ギー太の方がかっこいいのよ?
「君だって、僕らの船に滑走路が必要だと思ってるはずないと思うが?」
冷え切った声で答えたモドキは、ふいにあらぬ方を見て、口を半開きにした。
うわ、そんな顔するのな、こいつでも。
「て思ったら、そこぉ!」
俺まで呆れて、びしっと指差した。
皆が一斉に見た先には、このどデカいUFOをバックに、スマホで自撮りを試みる薫が立っている。
スマホを握った手を思いっきり斜め上の方に伸ばしているところを見ると、UFOを背景にして、記念写真を撮りたいらしい。
「……えっ?」
ベストな角度を決めかねていたこいつは、俺の指摘にきょとんとしていた。
「な、なにかしらっ」
「なにかしらじゃないっ。今そんなことしてる場合じゃないだろ!」
「えー……でも、お兄様(高原の方な)がいるから、まず大丈夫だろうし……生涯一度の機会かもしれないから、写真撮ってイ○スタに上げるしかないでしょう?」
ああ、リア充はだいたいみんな、そのインス○に写真上げまくってるなっ。どうせ俺は、アカウント持ってないさ。
俺が皮肉な思いに浸った瞬間、また激しい爆音が上でした。
今度はかなり近くて、油断していた薫なんか、きっちり尻餅ついて「痛ぁい!」なんて悲鳴上げてた。
まさに自業自得っ。
「……死が迫っているのに、君達ときたら」
自分も今、密かにコケそうになったくせに、モドキが深いため息がつく。
「もういい……船の中央下に集まりたまえ。僕が強制的に逃がす。一度関わってしまった以上、仕方ない」
「きょ、強制的にって」
なんかもう足音すら微かに聞こえるような状況の中、俺は慌てて確認する。
「アンドロメダ星雲とか、そんな場所じゃないだろうなっ」
「君、ありたっけの知識を総動員して、今思いついた一番遠い場所がそこかい?」
くっ……バレたぜ!
「しょ、しょうがないだろっ。人類はまだ、月にしか降りたことないんだからっ」
「一般人がそう思ってるだけだ。君らのうち特権階級は、密約のお陰で、既に火星にも降りてるさ」
「待て!」
密かにスマホを向けていた高原が、鋭い声を上げた。
ちなみにこいつは撮影じゃなく、音声を録音してたらしい……兄妹そろって油断ならないにもほどがある。
「聞き捨てならんぞっ。するとネットに出回っている情報の一部は本当だった――」
「話は終わりだっ」
今度は随分ときっぱりした口調でモドキが宣言した。
「今ここで逃走するか、それともここで爆死を選ぶかだ。いずれにせよ、僕は勝手に行くよ。ここの後始末も残っているからね」
言うだけではなく、さっさと歩きはじめる。
こうなると、俺達もついていくしかない。どうもこいつ、本当にUFOに搭乗する気なのか、浮いてるUFOの下を歩き、中央部分を目指している。
万一を考え、俺は「つ、ついに空美もUFOに乗るのよっ」とわくわく声で呟く空美ちゃんを抱き上げた。なにかあった時、俺がクッションにならないとな。
「わたしは放置ですか、わたしはっ」
可憐が膨れっ面で主張して驚いたが、「背中が空いてるからおぶさるか?」と言ってやったら、本当におぶさってきたので驚愕した。
「ま、マジだったのか」
「生き死にがかかってますから、遠慮しませんっ」
「じゃあ、年長のあたしは我慢して、腕組みで許してあげる……今日のところは」
絵里香ちゃんまで!
ていうか、さすがに女の子を前と後ろに抱えてると、めちゃ重いっ。嬉しいけど、重いのは否定できない。
おまけに絵里香ちゃんの腕の抱え方のせいか、彼女の胸に腕が当たって、すげー動揺する。これ、絶対にわざとだと思うぞ。
いや、文句なんか全然ないけど。
「正直……おまえが一番、ナメた態度じゃないのか?」
女の子まみれの俺を見て、高原が醒めた声で指摘する。
こいつにだけは、言われたくなかった。
そこで薫が高原になにか言いかけた途端、本当に足音が複数して、見覚えのある低身長の黒服共があの入り口から入ってきた。手に武器みたいなのを持ってるし。
「ギリギリか……君達は悪運が強い」
モドキがエラそうに呟いて立ち止まったが、そんな場合じゃない。
連中、俺達全員をまとめて指差して、一斉に手にした「何か」を構えたからだ。どうせあれも、武器なんだろう。
「お、おいっ。余裕ぶっこいてないで急げ、モドキ!」
「モドキじゃないっ」
不機嫌そうに言い捨て、こいつは俺を真っ直ぐに見た。
「すぐ中に転送するから、安心したまえ。あと、僕の名前はギーだ」
「ギー太の方がかっこいいのよ?」
空美ちゃんがすかさず意見した刹那、周囲に黄金の光が満ち、間を置かず、俺達は目の前が真っ暗になった。
多分、ほぼ同時に、あの黒服共がヤバい武器を発射した気がするが……その後の顛末は観ることができなかった。