時間切れが迫る
とはいえ、別に理不尽なことを言ったつもりはない。
せいぜい「いつのまにか、俺の身体になんか埋まってる感じなんですけど!」とか、「去年の今頃にUFO見たって話だけど、全然覚えてないんですけどっ」とか、その辺を中心にガンガン苦情を入れさせてもらった。
佐々木モドキは終始、うんうんと頷いて口も挟まずに聞いていたが、質問するでもなし、こいつ、わかってんのかようっ。
「で、そちらの対応はっ」
痺れを切らして俺が尋ねると、彼は「う~ん」などと悩む様子を見せた。
「まず……君は幾つか誤解してるなぁ」
困ったねぇと言いたそうな、他人事全開顔で天井を仰ぐ。
「誤解も六階もあるかあっ」
むっとして、思わず俺は言い返した。
「現実に、俺の肩口にはなんか埋まってんだぞ、前にはなかったブツがっ。だいたい、記憶を失うなんてこと、初めての経験だし!」
「さあ、そこさ」
ようやく天井を見つめるのをやめ、彼は説明した。
「まず、君はどうも、僕らが全部一枚岩というか、すべてが同じ枠内に収まる存在だと思ってないかい? 人間にだって、日本人もいれば、ロシア人もいるだろう? 地底人もいるしね。全員が同じ目的意識を持って動いてるわけないよ」
「……いや、地底人なんかいないしっ」
しかし、その言い分はちょっと想定外だったね。
こいつ、微妙にズバリの言い方はしないが、仮に宇宙人がいたとして、全部同じ種類とは限らない……そりゃそうだ!
「す、するとなにか? 俺に埋め込まれた謎の物質、どこの誰の仕業だか、わからないってことか?」
「わからないね! 君が思う以上に、大勢来てるから」
またあっさりと、言いやがったっ。
「しかし、それをそのままにしておいても、別に悪影響はないと思うよ」
佐々木モドキは両手を広げて、穏やかに言った。
「せいぜい、君の現在地がリアルタイムで埋め込んだ連中にバレていて、しかも、音声なども全部記録されている……まあ、そのくらいかな? あ、それとそいつらがその気になえれば、ロボットみたいに操られて、また拉致される可能性もなきにしもあらず、かな? そっちの可能性は低いけど」
「め、めちゃくちゃ悪影響だろうがあっ」
俺は動揺した挙げ句、そばのテーブルを派手にひっくり返してやった。
この一年、居場所がバレていたのはともかく、全部の音声聞かれていたとか、嫌すぎるっ。さらに、拉致の可能性もあるのか!
「なにが、なきにしもあらずだよ、ちくしょうっ。拉致監禁に怯えながら暮らせるかっ」
立ったまま、鼻息も荒く喚く。
「そっちは極小の可能性だと思うんだが……人間だって、希少動物に刻印入れたりするだろ? おそらくは、そういう意味のインプラントかな、それは。もしも危害を加える気なら、もうされてるさ」
「お、おまえな……人をヤンバルクイナみたいに――」
言いかけ、俺はこいつを普通の人間と同じ意味で理解するのは間違いだと、ようやく悟りはじめた。
「おまえ……というかおまえ達って、人間なんかそこらの動物くらいに思ってるのな」
「……あ、そう言われると、心が痛むな。うん、ごめんごめん、今のは撤回する」
初めて佐々木モドキが表情を動かした。
今までは、能面みたいにほぼ表情がなかったのだ。
「僕らも、この星にお世話になる身だし、考え方を変える必要があるだろう……わかった、君の力になろう。ほら、座りなよ」
言われて、俺は渋々また席に着いた。
記憶が戻らないのはともかく、インプラントだけはなんとかしてもらわんとっ。
しかし……佐々木モドキが教えてくれた「インプラントを無効化する方法」は、俺にとってはあまりいいニュースとは言えなかった。
「そんな方法しかないのかっ」
「そこは我慢してくれ、犯人の見当は付くが、僕らにとっても、連中は嫌な相手なんだ」
「……えーーっ」
俺がさらに不満を表明しようとした途端、佐々木モドキは階段の方を見て眉をひそめ、「どうやら君の仲間には有能な人が多いらしい。そろそろ時間切れのようだ」などと吐かした。
「君の問題を解決する方法は、もう教えた! まだ質問があれば、急いでくれ。時間はあまりないが、答えられるだけは答えよう」
「まだ肝心の話が残ってる! だいたいあんたら、なんのためにこんな街を作ったんだよっ。それと、今後、どうする気だ? ついでにもう一つっ、どっかにUFO隠してるなら、俺にも見せてくれよ!」
立ち上がりかけていた佐々木もどきは、俺を見て呆れ顔に近い表情を見せた。
「……君、あんまり物怖じしないタイプだね?」
「今更、遠慮してもしょうがないだろっ」
「はははっ」
俺の返事を聞いて、なぜかこいつは初めて笑い声を聞かせてくれた。
そして、本当に早口で教えてくれた……俺にとっちゃ、意外すぎるこの街の存在理由や、他の細々したことを。
まあ、本当かどうか、俺に判断はできないけど。