不純異性交遊中じゃないんですかっ
浴場内は、中央に高級そうな石造りの四角い浴槽が半ば埋まっていて、広さも四人で十分すぎるほどだった。
少なくとも標準的な家族風呂より、だいぶ大きい。
……それより俺としては、いつの間にか絵里香ちゃんと可憐が、バスタオルを胸元からぎっちり巻いているのが気になる。
俺だって股間にタオル置いてるけど、俺と違って、この二人は全裸派だったはずじゃないのかと。
「最初の真っ裸の勢いの割に、結局、バスタオルで重武装してるし!」
心中の不満を思わず声に出すと、真っ先に絵里香ちゃんが照れ笑いを見せた。
「ごめんねぇ。自分では平気だと思ったけど、さっきケージ君に裸に見られた時、思いのほか恥ずかしくて。でもほら……○○○△……ね?」
後は口パクだったけど、いや俺は、普通に読唇術なんか使えませんが。
しかしなぜか、「でもほら、どうせいつか、毎晩見ることになるじゃない、ね?」と言われた気がしてならない。
まあ、単なる俺の願望のせいで、そう思えただけかもだが。
「わ、わたしもっ」
可憐が慌てたように追従する。
「わたしも同じですっ」
「今更なにを」
と俺が言いかけた途端、タオルだけ胸元に当てていた空美ちゃんが「こうなったら、もうおにいちゃんのお嫁さんになるしかないのよ~」と歌うように声を出し、俺達全員をぎょっとさせた。
「ええっ!? それはどういう――きゃっ」
立ち上がった刹那、巻いてたバスタオルが下に落ち、超焦って拾い上げる可憐である。 成長のない奴めー。まあ、俺の眼福が増えただけなんで、文句ないが。
腰を屈めた時の下半身の曲線が、我が妹ながら美麗だ。
「病院で読んだコミックとか女の子向け小説にね、よくそんなセリフが出て来たのよ」
慌てる可憐は置いて、嬉しそうに空美ちゃんが報告してくれた。
「な、なるほど……その手のラブコメ小説には、定番かもな」
「そうなの。でも、空美は本気なのよ?」
俺のセリフでせっかく和みかけた空気が、一瞬でまた緊張したというね。
可憐がバスタオル抱えたまま、地蔵化しているのはともかく、絵里香ちゃんまでまじまじと空美ちゃんを見てるがな。
いや、子供の言うことだし――て、でもそう言えば、空美ちゃん、今は真面目な顔で俺を見ているな。
「お、おほん」
無駄に空咳などして、俺は無理に話を戻した。
「それより、今のうちに話しておくけど」
なにより、よく考えたら、ここでキャッキャッウフフしてる場合じゃないような気もする。
「――というわけで、どうもあのシケ面の佐々木モドキみたいなのが、全世界規模であちこちにいるらしい」
俺が簡単に佐々木モドキの話をまとめると、絵里香ちゃんと空美ちゃんは、かなり興味が湧いたようだった。
「つまり、人間に紛れて、とうの昔から大勢紛れ込んでいるってこと?」
「うちう人さんがー!」
絵里香ちゃんの言葉を、空美ちゃんが引き取る。
うちう人って声に出す時、楽しそうに口ずさんでて、たまらん。
「まあ、あいつを信じるなら。日本じゃアイドルにもいるんだと、紛れてる人が」
半信半疑ではあるが、教えられた名前を、そのままぶちまけてやった。
別に口止めされてないし、どうせ誰も信じないだろうしな。
「まあ、あのアイドルさんが宇宙の人ですかっ」
「え……おまえ、信じるの?」
声を上げた可憐に、俺は目を瞬く。
「あの声優さん、うちう人だったのねー」
空美ちゃんまでっ。
「あの俳優がフォリナー……つまり異邦人ってことは、ある意味、あたしの同類?」
絵里香ちゃん、あんたもかいっ。
「みんな、なんて信じやすいんだ……」
「でも、現に最低一人はいたじゃない?」
絵里香ちゃんが指摘する。
「ケージ君、佐々木モドキ氏は本物だと思っているんでしょう?」
「……確かに、人間だとは思えない」
俺は渋々頷いた。
「普通の人間は、大量の記憶を転送するなんて器用な真似、できないしね」
「こわい人達なんでしょう、真偽はおいて」
可憐が、実にこいつらしい言い方で危惧を表明した。
「明け方までなんて言わず、お風呂出たら、即逃げた方がよくないですか?」
「俺もそう思うんだが……うっかり、UFOがそばにあることを、高原に話してしまったからなあ」
俺はため息をついた。
こうなるとあいつのことだ、本物UFOを間近で見るまでは、是が非でも退くまいよ。
『もうっ、お兄様ったらぁ!』
……また良いタイミングで隣から薫の嬌声が届いて、俺達は赤い顔を見合わせた。
深刻な話をしてた俺が、馬鹿みたいだな!
だいたいあの薫が、あんな甘ったるい声出すとは。最初の頃は、石臼引くみたいなしゃべり方だったのに。
「実はこれ、隣で不純異性交遊中じゃないんですかっ」
潔癖な可憐が、腹立たしそうに古くさい言い方をしたが……案外、本当にそうかもな。
「それって、なぁに?」
空美ちゃんが即、俺に訊いてきて、参った。
経験値低い俺に、そんなこと訊かれても。