夜になったら高所へ……という謎のメッセージ
まあ、クラスメイト達への言い訳は後で考えるとして、俺は絵里香ちゃんを連れて、屋上へ至る階段へ退避した。
途中の段々に並んで座ったんだが……ここへ来るまでに、担任の先生を廊下で見かけたな。あれは、タイミング悪かった。
後でなんか言われるかもしれんなあ。
「……スキンシップ、いや?」
ふいに絵里香ちゃんが尋ねてきて、俺は反射的に断言した。
「スキンシップ、大好き! ただまあ、校内ではいろいろ厳しいかな」
「あたし、あまり他の人は気にしない方だから、つい……ごめんねぇ?」
「いいんだよ、そんなの。よく考えたら、人目を気にしすぎるのって、あんまりいいことじゃないかもしれないし」
ところで――と俺は、ささっと話を変えた。
「絵里香ちゃんにも招待が来てたんだ?」
「そう! しかもあたし、ケージ君への伝言を受け取ったわよ?」
「伝言!?」
意外な話に、俺は思わず立ち上がりそうになった。
「伝言って、誰から?」
「知らないけど、本人はAIのイヴだって名乗ってたわね。警告を兼ねて、人類に挑戦するとかなんとか……」
「人間に挑戦云々は俺もメールで読んだ気がするけど、はっきりとAIだと正体をバラした挙げ句、名前までとは」
俺は眉をひそめた。
「他には?」
「夜になったら、なるべく高い場所に集まってほしいって。彼女――そのイヴが、なにやら見せたいって」
「……夜に、高い場所へ来いぃぃぃ?」
またまた、謎なことを。
もしや、「後でトイレに顔かせ」的なアレじゃないだろうな? それとも、これはただのゲームじゃないって言うのか?
「ねぇ、ケージ君達は誰が招待受け取ったの?」
絵里香ちゃんに訊かれ、俺は今わかっているだけのメンツを教えた。
「考えてみりゃ、今のところは薫以外、知り合いにはだいたい来てるんだよなあ……あ、でも鈴木と工藤は来てないかもだけど」
来てたら、とうに教えてくれただろうし。
「なんらかの理由で、あたし達を狙い撃ちにしてる?」
「あ、実は俺も同じ疑い持ってた……でも、それならもっとこっそりやるんじゃないかな」
「ケージ君は、参加するのよね?」
「まあ……さっき話した通り、妹と空美ちゃんが、こっそり参加するつもりらしいし。元はと言えば、俺が黙ってたせいだけど」
「そう! それならあたしも参加するわねっ」
なぜだか嬉しそうに宣言したかと思うと、ただでさえ距離が近いのに、ぴったりくっついてきた。
胸が、腕に当たってるがなっ。
「な、なに!?」
「別に……今は誰も見てないし、大丈夫でしょう?」
「そ、そうだけど……ははっ」
実はさっきチャイムが鳴ったんだが……まあいいか。
なんとなく絵里香ちゃんと離れるのが惜しくなり、スキンシップに弱い俺は、速攻、サボりを決めた。
だいたい、登校日とか無駄だ、無駄。
「時に……クラスの担任の先生とさっきすれ違ったわよね?」
ふいに絵里香ちゃんの声のトーンが低くなった。
「え、なんで絵里香ちゃんがうちの担任を知ってるのさ」
「あたしも不思議なんだけどっ」
なぜか腕を抱え込まれ、じろっと睨まれた。
「職員室に挨拶に寄った時、わざわざあの人に名乗られて、じろじろと見られたんだけどっ。あたしが!」
「えぇえええ!?」
俺は知らない、知らないぞっ。
「担任の魔夜ちゃんとは良好な関係だけど、それは全然心当たりぐわあっ」
語尾が途中で悲鳴になったのは、いきなり肘鉄食らったからだ。だからこの人は、自分の剛力を自覚しろとっ。
「なにっ!?」
「別に。ただ腹が立っただけ……なんでちゃん付けなのかしら」
珍しくつんとそっぽを向いて、そんなことを言う。
「さすがに教師は、年上すぎない?」
「いや、ただの愛称だって! だいたい、途中から話題が逸れてるしっ」
俺は横腹をさすりつつ、大いに抗議した。
「それより今は、その呼び出しの方が重要だろ? 高原にも声をかけて、言われた通りにしてみよう」
なんだか……この呼び出しは、妙に気になるからな。