「(妹と)きっと仲良くなれるぞ」という高原のセリフは、俺の胸に刺さった
妹が家を出た後、あいつが作っておいてくれた朝食を頂き、俺はそそくさと妹の部屋に移動した。もちろん、念のために玄関にはチェーンロックも忘れない。
目指すのは、あの部屋の本棚である。
俺ですら手が届かないので、夢のあいつと同じく、借りた椅子に乗って、本棚の上をまさぐる。すると……本当にあった!
マジかっ。
一応、椅子の上で立ったまま、二冊のアルバムを確認したが、夢で見たはずのものと同じだった。一冊は俺の中学校時代の卒業アルバム……ちなみに、今あいつが登校している学校と同じなんだが。
で、二冊目はあいつが家族アルバムからちょろまかした分や、あと自分で撮り溜めた分などを保存してあるオリジナルアルバムで、これも夢で見たのと同じである。
となると、昨日の夢は明晰夢ではなく、幽体離脱ということになる!
「むう? しかし、時計は止まってるけど破壊されてないし、勉強机も特にひっくり返ってなかったぞ」
その辺はまだ夢だったということか?
それとも、半分夢で半分は現実なのだろうか。
いずれにせよ、こんな偶然があるはずはなく、確かに妹が俺の写真見てうっとりしてたのは疑いようがないと思う。
いや、改めてそう考えると、これだけ証拠が揃っていても、信じられない話だけどな。
結論は出たので、俺も学校へ向かい、最終日の期末テストを受けた。
さすがの俺も、期末試験をサボるのは気が進まないからな。
……まあ、テスト内容はイマイチだったが、特に問題なく終わり、その放課後……前の席に座る友人が、ふいに声をかけてきた。
「ケージ、ちょっといいか」
……ちなみに俺の本名は樹啓治だが、知人や友人はだいたい、適当な呼び方で「ケージ」と呼ぶ。
「改まってどうした?」
「おまえ、オープン前のリゾートアイランドで夏を過ごす気はないか?」
「……は?」
映画とかゲーセンの話かと思ったら、さすがイケメン金持ち様は言うことが違う。
リゾートアイランド?
「今、リゾートアイランドって聞こえたぞ?」
「そう聞こえたなら、耳はいいぞ」
薄く笑ってそいつが頷く。
高原純、この1ーAのクラスでは多分、まだ俺しか知らないが、高原の家は桁の外れた大金持ちの家で、新興財閥の本家筋だと聞く。
なんでそんなエリートで、しかも長髪イケメンがこんな普通校に通っているのか、不思議でしょうがない。
しかし、俺とは中学からの友人であり、一番気兼ねなく話せる男だし、オタク友達でもある。
だからなんの遠慮もなく、こう尋ねることができるわけだ。
「……オープン前のテストという意味なら、タダなら行くぞ」
「おまえに持ちかける時点で、儲けなんか期待するわけがなかろう。もちろん、ロハ(無料)だ。フランスから運んできた石材で組み立てた城ホテルで、ゲームもやり放題にアニメも見放題だぞ。当然、メシは毎回、城内で豪華ビュッフェだ。好きなものを好きなだけ食えばいい。妹と二人で来ればどうだ? きっと仲良くなれるぞ」
おおっ、こいつ最後に、でっかい釣り針を出しやがったな。
妹の俺に対する当たりがキツいと、いつも愚痴ってるせいだろうか。
ただ、確かに「(妹と)きっと仲良くなれるぞ」という高原のセリフは、俺の胸に刺さった。
「よいお話に聞こえるが……美味しい話すぎて、不安なんだがな」
俺は暗に、さらなる説明を求めた。
「なんか裏があるんじゃないのか? そもそも、完成したばかりのリゾートに、その辺の高校生(俺)なんか参加していいのかって話だよな?」
「まあ、裏はあるっちゃある」
高原は、あっさり言ってくれた。
「八丈島近くの孤島だが、元々の島の所有者がいて、城まで建ててリゾート化を目指していたそうだ。しかし、そのおっさんはただの金持ちじゃなくて、マッドサイエンティスト的なところがあってな。悪評が耐えなくて思うように資金が集まらず、志半ばで病死した。それを、うちが島ごと格安で購入して、大規模改造したわけだ」
――それもあって、オープン前にテスト的な意味で公開するのだ、と高原は付け加えた。
「孤島ってのがネックだが、ターゲットは日本国内に留まらず、外国の富裕層も入ってる。
俺達高校生が問題なく楽しめるなら、今後正式オープンしても問題ないだろうってわけさ」
今一つ納得できかねる理由であり、俺としても首を傾げる。
もちろん俺達だけじゃなくて、他にも参加者はいるのだろうが、それにしてもだ。
「……で、さらに裏があるな?」
試しに訊くと、案の定だった。
高原は、別に隠すでもなくずばっと教えてくれた。
「実は前の持ち主は幽霊に祟られて死んだという噂がついてる。前オーナーが亡くなったのは十年も前だが、当時は新聞にも小さく載った。ははっ!」
……待てこらっ。