いきなり口に含んで、念入りに舐められたあっ
ばっちり意表を突かれた俺は、しばらく返事もできなかった。
だいたい、昔から絵里香ちゃんにはこういう鋭すぎるところがある。
本人がそっと教えてくれたとこでは、異世界では「あたしは魔法戦士の家系に生まれたのよ」ということだが、俺はその出自は間違いなく真実だと思っているほどだ。
「やっぱり!」
俺の顔を見て、してやったりとばかりに絵里香ちゃんが笑った。
「俺、なにも言ってないけどっ」
言い訳しつつ、こりゃもう隠すのは無理だと思った。
ぐぬぬっと気合いを入れて見ると、絵里香ちゃんの右の頬に90という数字が見えた。地味に前より一つ上がっているが、ここで嘘をついた日には、この数字もダダ下がりだろうな……絵里香ちゃんは、嘘をつかれるのが大嫌いなので。
それくらいなら、「秘密だから話せない」と答えた方が、遥かにマシである。
「……でも、絵里香ちゃんには出自のこととか、故郷のこととか、いろいろ教えてもらったからな」
「そう、そうよ、わかってるじゃない!」
半分は心の中で考えていたことの続きを呟いただけなのに、彼女はあっさり、俺の呟きについてきた。むむっ。
「あたしの恥ずかしい話だっていっぱい教えてあげたんだから、啓治君も教えてくれないと」
いや、恥ずかしい話は聞いた覚えがないが。あえて抗弁せず、俺は妥協することにした。
つまり、全部白状せずに、赤い糸のことだけ話すと。そういうのが見えるようになっていて、絵里香ちゃんと俺は繋がっているのだ、と白状する。
……もちろん、エロとは無縁な荘厳な意味で。
「わかった、話すよ。だけど、間違っても気味悪がらないで欲しいな」
そう断りを入れ、赤い糸が見える話を披露した。
好感度数字化の話とか幽体離脱の話は、もちろん伏せておく。まあ、そっちは自分でも自信ないしな。
白状したところで、「さて、絵里香ちゃんはドン引きするか、はたまた信じられずに笑い飛ばすか?」と俺は身構えたが。
意外にも、どちらの予想も外れた。
絵里香ちゃんはなぜか恐ろしく真剣な目で俺を見つめ、無言のままで通した。
居心地悪くなった俺が話しかけようとすると、ふいにぽろっと左目から涙がこぼれた。
「な、なに泣いてんのさっ」
アヤ○ミもびっくりの反応に、俺は思わずアニメとほぼ同じセリフが出ちまった。
「え……あたし、泣いてる?」
むしろ不思議そうに訊き返し、目元をハンカチで擦る。
そのうち「やだなあ」とポツンと呟いた。
「心は大喜びしてるのに、不思議ね?」
じわじわと広がる笑顔に、俺はようやく安心したが、しかしその言葉の意味は計りかねた。からかわれているのかもしれず、本当なのかもしれず。
「この指?」
またふいに、絵里香ちゃんが俺の右手を握り、持ち上げて小指のあたりをしげしげと眺めた。
「赤い糸が、あたしの指と繋がっているのね? いつも途切れることなく?」
「そう……信じ難いことにね」
俺も釣られて自分の指を見つめ、なんとなく赤い糸そのものを目で追い、細くて長い彼女の小指に絡まっているのを、改めて確認する。なんという、芸術的な形の指!
小指の形ですらボロ負けしてるな、しかし。
「今、啓治君、あたしの目には見えない糸を、ずっと視線で追ってたわよ。わあ、繋がってるのね……本当に」
「繋がっているという言い方、やめてほしいかも」
「心が澄んでないと、えっちな意味に聞こえるのよ」
「なんだよ、それ?」
むっとして見返したけど、どうも冗談を言われたらしい。
涼しげな目元を綻ばせ、なぜか絵里香ちゃんが幸せそうに微笑む。
この人もしかし、糸を見たわけじゃないのに、俺の話を本気で信じてしまうのが凄いよなっ。普通こんな戯言、笑い飛ばすと思うんだが。
一人で呆れていると、いきなり彼女が俺の小指を口に含み、飛び上がりそうになった。
いきなり口に含んで、念入りに舐められたあっ。
「急になんだよ!」
「目で見えないなら、他の感覚ではどうかなぁって。でも、無理みたいね……」
肩をすくめ、俺を見て苦笑する。
「そう嫌そうな顔をしないでよ。バイ菌を伝染したりしないから」
「いや、そんな心配してないって。驚いただけ」
あと、俺の手はまだ放してもらえず、そのまま彼女の胸に抱え込まれてしまった。
少なくとも、赤い糸が繋がっているのを、嫌がっていないことだけは確かみたいだ。そこはほっとすべきか。
微妙に手に胸が当たってて、すげー気になるんだが。
「ところで、あたしになにか用事があったのでは?」
絵里香ちゃんに促され、俺は思わず自分に呆れた。
……そういや、用件をスカッと忘れてたな。
俺は今更ながらに、怪しいリゾートアイランドの説明をした。