今更の、第一種接近遭遇
だが、うろたえるとみんな心配すると思い、俺はやむなく、着実に下りることに専念した。
下の女の子達も、やはり薫がどうなったか気になると見えて、少し下りる速度が上がっている。
俺は「急ぎすぎて落ちないようになっ」と声をかけたのだが、言ってるそばから(下から)二番手だった絵里香ちゃんが、五メートル以上も残して華麗にジャンプした。
ま、まあ……あの人は大丈夫だろう、うん。
それより、絵里香ちゃんも薫と同じく、横の通路に向かって駆けていくという。
だから、そこで待てとあれほどっ。
俺は内心でぶつくさ言いつつ、ようやく最後に最深部についた。
ちなみに、俺を待っていたのは可憐と空美ちゃんだけだった。
「あっちなのよ、おにいちゃん!」
「向こうです、兄さんっ」
二人して同時に指差してくれたが……言われるまでもなく、他の全員の背中が見える。みんな唯一の通路をその先まで行って――何かを見つけたらしい。
ものの見事にみんな立ち尽くしているな。
なにを見ているかはわかる気がしたが、俺はあえて何も言わず、「じゃあ、俺達も行こうっ」と声をかけ、三人で歩き始めた。
そして……おお、こりゃ確かに固まるわー。
意外にも、球場ほどの広さがある長方形の空間で、ここも銀色の金属壁に覆われている。
しかし、驚きはそこではなく、その中央に三角形の黒い物体があったことだ。アメリカの爆撃機に、こんなのあったような。
円盤形じゃないけど、おそらくこれもUFOだろう。
なぜわかるかというと、宙に浮いているからだ! しかも、かなりデカいっ。
ほぼこの空間を占有していると言っても過言ではない。
「やっと空美も、第一種接近遭遇なのよっ」
空美ちゃんが感動したように声に出した。
第一種は確か、すぐそばでUFO見たって分類か。
「あ、ああそうか……佐々木モドキと話した俺は、既に第三種クリアなのなあ」
いや、感心している場合じゃないけどな。
ここにあると転送された知識で知ってたので、心構えはできていたが……しかし、本当に見つけると、驚くぞ。
もちろん、ここへ来る前の晩にも見てるけど、ありゃあくまで飛来してたヤツだからな。これは眼前すぐそばにある。
それこそ手を伸ばせば触れそうな――うわあっ。
「よっと!」
……ナメたことに、高原がつかつかと翼? に当たる下まで歩き、垂直跳びでそこへタッチした。
よく届いたな、おいっ。かなり高いのに。
「おまえ、いきなりなにするんだっ」
「いや、どうにかして乗れないかなと」
しれっと言うこいつに驚く。
おまえも、もっとびびれよっ。
「どうせ、あわよくば乗っ取りとか考えてたろっ」
「わかってるじゃないか!」
うろうろと各部を見て回りつつ、高原がニヤッと笑う。
「馬鹿、今はそんな場合じゃ――」
言いかけたところへ、遥か上の方から爆音がした。
この最深部ですらグラグラッと大揺れに揺れ、俺は慌ててそばにいた可憐と空美ちゃんを支えた。
「だ、大丈夫かっ」
「もしかして、これは宇宙せんそーなのよっ」
空美ちゃんが叫ぶ。
いや、それは勘弁して。トム・クルーズの映画を早速思い出し、俺はぞっとした。
「――何をしているんだ、君達はっ」
ふいに聞き覚えのある声がして、俺達は一斉にそちらを見た。
な、なんか外人さんみたいなのがすぐ近くに立っていた。
「のんびりUFO見学なんかしてる場合じゃないだろうにっ。なぜすぐ逃げない!? 追っ手の連中は君達を危険視してるんだぞっ」
今度は佐々木氏の姿ではなく、普通にシャツとスラックスだけ着込んだ少年だった。しかも金髪のイケメンさんである。
これが本体か……正直、宇宙戦争のタコ星人みたいじゃなくてほっとした!
「逃げるって、どっちへですかっ」
一番逃げたそうな可憐が、怒ったように尋ねた。
「あ、ごめんっ。それは俺が情報転送されて知ってる。このでっかいのの、裏側だ。UFOで度肝抜かれて、伝えるの忘れた。早速」
――行こうっと勢いよくいいかけたのに、高原がおっかぶせるようにモドキに尋ねた。
「なあ、こいつってこの場でテレポートして、いきなり空へ飛び出せるわけか?」
いやおまえ……スペックに関する質問なんか、今するなよ。
今にも追っ手に追いつかれそうなのに。