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赤い糸の警告(か)?


 返答なし!


 途中から思い出して、スマホを出して同じく喚いたが、どうも肝心のスマホが不通の気がする。

 高原が暗闇の向こうで言った。


「もしかして、広範囲に電力遮断したせいで、スマホのネットワークもどっか不都合が出たんじゃないか?」

「えーーっ」


 空美ちゃんが不安そうに叫ぶ。

 樹海じゃ暗い中でも活躍してたのにと思うが、あれはあくまで非常時だからで、本来暗闇は苦手らしい。


 俺も得意ってわけじゃないんだが……可憐のヤツはさらに駄目だからな。

 こうなったら暗闇でもいいから、駆けつけてやるかと思った途端、ぱっとヘリポートが明るくなった。


 そして、またウィィィンとタワーの下の方で何かが動く音がっ。



「どうやら、自家発電が復活したらしい」


 高原の声を聞くなり、俺は空美ちゃんをそっと引き離した。


「空美ちゃんは、みんなと一緒にここにいてくれな。ここが一番安全だから」

「空美も一緒に――」


 言いかけた空美ちゃんは俺の顔を見て思い直したらしい。

 一瞬後には微笑して、頷いた。


「空美、良い子だから言いつけ通り待ってるのよー」

「うんっ。ごめんな! 絶対迎えに来るからっ」


 俺はほっとして空美ちゃんの頭を撫で、高原には叫んでおいた。


「先に可憐の様子を見てくるっ。他の二人を頼んだぞっ」

「気を付けろよ! 戻る時、入り口の暗証番号は2501だ」

「怪我しないでねっ」


 二人の声に片手を上げ、俺はヘリポートの鉄階段を駆け下り、屋内へ戻った。速攻、エレベーターのボタンを押そうと――したところが、後ろから手が伸びて先に押された。


「絵里香ちゃんっ」

「あたしは時々悪い子だから、ついていくわ」


 ウィンクなどして破顔する。

 いつもながら、男前すぎる……いや、女の子だけど。


「ここは、あの高原って彼がいれば余裕でしょう? なんとなく彼、大抵のことはなんとかしそうだし。仮に誰かに襲われても、結構戦えそうな気がするわ」

「当たってるよ、うん」


 その点、俺は高原と張り合う気もない。

 暗証番号がいかにアニオタテイストだろうと、あいつはただのオタクなんかじゃない。


 エレベーターに乗り込むと、また猛スピードで下り始めたが……一階に到着するまでの間、俺はひたすら、また電源が切れないことを祈っていた。




 幸い、ちゃんと一階まで無事に着いたのだが、今度はタワーマンションを出た途端に、また停電したらしい。

 振り返ると、復活したかに見えたタワーが、再び真っ暗になっていたからだ。


「うわ……空美ちゃんが怖がってないといいけど」

「心配する女の子が多くて大変ねぇええ」


 絵里香ちゃんが珍しくひねた言い方をする。


「で、あたしの心配は何番目なのかしらっ?」


 煌めく銀髪が耳に触れるほど、顔が近かった。


「いや、絵里香ちゃんはそう簡単に」


 俺が慌てて言い訳しかけた途端、ちょっとした騒ぎになってる歩道の向こうから、「人類滅亡だぁ~、ひゃっはー!」などと阿呆なコトを叫びつつ、肩を組んでゲラゲラ笑っている男二人が来た。


 予期せぬ停電と酒の効果で、ハイになってるらしい。

 絵里香ちゃんを見つけた途端、実に嬉しそうに近付いてきた……けれど。


「ねぇ~、彼女さ~」

「僕らと一緒に」


「……大急ぎで消えなさい」


 肝心の絵里香ちゃんがじろっと睨んだ途端、二人揃ってぶるっと震えた。

 一気に酔いが醒めたかのように青白い顔になり、慌てて大きく避けていった。言われた通り、ひどく急いで。


 なにこれ、眼力すげー。

 いよいよ俺の心配なんかいらないやん? まあ、さすがに口に出して言わないけど。


「さ、いこっ」


 これ以上邪魔が入らないうちに、俺は絵里香ちゃんの手を握ってクラクションが鳴りまくりの道路を渡る。

 思わず手を握ってしまったせいか、絵里香ちゃんはびっくりしたようについてきてくれた。こ、これは手を離すタイミングが難しいな。


 つまらないことを考えつつ、俺は真っ暗な中に佇むデパートへ駆け込む。

 その時だった……ふいに、小指がぐっと引っ張られたような気がしたのは。




「うっ」


 思わず立ち止まった時には既に収まっていたが、気のせいではない。

 今、確かに右手の小指が引っ張られた……しかも、一瞬だけ可憐の顔が浮かんだような。


「……どうしたの?」


 唐突に立ち止まったせいか、絵里香ちゃんが心配そうに訊く。


「な、なんでもないっ。とにかく急ごうっ」


 どうせエレベーターは動かないだろうから、俺は非常灯だけが灯るフロアを駆け抜け、階段の方へ急ぐ。

 絵里香ちゃんが「暗いから注意してねっ」と後ろから叫んだが、気もそぞろだった。


 赤い糸の奇妙な反応は、何かの警告のような気がしたからだ。


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