即座にあたしを見つけられるような、驚きの秘密があるんでしょう?
「いやいやっ。ははっ、じゃないだろっ」
「心配すんな」
剛胆で知られる高原は、大仰に両手を広げた。
「前オーナーだけが呪われただの、幽霊を見ただの言ってるだけで、別にモノホンのゴーストがいるって証拠はないんだ。大改装して城内も綺麗になったし、大丈夫じゃないか? それに――」
「それに?」
「……さっきも言った通り、おまえの妹も一緒に連れていけばどうだ? 夜の島内散歩の途中、幽霊話をしてやって、二人の仲が急接近という、古典的な手もあるぞー」
意味ありげに俺を見る高原である。
「妹に限らず、他に女がいれば、そっちでもいい。もちろん、両方連れてきてもいいぞ」
「むうっ」
こいつは、俺の妹が「義妹」であることを知る、数少ない友人だが……どういう理由で今、そんな話を持ち出したのかは、わからない。
ただ――それまで他人事みたいに聞いていた俺は、俄然、その気になってきた。
なんというか……そう、恐怖映画を女の子と二人で観に行く計画的な感じで、これはこれで、アリじゃないかと思えてきた。
「うちの妹は、恐がりだからなあ。よほど上手く持ちかけないと、とても一緒に来ない気がするが」
「いやぁ、大丈夫だろう」
他人事だと思って、高原はあっさり言ってくれる。
「だいたいあの子は、おまえにベタ惚れだと思うぞ。熱心に誘えば、最後は来るさ」
やたらと確信ありげに言いやがる。
「おまえがうちの妹と顔合わせたのって、これまでに何度かうちに遊びに来た時だけだろ? それだけの記憶で断言できることかぁ?」
「俺にも妹がいるからわかるさ」
「あー……エラく傲慢だとかいう」
会ったことないが、確か高原本人がそう言ってた記憶が。
「今回は一緒にくるのか、その妹は?」
「できれば置いていきたいが、まあ来るだろうな」
嬉しくもなさそうに高原は肩をすくめた。
俺と逆で、どうやら妹の方が兄に熱を上げているらしい……いや、俺だってそのはずなんだが、表だっては嫌みしか言わんからな。
「わかった。とにかく話はしてみる。それと、他に心当たりもあるんで、そっちも訊いてみるよ。最悪でもどっちか来てくれたらラッキーだし」
「おお、いつのまにか他に女ができたのか。どんな子か、楽しみにしてるぞ」
ニヤッと笑う長髪イケメンの高原である。
こいつは割と友情に厚いヤツなので、あからさまに狙ったりしないだろうが――逆に、妹や絵里香ちゃんが高原になびいたりしてな。いや、逆にもなにも、高原は成績やら家柄のスペックが高いし、実際モテる男だからなあ。
一抹の不安はあるものの、俺は高原に、近々確かな返事をすると約束しておいた。
そうと決まれば、早速、打診である。
絵里香ちゃんの住所は聞いているが、いきなり家に押しかけるのも少しためらいがある。幼馴染みとはいえ、幼少の頃に期間限定で遊んだ程度の仲だからな……とはいえ、俺が最初に出会った時、絵里香ちゃんは自殺寸前だったので、出会いのインパクトだけは抜群だが。
思い出して、また気合いを入れて小指を見ると、(おそらく)絵里香ちゃんと繋がっている方の赤い糸が、いつもより輝いていて、しかも糸自体がやや太くなっていた。
最近、ようやくわかったことだが、これはごく近くに当人がいる証拠である。
俺は素直に糸が指す方向へと足を運び……そして、歩道と並行して通っている高速付近で、なんと本人に呼ばれた。
「――啓治君!」
「えっ」
顔を上げると、パーキングエリアの隅っこに立った絵里香ちゃんが、こっちに手を振っていた。例の黒バイクも横に止まっている。
どうも、バイク走行中に休憩していたらしい。缶コーヒー飲んでるしな。
俺は手を振り返し、小走りに駆けていった。
ここのパーキングエリアは、歩道の方からでも、自動販売機や売店が並ぶ方へ入れるのだ。
「また凄い偶然だけど……もしかして今、あたしを探してた?」
真紅のライダースーツが眩しい絵里香ちゃんが、不思議そうに小首を傾げる。
いつもながら鋭いな、しかし。
「いや……まあ、ひょっとしたらと思って」
俺が曖昧に笑うと同時に風が吹き、絵里香ちゃんの長い銀髪が格好よくなびいた。もうホント、あらゆる意味で格好いい女性だな、しかし。
「ひょっとしたらと思って、ね。……ふぅん?」
こればかりは俺と同じ黒い瞳が、こっちの心底まで見透かすように見つめてくる。
思わず目を逸らすと……ライダースーツを景気よく押し上げる、胸の曲線に視線が固定してしまった。
まさか視線を避けるためでもないだろうけど、絵里香ちゃんは唐突に踵を返し、自動販売機へ向かう。すぐに、自分が飲んでるのと同じコーヒーを買ってきて、渡してくれた。
「はい、どうぞ。これ、美味しいわよ」
「やあ、悪いなあ」
代金を払おうとすると怒られるに決まっているので、素直にプルトップ開けて飲む。途端に、絵里香ちゃんが俺のふいを突いた。
「実は、即座にあたしを見つけられるような、驚きの秘密があるんでしょう?」