表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/159

無重力な悪戯

 教師に抱き締められたという驚天動地の直後のせいか、俺もだいぶ動揺していたが、それでも先生に捕まる前に高原にメールだけはしておいた。


 お陰で、昇降口の前で、本人が待っててくれたのはいいが……これがまた、すげー不機嫌な顔で仁王立ちしていた。




「おい、話があるから待っててくれというのはいいが、自分はHRをサボった挙げ句、今頃来るとは何事だ!?」


 そこで、わざとらしく声を大にする。


「どうしてそこで、俺もサボりに付き合わせるという、発想が出ないんだ!?」


 ……そっちかよ。

 まあ、こいつらしいが。


「あ、悪い……ちょっと先生に呼ばれてな」


 俺は慌てて言い訳したが、高原はなぜか鼻をひくつかせ、微妙な表情で俺を見た。


「おまえ、魔夜ちゃんとそんな関係だったのか?」

「――! いぎっ」


 幸い、そこらにいた他の生徒には聞こえなかったようだが、それでも俺は肝を冷やした。


「めったなこと言うな、馬鹿っ。本気にする奴がいたら、どうする!?」

「別に俺はどんな関係とも言ってないが、しかし彼女の香りが伝染してるぞ? 年上と逢瀬を重ねるのはいいが、おまえの場合、あちこちで問題が起きそうだよな」


 一転して愉快そうに言いやがる。


「いや、そんな話じゃない……た、多分だけど」


 途端にまたなにか言いかけたので、俺はわざとらしく本題に入った。


「それより、聞けって。実は絵里香ちゃんも謎メール仲間だったのが判明したけど、あの子の場合、余計な伝言まであったらしい。しかも、俺達宛に」

「……ほう?」


 よしよし、たちまち興味が移った感じだな。

 高原はこういうネタに弱いから、助かった。


「まあ、その辺をつらつら話すから、とりあえずとっとと学校を出よう」

「うむ。詳しく頼む」


 自分で宣言した通り、俺は高原に絵里香ちゃん情報をたっぷり聞かせてやった。


「実は、夜に入ったらすぐ、集まる約束をしているんだが、おまえも来るだろ?」

「もちろん行くが、集合時間までにだいぶ間があるだろ? おまえの場合、一旦帰宅したりすると、妹に捕まるんじゃないか?」


 すげー嫌な言い方だが、あり得る話だった。

 俺がどこかへ外出しようとすると、かならず行き先を気にするからな、あいつ。


「しかし、今回は大丈夫じゃないか? どうせ似たようなメールが、空美ちゃん達にも来てるだろ? ゲームでこっそり俺達のグループに入るという目標がある以上、あいつだって招待メールのことは秘密にしたいだろうし」


「……そもそもだ、これは当初考えていたような、普通のゲームかな?」


 高原はなぜか、俺がほのかに思っていた、そのままを口にした。


「それは俺も疑い始めてるけど、あのメールじゃ本人が『オンラインゲーム「エターナルキングダム」内に、私はいます』とか断言してただろ。そこがステージだとも」

「本当にそこをステージにするなら、おまえがメールで教えてくれた、『ゲームに必要な機材を送ります』なんて行為は、必要ないぞ? 俺も登録しようとして同じメッセージが出たんで、どうやら俺達は機材必須らしいが」

「……一般プレイヤーは、特殊機材なんかいらないってことか?」


 画面に出た謎メッセージを思い出し、俺は顔をしかめる。

 ちなみに、昨日の今日なので、もちろんまだ届いてない。


「いらないね」


 高原は断言した。


「後でゲーム系の掲示板で調べたけど、エターナルキングダムってのはAIがやたらと優秀って以外は、特に奇抜なストーリーでもシステムでもないらしい。PCかスマホと、ゲーム用のVRバイザーがありゃ、それで足りる」

「……なるほど、そりゃ怪しいな」


 さすがに俺も頷き、帰路に二人で話し合ったが……予想していたようなゲームじゃない可能性がある? 程度の推測しかできなかった。


 まあ、伝言で指示された通り、夜になれば高所に移動すれば、なにかわかる……かもだが。







 その前に、ひとまず夜まで休憩して、ちょっと食事でも……と思って帰宅したが、そこでいきなり俺は度肝を抜かれた。

 なんか今日は、朝から驚くことばかりだ。


 いや、「た、ただいま?」と用心深く声に出し、リビングへ入った刹那――突如として、俺の鼻先に大きな瞳がばばっと出た。 

 しかも、逆さ向きに!



「――ばあっ!」



「ひっ」


 我ながら情けない声が出たが、無理もあるまい。

 普通、幼女が重力を無視して、ふいに上から降ってくるとは思わない。

 ……しかもこの空美ちゃん、わざわざ自分の力で逆さに浮かんでいるんで、上から出現するまで全然気付かなかった!


「な、なんだっ」

「ごめんなさいぃ~」


 俺があまりにたまげたせいか、空美ちゃんは空中で器用に姿勢を変え、コアラあの赤ちゃんみたいに俺の胸に抱かれた。

 いや、当然のようにしがみついてきたので、それはもう支えるしか。


「あのね、多分おにいちゃんも同じメール来てるだろうから……空美はもう、ないしょはやめて、最初からおにいちゃん達といっしょにやろうかなって」

「あ、ああ……そういうことか。あの謎メールの話ね」


 だからって、いきなり帰宅直後に驚かさなくてもと思うが……それは空美ちゃんの愛らしさに免じて許す。とはいえ、ジーンズのショートパンツだったからいいようなものの、スカートで逆さだと、すげー格好になってたぞ。

 空美ちゃんは気にした様子ないけど。


「そうそう、そうなのっ。さっき、『夜になったら、なるべく高い場所に集まってほしい』って、不思議なメールも追加で来たのよ。だから余計に、おにいちゃんと行きたいなぁって思ったの」

「へぇえええ、空美ちゃんにも来たのか。俺、そっちは絵里香ちゃんからの伝言だったのにさ」


 してみると、別行動を阻止しようとしてるのかね……イヴとやらが。


「絵里香さんもメールメンバー? じゃあ、みんなで今夜、集まるでしょ?」


 わくわく顔で空美ちゃんが破顔する。ちなみに腕から降りる気はないようだ。


「それなら、空美もいっしょに行きたいのっ」

「いいよ、もちろん」


 危険はないだろうし、まあ反対はしないけど……やっぱりみんな、あの謎の指示は気になるらしいなあ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ