表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/159

日記におにいさまへの愛を綴っているんですよ

「――げげっ!」


 俺は堪えきれずに声を上げたが、その途端、どさっと(多分)可憐がベッドから落ちる音がした。

 その隙に、俺はささっと家計簿偽装日記をディパックにねじ込み、なにげなく振り向く。


 案の定、ベッドの脇に可憐が俯せに倒れていた。

 俺がなにしてるか見ようとして、バランスを崩したらしい。よくやった、重力!




「うぅうう……」


 などと呻き声を上げながら、ようやく顔を上げる。

 み、見られてないよなっ。


「ふいに大声出したら、驚くじゃないですか……なにを見てたんです」

「いや、じっと手を見て、将来について考えていた」


「えー、どこか嘘っぽいですっ」


「いいから、おまえはもう寝ろって。その調子だと、後から頭が痛むぞ……多分だが」

「今、既に痛いのです……」


 顔をしかめてもぞもぞ身を起こした可憐に近付き、俺はそっと抱き上げてやった。もちろん、日記の記述を覚えていたからだ。


「……あっ」


 抱き上げた途端、小さく声を上げたので、「い、嫌か?」と尋ねたが、可憐はぶんぶん首を振った。

 自分から俺の首っ玉に抱きつき、「うふふふふふっ」と妙な笑い方をする。


「ほら、腕を外さないと、ベッドに寝かせられない」

「もうですかぁ……あと、お水は?」

「ほれ」


 そこらに置いたままのペットボトルを口に含ませてやると、可憐は待ちかねたように横になったままゴクゴク飲み、しかもいつになく行儀悪く、ダバダバ胸元にこぼしやがる。


「あー、おまえなあ。風邪引くぞっ。ほれ、ちょっと口を離せ」


 注意してペットボトル取り上げた時には、既に空だというね……半分くらい胸元にこぼして――あぁ、タンクトップが透けてブラが丸わかりだー。


「……冷たいのです」


 ぽおっとした顔で、わかりきったことを言う。


「そりゃ冷たいだろっ。身を起こして飲まないからだよっ」

「寝かせたのはおにいさまですしー」


「屁理屈を言うな屁理屈をっ。着替えろよな! 上だけ持ってきてやるからっ」

「着替えさせてくらはい……わたしはひどく眠いので……」

「えーっ」


 と言いつつ、要請なら仕方ないとばかりに、俺はタンクトップを脱がせてやった。


「青色のブラも濡れまくりだけど、これは自分で外せよな」

 答えはなかった。

 少し口を半開きにしたまま、可憐は目を閉じている。

 な、なんとかごまかせたか……この調子なら、俺が日記読んでたことはわからないよな。つか……写真に撮っておきたい姿だな。


 刺激的な光景故に、途中から思わず思考が逸れた。

 とりあえず、部屋にあったバスタオルを持ってきて、なるべく見ないようにしてえいやっとブラを外し、素肌にささっと巻き付けたやった。


 見ないようにしてといいつつ、だいぶ見てしまったが……ま、まあ初めてでもないし、いいか。……それにしてもこいつ、芸術的な形だな……なにとは言わんが。


 仕上げとして、胸にバスタオル巻いた女賭博師みたいな格好の可憐に、薄い夏用ブランケットをかけてやる。




「……ふう」


 ったく、敵地に等しいような場所で、気楽に泥酔してからに。

 ようやくほっとして背筋を伸ばそうとしたところで――可憐の腕がいきなり俺の首に回された。


「わっ。起きてたのかよっ」


 酔っ払いとは思えない力で引き寄せられ、耳元で囁かれた。


「こっそり教えてあげますけど、実はわたし……日記をつけているのです……」

「へ、へぇえええ」


 劇団ひまわりもびっくりの演技力を発揮しようとしたが、上手くいったとは言えないだろう。


「なんで今、ソンナハナシヲ?」


 後半が棒読みになっちまった!


「日記に……日記におにいさまへの愛を綴っているんですよ……ふと思いだしたので」

「へ、へぇえええええ……で、見せてくれるの?」


 どきどきして尋ねたが、激しく首を振る気配がした。


「今は絶対に駄目です、駄目なのです……五十年くらい経って、十分に愛が深まったら……もしかしたら」


 気が長すぎる!


「五十年経ったら、俺はもう枯れてるわっ」

「ところが……わたしは大丈夫ですから……だから……」


 そこでふと腕の力が抜け、とさっと落ちた。

 用心しながら俺が顔を上げると、今度こそ可憐は寝息を立てていた。

 ひ、人騒がせなっ。


 この隙にとっとと脱出しよう……心臓が縮み上がるのはご免なので、俺は本当に逃げるように部屋を出た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ