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バイト代激高

「あのっ」


 重苦しい沈黙の中、可憐が声を張り上げる。


「アレじゃないでしょうかっ。虫除けの電撃とかあるじゃないですか? バチッという音がするの? ああいう類いの新製品――」


 俺を始め、みんなの顔を見て、可憐は赤くなった。


「そういうのでは……なさそうですね」

「ないないっ」


 俺が即答し、高原が何事もなかったように歩き出した。


「まあいい。とにかくホテルへ行こうぜ」


 途中、またトランシーバーでやりとりしてしていたが、声を低めていたので、あんまり聞こえなかったな。




 ホテル的なものは、ペンションみたいなのを想像していた俺からすれば、割と普通に見えた。ただ、外観が学校みたいな四角い屋根で、コンクリート製の三階建てなのがどこか違和感あるが。

 この街の規模からすれば、不自然なほど大きいしな。


 中へ入ると、フロントには大学生風の男が座っていて、俺達――特に絵里香ちゃんを始めとする女の子達を見て、目を丸くしていた。


「一部を除いて、モデルさんの一行かな?」

「まあ、そんなものだ」


 高原が適当すぎる返事をして、あっさりと俺達全員の料金を前払いしちまった。


「おいおい、ここくらいは払うよ」

「気にするな。元々、俺が持ちかけた話だしな」


 気前のよすぎる高原はあっさりそう言うと、全員分の個室の鍵を受け取り、皆に配った。


「空美、おにいちゃんと眠るのよ」

「ちゃんと人数分の部屋が空いてたのねー」


 空美ちゃんは置いて、絵里香ちゃんの呟きに反応して、フロントの人が嬉しそうに教えてくれた。


「あ、ここに泊まってるのは、だいたいバイトばかりなんですよ。つっても、全員で十名以下だけど。観光客とか皆無で、今のところはバイトしか泊まってないわけです。普通の客としては、貴女達が初めてかも」

「バイトの募集はどこで? あと、どうやってここまで来た?」


 絵里香ちゃんと話したがるバイト青年に、高原が無情に割り込む。


「募集は求人雑誌に、普通に載ってたよ。『秘密を要する仕事で、守秘義務がある』とか書いてたね。実際、駅からここまで、目隠しされたバスで運ばれたよ、全員が。だから、途中のルートとか、全然知らない」


 俺達は素早く視線をやりとりした。

 高原がなおも訊き出したところでは、この周囲が樹海だというのも、バイト君達は着いてから気付いたらしい。


「最初にサインした書類には、九月中旬までずーっと外に出られないって書いてあって、それは覚悟してたけど、電話すら通じないでやんの。まあ、必要なものは全部あるし、時給五千円なんで、多少のことは我慢するけどさ」


『五千円!』


 ああ、可憐と声が揃ってしまった。

 しかし、普通は驚くよな、そんな破格な時給。伝説の死体洗いバイトでも、もっと安いぞ、多分。


「となると、俺達が気にするべきは、ここのバイト達が相手にする方か」


 高原が呟く。


「それって、ここに元からいる住人?」


 バイトの人は訊いてないのに教えてくれた。


「そもそもここって、テーマパークとしてそのうち開放するって話だけど? だから、住人の人も実はモニターとかじゃないの? なぜか極力、俺達と話したがらないみたいだけど」


 ちらちらと女の子達を順番に見ながら、彼は話してくれた。

 名札には佐々木とあるが、銀縁眼鏡の好青年っぽい。あからさまに女の子ばかり見るのがアレだが。


「テーマパーク? お洒落な建物以外、他になにもないのに?」


 薫がサングラスをズラして、佐々木氏をちゃんと見た。


「アトラクションとかそういうのは、今から作るんじゃないかなぁ」


 のほほんと佐々木氏は言う。

 俺達と違って最初から求人に応じて来てるせいか、不自然さを感じないらしい。


「まあ、ここで寝泊まりする他のバイトさんも、たまに疑問を口にする人がいるけど、なにしろ仕事は楽だし、バイト代は破格だからね。既に逃げた奴もいるけど、僕からすりゃ、信じられないな、こんな楽なのに」


 ――そこらの店で、店番してるだけだしー。

 などと最後に付け加えた。


「既に逃げた? どうやって? 周囲は樹海だぞ」


 なかなか鋭い質問をする高原である。


「そうなんだけど、樹海の中を走る県道までは近いって聞くし、だいたい、目隠しバスで走ったルートがあるはずだよね。逃げた奴は、それでも見つけたんじゃないかな。とにかく、朝起きたら荷物ごと綺麗に消えてたのさ」


 なんか……この佐々木サンは終始呑気に言うが……それって結構ヤバい話じゃないのか。

 俺がこっそりそう思っていると、高原が話を打ち切って俺達を振り向いた。


「そうか、いろいろ教えてくれて助かった」


 ……こいつはまた、嬉しそうな顔してからに。

 謎が増えると、喜ぶタイプだな。


「ここから先は夕食まで休憩にするか? ただ、ケージにはちょっと話がある」


 などと言うと、俺に目配せして勝手に歩き出しやがった。

 相変わらず強引な。



個人的な話ですが、本作がオーバーラップWEB小説大賞で、奨励賞を頂きました。

(気になる方は、なろうのトップページに賞のバナーがあるので、飛んでみてください)

まだ先の話ですが、どうやら書籍化して頂けるようです。

イラストなど、今から楽しみです。

本作にお付き合い頂いている皆さん、ありがとうございました!


余談ですが、なぜか私がトップで発表されましたが、もちろん他にも受賞予定の方はいるそうなので、そのうち人数は増える……はずです。

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