第三種接近遭遇
しかも、佐々木モドキは本当に時間がないと思ったらしく、最後あたりでいきなり俺の額に手を当てた。
「おい、なにを――」
訊こうとした瞬間、どかっと脳内で何かが炸裂した……ように感じた。
どうやら、情報をまとめて俺の脳内に転送したらしい。
そんな馬鹿なと思うが、一秒前にはなかった知識がごっそり増えているのだから、そうとしか思えない。
お陰で俺は目眩がして、一瞬とはいえ、テーブルに突っ伏していたようだ。
次に起こされた時は、キョドった様子の佐々木さん本人が、俺の肩を揺すっていた。
顔を見れば、「あ、この人、もう元に戻ってるな」とわかるほどで、同じ顔でも、それほどの変化があった。
中身が違うと、人は全然違う風に見えるものらしい。
「なあ、おいっ。僕達なんで、二人してテーブルに着いてたんだろう? 僕は今の今まで、フロントに座ってたはずなんだけど」
そして横を見て、「でもって、なんでこのテーブル、倒れてんの?」と顔をしかめる。
バイトの義務感か、立ち上がってテーブルを起こしていた。
「あー、いえ……俺にもさっぱりで」
俺は戸惑い、首を振った。
テーブルひっくり返したのは俺だが、それ以外のことについちゃ、詳しいことはわからないし。
せいぜい、「あなたもインプラントされてますねぇ」と推測できるだけだ。
あと、なんかさっきまでの異常な雰囲気が、すっかり元に戻ってるな。ついさっきまで、時間の狭間みたいな場所に飛ばされた気がしてたんだが。
「――おにいちゃん!」
「ケージ君っ」
ふいに、階段の方から空美ちゃんと絵里香ちゃんが駆け下りてきて、俺達のところまで走ってきた。
たちまち、佐々木氏が絵里香ちゃんを見て、ぽわっとなった。
「あ、どうも」
なぜか二度ほどペコペコお辞儀する。
絵里香ちゃんが綺麗すぎるもので、物怖じするらしい。気持ちはわかる、うん。
「……フロントの人ですよね?」
不思議そうに絵里香ちゃんが低頭する。
「そ、そうですそうですっ、佐々木です!」
嬉しそうに答えつつ、ちらちら絵里香ちゃんの胸を見たりしてな。
これも気持ちはわかるが、ちょっとむかつく。
鋭い絵里香ちゃんが眉をひそめると、佐々木氏は慌てたように目を逸らした。
「そうだ、僕は仕事中でした……ははっ」
いきなりシャキッと背筋が伸び、フロントの方へ戻っていった。
「おにいちゃん、平気だった?」
彼が去ると同時に、空美ちゃんが僕の腕を取る。
「お部屋にいたけど、なんだか嫌な感じがしたのよ。世界がズレたような妙な感じ」
「あたしは、空美ちゃんが慌てて走って行くのを見て、ついてきたの」
二人して教えてくれた。
空美ちゃんは俺の隣に、そして絵里香ちゃんは正面に座る。心配そうに見られて、ちょっと面映ゆいというか。
「いや、空美ちゃんの鋭い言い方の通りで、実は今ちょっととんでもないことが」
言いかけた時、またしても足音がして、今度は高原と薫まで来た。
「おまえも気付いたのか、さっきの異様な空気に?」
「いや」
高原はあっさり首を振った。
「俺は外で、屋内の配線がどこへ向かってるか調べてたんだが、どうも嫌な予感がして、おまえを探しに戻ったところだ」
「あたしは、外出する寸前だったけど、お兄様を見つけてついてきたのよ」
「そ、そうか……とにかく、可憐を除いてみんな揃ったなら、ちょうどいい。可憐にはまあ……後で教えるとして、今あったことを説明するよ」
俺は、ついさっき佐々木モドキから聞いた話を、ざっと説明した。
絵里香ちゃんと薫は仰天している様子だったが、空美ちゃんなどは「第三種接近遭遇したのねっ」と尊敬の目つきで俺を見上げていた。
多分、その知識はまたしてもUFOの特番か、むーの記事からだろうな。
第三種接近遭遇つーのは、確かUFOの搭乗員との接触だったか?
「そいつは本当のことも語っていただろうが、全部が真実じゃないかもな」
逆に高原は冷静に指摘する。
「なぜそう思う?」
「考えてもみろ? インプラントした連中を知らないと言いつつ、話の後半では『(犯人の)見当はつく』と言い換えてるじゃないか。本当は、誰がやったかは知っていると見た。ただ、関わり合いになりたくないんだろうな」
な、なかなか鋭い指摘だな。
俺は密かに感心した。
「ただな、ケージ」
高原は珍しく熱い視線で俺を見る。
「それは置いてだ。おまえ、大金星だぞ」
「なにがさっ」
「UFOを見せろと希望出して、受け入れられたわけだろ? さっそくその約束を履行してもらおうぜ! どうせなら、乗せてもらいたいんだがっ」
「お、おまえな……」
ああ、UFO見せろの話は、言わなきゃよかった。
「それより、インプラントを除去する話が先決でしょっ」
「妙なチップが身体にあるの、嫌だものね?」
そうそう、絵里香ちゃんと空美ちゃんの言う通りだよ!
つか、除去する方法は聞いたけど、あんまり実行したくないぞ、くそっ。