戻るべし。作戦タイムが必要らしいから』
続いて入り口の暗証番号と、俺達が最上階にいることを知らせる。
危険はないとは思うが、そんな場所でうろうろしてたら、いいことなさそうだしな。
驚きからようやく回復した可憐は、なぜかまた俺に尋ねた。
「友達に訊いたところでは、ネットゲームというのは、気の合う男女が仮の姿のアバターでオンライン結婚して、ネットでイチャイチャして過ごすという内容のはずでしょう!? 話が違うじゃないですかっ」
「お、おまえな……」
なにその、中二男子が夢見そうなネタは。しかも、本気でむっとしてやんの。
おまえ、そういう目的でこっそり参加しようと思ってたんかーい。
「空美もそうだっと思ったのおっ」
空美ちゃんもか!
そりゃまあ、そういう遊び方もあるだろうけど。
「ネットゲームは遊びじゃないぞっ。戦いだ!」
「おまえはちょっと黙っててくれ」
高原に言い置き、俺は肝心な点を突いた。
「その知識教えたの、美奈子って子だろう? あの二人組が名前出した?」
「ま、まあ……そうですけど」
可憐が不服そうに頷いた。
「ヤバい連中に平気で情報洩らすようなダチは、さっさと切れ!」
「あ、あの子にだっていいところあるんですよっ。それにどうせもうすぐ、飛び級の選抜試験ですし」
「飛び級!?」
なぜか空美ちゃんが激しく反応した。
二人がやりとりするのを尻目に、俺は高原に目配せする……こうなると、ゲーム参加はやめた方がいいんだが。
でも、こいつは反対するだろうなぁ。