あんたもかい!
しかしいずれにせよ、可憐や空美ちゃんも参加する以上、もはや俺に中止の二文字はない。そこで、眠る前にまず話題のオンラインゲームのサイトへ飛び、正式に登録しようとしたのだが……途中まで必要な情報を打ち込んだところで、いきなりメッセージがっ。
『限定招待メンバーの樹啓治様。貴方は既に登録済みです。このサイトにアクセスしていただいたことで本登録となったので、早速、ゲームに必要な機材を送ります。しばしお待ちください』
「なんですと!?」
素っ頓狂な声を上げた俺は、思わず振り返って室内を見渡した。
いや、なんかどこかで監視でもされているのかと。
もちろん、誰もいるわけがないが……それにしても、いきなり画面一杯にメッセージ出すなよ、びびるだろ?
「ま、待て俺……そうだ、ここからメールが来たとすれば、俺が登録しようとした時点で、反応あっても不思議じゃないな、うん」
俺は独り言を述べ、「ならまあ、苦労がなくてよかったね」というコトで、そのまま眠ることにした。
ただし、俺があえて深く考えないようにしていたことがある。
この案内文、俺が自分の住所なんか一切打ち込まないうちから、既に「必要な機材を送ります」とメッセージが出たような。
……どうやって、うちの住所を知ったんだろう。
まあ、明日は登校日だし、高原ともじっくり話し合うか。
翌日、夏休み期間における最大の厄日、登校日となった。
可憐の中学は明日が登校日だし、空美ちゃんはまだ、新たな小学校に編入前である。そこで、一人寂しく朝から外出したのだが……なぜか可憐と空美ちゃんが、二人揃って見送ってくれた。
「兄さん、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃいなの~!」
「お、おお……いや、わざわざどうも」
なんか笑顔全開で手まで振ってくれて。
もしかして、例のゲームのメンツに選ばれたことで、二人してこっそり共闘でも決めたのだろうか? 空美ちゃんはまだ確かなことはわからないが、多分昨日の歓声からして、同じメールが来てるだろうしな。
ま、まあ、二人で共闘するなら別にいいけど。
俺はあくまで、知らんぷりしとくか。
うちのクラスは真面目な奴が多いのか、教室に入るとほぼ全員がいて、いつもはサボる高原ですら、ちゃんと登校していた。
もちろん、メガネの鈴木や、ひょろっとした工藤は言うに及ばず。
「おー、久しぶり!」
「リゾート以来だなぁ」
「ごぶさた~」
俺も、鈴木達に無駄に愛想を振りまく。数少ないプチ友人だしな。
「俺は、サボるつもりだったんだが!」
……高原だけが迷惑そうに言いやがる。
まあ、昨晩俺が「明日相談しよう」的なことを電話で話したからな。
「そう言うなって。ちょい話し合った方がいいと思ったのさ」
俺がぶすっと言い返した途端、なぜか高原が明後日の方を見て微かに頷き、鈴木達はポカンと口を開いた。
なんだよ? と尋ねる前に、ふわっと俺の後ろから誰かが覆い被さる。
う……この香りと視界の隅に見える銀髪はっ。
「時よ止まれ! 君は美しい」
耳元で囁かれたっ。あんたもかい!
いよいよ俺達、狙い撃ちにされてないか……て。
絵里香ちゃんを振り返ると、驚くべきことに今日の彼女は、うちの高校の制服姿で立っていた!
「制服、届いたんだっ?」
「ええ。本当は今日はまだ登校しなくていいってことだったけど、せっかくだから顔を出してみたの」
「へぇぇえええ、めちゃくちゃ似合うよ、うん」
そもそも、同じ高校生に見えないっ。まさにパリコレのモデルかと。
うちの制服はブレザータイプだけど、絵里香ちゃんが着ると絵になるなあ。
それはともかく、そこで俺やようやく、クラス中の視線をばっちり集めていることに気付いてしまった。
ていうか、よく考えたら、普通の閉鎖的な日本人高校生は、こんな豪快な挨拶を受けたりしないわなっ。
初対面でもないのに、鈴木達なんか親の敵みたいな目で俺を見やがるし、高原は面白がって、「これは、劇的に噂が広まるな」なんて、無責任に言いやがる。
俺は慌てて絵里香ちゃんを促し、その場を後にした。
「は、ははは……この子、転入生の先輩で、ちょっとした知り合いなんで。外人さん的挨拶がデフォの人なのでその」
歩きながらわざとらしく言い訳したが、誰も聞いていなかった気がする。
ケージの学校の制服、最初と設定を変えてます。
……というか、諸般の事情で、変えることになりました。