エロい実験されるぞーーっ
だが、幸いにして例のモドキも、高みの見物を決め込むつもりではなかったようだ。
俺達が駆け抜けた直後、いきなり背後で隔壁みたいなのが落ちてきて、あっさり後ろを塞いだ。
「おおっ」
振り返った俺が思わず声を上げた途端、すかさず間を置いて次々に隔壁が落ちてくる。
『止まってはいけない! 教えた場所まで急ぐんだっ』
走る速度が落ちかけた俺達を見透かしたように、どこからか声がした。
『この処置は、所詮は時間稼ぎにしかならない』
トドメのように言い足し、後は黙り込んでしまった。
そんなこと言われたら、止まるわけにもいかない。
ちなみに今の声は、少し前に電話をかけてきた奴と同じで、どうやらこれがモドキ氏の本当の声らしい。少し少年っぽい声音で――しかも、聞き覚えがある。
「ここへ来る前に乗ってたバスで、警告の電話してきた奴だな?」
振り向いた高原が、足を止めずにずばり指摘した。
「そう、そいつだっ。俺もさっき、気付いた」
「親切な人なのね?」
絵里香ちゃんが感心したように言ってくれたが……いや、それはどうかな。
まあ、今追いかけてくる連中よりは、確実にマシだろうけど。
その間もさらに何度か隔壁が後ろを塞ぎ、そして――ついに俺達は、来る時に高原が気にしていた場所についた。
大宇宙の深淵を覗き込むように、真っ黒できらきら光っている足元は、触った感じはガラスのようにツルツルしている。
周囲の銀色の金属壁も大概怪しいが、眼下の狭くて四角い切り込みも、今や点滅していて怪しさ全開である。
「だ、大丈夫! 俺達にわかるようにわざとだからっ」
俺は皆を安心させてやってから、空美ちゃんを下ろす。
その上でしゃがみ込み、おそるおそるそこに手を当てた。気は進まないが、転送されたモドキの記憶じゃ、今ならそれで道が開けるそうな。
「――っ! わっ」
触った途端に、床の一部が消えて、頭から落っこちそうになった。
「危ないですっ」
可憐が肩を押さえてくれて、助かった!
「あぶねーっ。スライドして開くならまだしも、消えるのはナシだろう、消えるのはっ」
「わー、コの字型の手すりって……そこだけ、そこら辺の土木工事みたいな仕事ね」
俺の危機はスルーで、薫が酷評した。
まあ、周囲と比べりゃ確かにな。
そこで、隔壁の向こうからズシンッと妙に響く音がして、追っての奇妙な喚き声が近付いた。隔壁の一部は突破されたらしい。
「急いで逃げようっ。俺と高原が一番最後で、女子が先っ」
早口で発言したが、誰も動かない。まあ、怪しすぎる穴なんで、気持ちはわかるが。
やむなく大きく息を吸い込み、俺は喚いた。
「早く逃げないと、捕まって全裸にされた挙げ句、エロい実験されるぞーーっ」
これが効果てきめんだった!
今まで互いに目配せして譲り合っていた女の子達が、素直に、しかも急いで穴の中へ入っていく。ちなみに、薫が一番速かった。
「やっぱり……そういう実験されたんだな? まあ、時が解決するさ……な?」
「同情的な目で肩を叩くなっ。今のは単に急かすために言っただけ!」
俺はむかっ腹を立てて高原に喚いた。
「いいから、俺達も行くぞっ」
友人の背中を蹴飛ばすようにして、俺達も後に続いた。
縦穴みたいなそこは、やたら暗くて、しかもやたらひんやりしていた。
いつのまにか入ったところのパネルみたいな出口は閉じていて、もはや真っ暗に近い。微かに遥か下方に明かりが見えるので、辛うじてくじけずに下りられるという……。
これが真っ暗なら、下りる気にもならなかっただろう。
壁についたコの字型の金具は、どう見ても一人で下りてためのものなので、俺達はやむなく、俺と高原をしんがりにして団子状態で降りて行く。
優に五分近く降りた気がしたところで、先頭切っていた薫が、ようやく下に着いたらしい。
「到着したわ! でも、まだ横通路がちょっとあるみたい。その突き当たりがゴールかしら?」
「よしっ。なんなら、そこで待っててくれていいぞ」
そう声をかけてやったのに、薫はその場で謎の通路の方へ歩いていった。
またそういう独断行動をー……そういうところは、やはり高原の妹である。
おまけに、それきり声もしない。
「おいおい、大丈夫なんだろうな?」
最深部を目前にして叫んだが、返事は聞こえなかった。