どこかで聞いたゲーム
一瞬、スマホから聞こえた声かと思ったが、その割には声が大きい。
俺を含めて全員がキョロキョロしたが、真っ先に高原が指差した。
「多分、さっき上がった階段脇に設置してある、スピーカーだろう。ビル内の全館放送のために置いてある。あくまで、非常用だけどな」
なるほど、言われてみれば、声は下から聞こえた気もする。
「それって、マンションの全館スピーカーを乗っ取られたってわけ? あたしは詳しくないけど、そんなこと、簡単にできるの?」
『簡単ではありません。ここのセキュリティーはそれなりに優秀でした。標準以上と言っていいでしょう』
高原ではなく、「声」が答えた。
『ただ、私にとってはさほど難しいことでも……思い出して頂きたいですが、私は人間ではありませんからね』
高原は下から聞こえて来た声に顔をしかめたが、特に反論しなかった。
やむなく、俺が大声を出して尋ねてやる。
「じゃあ、やたらと返事のタイミングが合っているのは?」
『監視カメラも借用しているからです』
高原を見ると、あっさり頷いた。
「場所は見つけにくいが、確かにある。これも非常用だが。しかし、俺達の声が聞こえるのはどういうわけだ? さすがに集音マイクはないぞ?」
『それも簡単です。樹啓治さんのスマートフォンの機能を借りているから、声もちゃんと聞こえます』
「なんとっ」
慌てて俺がスマホを見たが、もちろんそれだけではわからない。
電源が入ってるのを確認しただけだ。
しかし……思わずスマホを遠くに投げたくなったね。
「なんでそこまでするんだよ? 高所に呼び出すってだけの指示なのに、随分と手が込んでいるじゃないか」
『場所と時間をこちらで指定してもよかったですが、それでは皆さんが警戒し、拒否するかもしれません。そのような危険を冒すよりは、私がいかに真剣か理解していただく方がいいと思ったのです。だから私は、この街全域にあるカメラを総動員し、貴方達の動きを追っていました。これから起こることを、確実に見て頂くために』
「待て待てっ」
俺は慌てて割り込んだ。
「今から起こることって、なにか危険が――」
言いかけた途端、空美ちゃんが「ああっ」と声を上げた。
場合が場合だけに、飛び上がりそうになった!
『空美ちゃんっ』
俺と絵里香ちゃんの声が重なり、高原が鋭く「どうした?」と声に出した。
注目を浴びた空美ちゃんは、慌てた様子で手を振った。
「ご、ごめんなさぁい。猫ちゃんが下にいたから、つい」
さっき上がって来た階段を指差す。
俺は大いにほっとしたが、なぜか高原はまた顔をしかめていた。
どうした? と訊きたかったが、先に謎の声(イヴだっけか?)が続けた。
『これ以上の問題が生じないうちに、そろそろ始めましょうか。周囲もすっかり暗いようですし』
「おい、さっきの質問――」
慌ててまた割り込もうとしたが、声……イヴが先に答えた。
『危険はありません、少なくとも貴方達には。余談ですが、樹啓治さん。貴方の妹さんも、斜め前のデパート屋上にいますよ。やはり、メッセージに応えてくださったようです』
「えっ」
言われた俺は、小走り……は恐くて無理なので、そろそろとヘリポートを移動して、なるべく隅の方へ寄った。
イヴが教えてくれたデパートの方を見ると、おお確かにいた!
屋上に明かりがあるし、向こうの方がだいぶ低いので、余裕で見つけた。
なにやらそわそわした様子で、隅っこの方にいる。
俺達同様、周囲を気にしているようだ。
『納得頂いたところで、早速、カウントダウンを開始します』
「なにそれ、恐いんだけどっ」
「おい待てっ」
「なにが始まるのかしらっ」
「ロケット打ち上げみたい~。どどーん!」
俺以下、高原と絵里香ちゃん、そして最後に空美ちゃんのわくわく声が同時だった。
『10、9、8、7、6――』
それらの一切を無視して、機械的な女性の声がカウントダウンを続行していく。
「そういえば」
思わず固唾を呑んだその時、高原がふと思いだしたように呟いた。
さっと、全員が注目した。
「昔、妹と罰ゲームで青ヒゲ危機一髪をやった時、やはりカウントダウンをしてな」
「後にしろ、後にっ」
俺が思わず喚いた途端、イヴの声がした。
『――ゼロ』
ああ、先にトイレを済ますべきだったっ。
先週終了告知したお陰か、アイドル長編、PVがどっと増えて、評価もたくさん頂きました。
皆さん、ありがとうございます。
あちらはもう終了しているので、こちらでお礼を……かなりの数、読者さんが重なるでしょうから。
それと、ご感想もありがとうございます!
ちなみに、一つ終えたばかりですが、新たに「君と僕を隔てる時間の壁」という長編、始めてます。
ヒロインは空美ちゃんと似た特徴がありますが、空美ちゃんじゃないです。
こちらも、気に入って頂けたら、よろしくお願いします。