また絵里香さんとなにかするっていう話では?
夕飯は中華料理のフルコースみたいな感じで、俺も空美ちゃんも満足して食事を終えた。
空美ちゃんのためにも、可憐が腕を振るったらしい。
ただ、その後で決定的な事件が起きた。
可憐と空美ちゃんが、二人して炊事場で食器を洗っている時に、俺のスマホに電話がかかってきたのだ。
テレビニュースを見ていた俺は、相手も確かめずにさらっと出たのだが……いきなり聞き慣れた声がした。
『時よ止まれ! 君は美しい』
「――っ!」
思わず絶句したのは、「マジかっ。こいつもか!」と思ったからだ。
お陰で反応が遅れたが、かろうじて「な、なにかなぁ、それは?」とトボけはした。……もう全然遅かったけどな。
『遅い遅い、遅いぞ、ケージ。やはりおまえにも謎招待メールが来てたかっ』
高原が勝ち誇ったように言いやがる。
「……ということは、おまえもか」
観念した俺は、小声で返した。
『おう。なにが「選ばれた」だ詐欺メールめがっ、と思ったが……ググったところでは、本当に当選した奴は少ないらしい』
「断言できるか?」
『できるさ!』
いつもながら、不思議な自信に満ちた声で言う。
『もしあのメールが、考えなしで数千とか数万単位で送られていたら、内容でググって出て来た件数が二件てことはない。俺達が最初の二人でもない限りはな』
「なるほど……しかし実際、メールにあったゲームタイトルって、どうなんだ? メシ食ってから調べようと思ったが、俺は聞いたこともないぞ?」
『俺もだ。そこで早速調べたが、まだ去年に創設されたばかりの新興企業だとさ。ただし、全くの無名じゃない。既に奇妙な噂が広がっている』
「というと? もったいぶるなよ!」
『実は今、来週から始まる予定のオンラインゲームのβテスト期間中なんだが、一部のNPCキャラが、やたらと人間くさいって評判になってる』
「……そのゲームってもしや?」
『そう、メールにあったエターナルキングダムだ』
「実在したのか……じゃあ、あながち嘘メールでもないんだな」
『それはまだわからんが、面白そうじゃないか。どうだケージ、俺とパーティー組まないか?』
あっさり誘われた俺は、ちょっと考えてしまった。
……こいつは、もれなくゲームも得意で、「いつ練習してんだよ、おまえ!?」と思いたくなるような腕前なのである。
さすがにオンラインゲームの方は知らんが、多分不得手ってことはないだろう。
そんなスーパープレイヤーと組んだら、ヘボい俺はあんまり楽しめないなぁと……考え込んだ途端、高原がこっちの心を読んだように言いやがる。
『一人プレイより、二人プレイだろ? 俺と組めば、レベルアップも早いぞ?』
「た、確かに」
俺は渋々認めた。
「だけど、あのメールを読む限り、向こうの望みは『潜んでいる自分を見つけるべし!』ってことだろ? レベルなんか関係あるか?」
『低レベルじゃ行けない場所だってあるんだから、そりゃ関係ないとは言えないさ』
「むう……言われてみれば」
答えた途端、ちょうど可憐と空美ちゃんがリビングに戻ってきた。
やべー、バレるやん。
俺は慌ててソファーに座り直す。
「おほんっ。じゃあ、また明日そのことで話そう。一応俺としちゃ、賛成な。では!」
バレたら台無しなので、そのままぱっとスマホを切ってやった。
後は何事もなかったようにテレビニュースに戻ったのだが……なんか周囲が静か過ぎるんで、こそっと入り口の方を見ようとしたら――
「わあっ」
自分の顔のすぐ横に、可憐の顔が来てて、死ぬほどびびった!
「な、なんだよっ」
「いえ……今の電話、高原さんですね?」
「なんでわかる!?」
「だって、兄さんのスマホに電話かけてくるの、95パーセントくらいはあの人ですし」
失礼なっ。
最近は絵里香ちゃんだってかけてくるわいっ。
そう思ったが、俺は余計なことは言わず、「まあ、例によってメシを食いに行こうとか、そういう類いの話さ」とごまかしておいた。
ところが……さらに可憐の後ろに空美ちゃんがいて、真っ黒な瞳でじいっと俺に注目してやんの。
うわぁ、この子に嘘は通じない気がするぞ……多分。
おまけに、可憐が益々怪しみ、わざわざこっちの耳元で囁きやがる。
「本当は、また絵里香さんとなにかするっていう話では?」
「違うわっ」
こればかりは自信を持って否定したが……なんかアレだな、最後は結局、バレそうな気がするな。
できるだけトボけるが。