あっちいけえっ
しかも連中、この暗がりで遠望すると、なぜか目が微かに光っているように見えるのだな。もうなんというか、金輪際そばに来てほしくないというか、気味が悪いっ。
「コンパスの差が大きいんだし、普通に走れば追いつかれないだろうっ。全力で――」
俺が言いかけた瞬間、絵里香ちゃんと空美ちゃんが同時に叫んだ。
『伏せてえっ』
後から考えても、よくぞ反応したと思うが、二人の危機感たっぷりの叫び声と同時に、俺はその場でぱっとしゃがみ込んだ。
絵里香ちゃんと空美ちゃんという、それぞれ超感覚を持つ女の子が警告するのだ。
絶対にヤバいに決まっている。
おまけに、薫は高原が手を掴んで無理にしゃがませ、可憐はむしろ俺の腕を掴みつつ、自分もしゃがんだ。
叫びはしなかったが、なにか予感がしたらしい。
「お、お兄様、一体なんの」
薫が言いかけた刹那、俺達の頭上をパッと閃光が走った。
しかも、幾筋も幾筋もっ。
青白い稲光みたいな光だったが、あのままボケッと突っ立っていたら、モロに頭に命中したかもしれない。
大きく外れた閃光は、樹海の捻れた大木に命中して、当たった部分が火を噴いていた。
なんだこれ、殺傷能力高そうじゃないかっ。
「す、スター○ォーズかよっ、ちくしょうっ」
空美ちゃんに当たらないように背を向けて丸まり、俺は思わず叫ぶ。
うちう人って、確かシャ○ランの映画で、金属バットで殴られてあっさり死んでなかったかぁ? あの古い映画のせいで、てっきり「どうせチョロい戦闘力だろ?」と思ってたのにっ。当てになんないな、あの監督っ。
完璧な八つ当たりで、俺は罪もない某監督を恨んだ。
いきなり未来兵器はずるいっ。
「おにいちゃん、空美の声と同時に走ってっ」
耳元で空美ちゃんがゴニョゴニョ囁いた。
俺は彼女が何をやるのか察しがついたので、うんうんと素直に頷いた。
つか、なにをするにしても急いでほしいっ。
無音のまま、閃光がジャカスカそばを掠めていて、嫌過ぎるっ。
「おい、ケージ! 俺が時間を稼ぐっ」
「この際、あたしがっ」
高原と絵里香ちゃんが声を上げた途端、空美ちゃんが似合わぬ大声を出した!
「――あっちいけえっ」
おおっ、素早く振り向いて見て良かった!
見よ! 黒服のチビ共が空美ちゃんの一喝で、ことごとく宙に舞い上がり、軽々と吹っ飛んでいくじゃないかっ。
溜飲の下がる思いとは、このことだ。
空美ちゃんなら、そのうちヨ○ダも追い越すなっ。
「おにいちゃん、今なのっ」
「そ、そうだった。全員、ズラかれええっ」
俺自身は全くもって格好よくない号令を発し、「い、今のはっ」とかなんとか叫んだ可憐を無視し、その手を掴んで走り始めた。
機を見るに聡い高原なんか、先に聞いてた俺より先に、薫を引きずるようにして駆け出してるしなっ。
もちろん、絵里香ちゃんも同様である。
最後尾だが、いつのまにか手に刀持ってたりして!
空美ちゃんが稼いでくれた時間を、とことん生かさないとっ。
「よし、トンネルへ入ったっ。あとはさらに死に物狂いで走れっ」
俺が叫ぶと、薫が後ろから大声で訊いてきた。
「どこまでなのっ!?」
「おい、UFOを見せるって話はっ」
しかも、この期に及んで脳天気な高原までっ。
「ああ、おまえら兄妹が、二人揃ってばっちり満足するところまでだよっ。もう少しだっ。高原、おまえが来る途中、『ここは怪しいっ』て指摘した床部分があるだろ? ゴールはあそこだっ。モドキの言うことにゃ、分かり易いにように、今は光って見えるようにしてるってよ!」
「それを、先に言え!」
「うわ、くそっ」
教えた途端、途方もないダッシュで先頭に出やがった。
そういやこいつ、百メートルを十秒台で走る化け物だっての、思いだしたぞっ。
しかも、ダルいからって手抜きした結果で!
「お、おにいさまっ」
可憐が俺のそばで警告した。
「うちう人さん達も、入ってきました!」
「教えてくれなくていいから、ひたすら急げっ」
俺としては、そう言うしかなかった。