全員が確実に死ぬことになるでしょう
幸か不幸か、次の瞬間には一斉に明かりが灯り、デパートの屋上もたちまち明るくなった。途端に、大急ぎで俺から離れる可憐である。
……そんな急がなくても。
「兄さん、こんな場所でなにしてたんですかー」
しかも、なぜか尋問されるという。
だが今回ばかりは、俺もトボけるのをやめて直球で言ってやった。
「あのさ、例のゲーム、やっぱり別々にログインするのはやめよう。さもなくば、ゲーム自体を中止するかだ」
「は、はい?」
「知らないフリはよせって。既に冗談ごとのレベルは過ぎてるんだ」
珍しく厳しい口調だったせいか、なにか文句を言いかけていた可憐が、押し黙った。
「今更、なんの話かさっぱりだとか、そういう大嘘は言わないよな?」
「そ、それは言いませんけど……でもあのゲーム、なんの変哲もないオンラインゲームじゃなかったんですか?」
「なんの変哲もないオンラインゲームは、都内の停電実行なんかやらかさないし、怪しすぎるスーツ男が尋問に来たりもしないって。だいたいおまえ――」
俺はことの重要性を強調するように声を低めた。
「おまえをここで呼び止めたってことは、あいつら、おまえの後を尾行してたってことだろうが」
可憐は思いっきり顔をしかめた。
疑っていたけど、まさかと思いたかったらしい。
「じゃあこの停電って、気のせいじゃなくて、あのAIを自称する人がっ」
「その通り」
周囲の一般客達が、興奮気味に話すのを横目に、俺は頷いてやった。
意思を持つ自称AIとか、どこの売れないラノベだよと思ったが……ここまでやるからには、ちょっと大ボラの可能性は低くなった。
「しかもイヴとやらは、怪しい連中にマークされているようだしな」
言ってるそばからポケットのスマホが振動して、ぎくりとしたが。
「も、もしもし?」
用心深く出ると、普通にイヴだった。
『見ていただけましたか?』
……だから、非通知でかけるなとー。不気味だろうがっ。
「停電のことなら嫌でも見えたけど、あんたさ、何がしたいんだっ」
可憐の件で肝を冷やしたので、俺は遠慮なしにガミガミ言ってやった。
まだ周囲にいた連中がそっと見ていたので、さすがに可憐を引っ張って隅に移ったけど。
「停電で予期しない事故もたくさん起きただろうし、今なんてわけのわからん連中が、妹を尋問しくさったんだぞっ」
『右斜め上をご覧ください』
「はあ……?」
言われた通りに顔を上げて、俺は監視カメラと思いっきり目が合った。
「見てたって言いたいのか? ならなんとかしろと――」
『言うまでもありません。私にとっても、彼らは邪魔な存在です。存在を抹消することを念頭に、あらゆる手立てを打ちましょう。どうかご安心を』
文字通りの機械的な声に、正直俺はぞっとした。
いや、当たり前なのかもだが、人間味の欠片も感じられなかったからだ。
そういや、自称異星人のギーも似たようなことを口にしたことがあった。あいつもたいがいだったが、イヴとやらはそれ以上だ。
「おい、あんたなあ――」
人が言いかけてるのに、また遮られた。
『あの二人組の件については手段を講じますし、お詫びもしますが、どうかゲーム参加については辞退することのなきようお願いします。私がこれほど大掛かりな証明をしたのは、私の言うことに嘘偽りはないとわかって頂きたいからです』
「……意味がわからんけど? でも、それでもゲーム参加はやめると俺が言ったら、どうする!?」
思い切って尋ねると、イヴは淡々と吐かしやがった。
『どうもしません。ゲーム開始時点までに不参加を表明するのは、貴方の自由です。その意思表示が成された時点で、他の人を選び、新たに選ばれた百人とします。ただし、これだけは覚えておいてください』
イヴが一拍置き、これまた冷静この上な声で言いやがった。
『辞退すれば、近い将来、貴方はきっと後悔することでしょう……なぜあの時、私の要請を蹴ったのかと、慚愧の念にかられるはずです。それも運がよければの話ですが』
「う、運が悪いとどうなる?」
息を詰めたように聞き耳を立てている可憐が気になり、俺はどぎまぎと尋ねた。
『運が悪い場合、後悔する暇もありません。全員が確実に死ぬことになるでしょう。……では、意思表示はなるべく早めにお願いします』
「待て待て待てーーっ」
慌てて声を振り絞ったが、もう電話は切れた後だった。
「でもって、非通知で番号わからんしっ」
「兄さん、一体どういう」
可憐が俺に訊こうとしたが、ちょうど空美ちゃんと高原が屋上にやってきて、俺達を呼んだ。
「おにいちゃーん」
「おい、さっきの連中はなんだ? ヘリポートから見てたぞ?」
「あ、ああ、悪いっ。電話してる場合じゃなくてな」
俺は掻い摘まんで事情を説明し、絵里香ちゃんが連中を追いかけていったことを告げた。
「彼女は心配ないとして、今、イヴから電話があった。ちょっとみんなにも教えておきたいんで、場所を変えるか?」
さすがにこれは情報共有しないとまずい気がするからな。
俺がいつになく緊張しているせいか、空美ちゃんと高原は素直に頷いてくれた。
「なら、さっきのタワーマンションに戻って話すか?」
高原の提案に、俺はすぐに賛成した。
あそこなら、さすがにイヴも立ち聞きできないだろう……多分。
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……ラブコメを忘れずにいきたいところですが……ううむ。