この光景は向こう百年は忘れられんぞ
少なくとも脱衣場はかなり広々していたので、ほっとした。
中へ入るなり、まず脱衣場を内側からロックしておいた。
俺が見るのはともかく、他の奴に見られるのは我慢ならんので。
左右の壁には、マス目状に四角く区切った脱衣用の木製棚があり、それぞれプラスチック製のカゴが入っている。ここに服を入れよということらしい。
なぜか周囲が静まり返っていて、絵里香ちゃん達女性三名は、それぞれ離れて脱ぐ用意をしていた。
ただし、空美ちゃんだけは俺の隣に来たけどな。
「よ、よろしくお願いしますなの」
浴衣姿の空美ちゃんが、恥ずかしそうにぺこりとお辞儀する。
「う、うん……そりゃもう」
つか、何をよろしくするのかわからんが。
とにかく、今更ジタバタしても始まらないので、俺は深呼吸してジーンズのベルトに手をかける。
脱ぐのか……女の子が三人もいるのに。
……しかし、やたら周囲が静かなので振り向くと――絵里香ちゃんと可憐は、二人して俺を注視してるじゃないか!
まさにガン見と言っても過言ではないほどにっ。
「なんで俺を観察してるのさっ」
「う~ん」
絵里香ちゃんが、なぜか照れた顔で言う。
「そういえばあたし、男の人の裸って見たことないなぁって、今更思いだしたわ」
「わ、わたしは、兄さんのを見たことありますしっ」
なぜか可憐が無駄な主張をした。
「そこは、ドヤ顔で自慢するところかっ」
俺が呆れて言い返すと、なぜか絵里香ちゃんがらしくもなくむっとした顔で「なら、あたしだって、今見てもらうわよっ」とのたまい、神速で浴衣の帯を解き始めたので、俺は慌てて前を向いた。
一番アダルトな人が、中坊の挑発に乗ってくれるなと。
ていうか、俺も焦って勝手に身体が動いたが、よく考えたら俺が目を逸らす必要はないんである。覗きじゃないんだからっ。
むしろ前向いたせいで、空美ちゃんが下着脱ぐところが、ばっちり目に入ったりして。
ヤバい、ここは周囲全部がデンジャーゾーンだ。
とっとと脱いで、とっとと風呂入ろうっ。
というわけで、ぱぱっと脱衣を済ませ、身体の前を彼女達に見せないように明後日の方を向きつつ、カニ歩きのごとき進み方で浴場に入ろうとした――が。
「見る前に、逃げちゃだめっ」
絵里香ちゃんの声がしたかと思うと、次の瞬間には両手で頭を掴まれ、クソ力で振り向かされた。
「く、首が今、グギッて――」
言いかけた俺は、そのまま黙り込んでしまう。
あたかも雪白肌の壁みたいに、絵里香ちゃんと可憐が裸体で並んでるのを見ちまったので。
可憐なんか、無理しているのが丸わかりで、涙目で拳固めてるじゃないか。
ていうか、絵里香ちゃんの想像以上の美乳がまたっ。
え、これ触っていいのかな……いや、そんな話じゃないか。でも、思わず全部見ちまったぞ、全部!
いかん、この光景は向こう百年は忘れられんぞ。
「なななっ」
声もまともに出ないしなっ。
「なななー……空美も、空美もぉっ」
「だから痛いってば――うっ」
見てくれという要求のつもりなのか、空美ちゃんに手を引っ張られ、結局俺は三人の女の子の裸を見てしまう羽目にっ。
ショックのあまり、身体が動かないんだが。
その時である、隣の家族風呂から、薫のやたら嬉しそうな声が聞こえた。
『やだぁ、お兄様ったらぁ!』
声というか、嬌声? なにして遊んでいるのか知らんが、とにかくお陰で俺達は顔を見合わせ、今更ぼっと顔が赤くなって、それぞれ慌ててバスタオルに手を伸ばした。
「ふ、風呂に入りに来たんだろっ?」
俺はそう口走ると、真っ先に浴場に逃げ込んだ。
うわぁ……風呂入る前に、もうのぼせている感じだ、俺。
せめて浴場内では、今後のこととか、真面目な話をしよう……自信ないが。