思い出すわぁ、あの運命の夜のことを……うふふ
言われてみれば、このただっ広い謎道の先が曲がり角になっていて、しかも向こうから光が洩れている。
外に通じているらしい。
「ええと、戦闘準備とか、しておいた方がいい?」
絵里香ちゃんがそう言って、リュックに括り付けてあった竹刀袋みたいなのを外し、中身を取り出した。
「真剣だし、あまり手加減できないけど?」
「どわっ」
全体を見た俺は唸り、慌てて鞘を払って抜きかけた絵里香ちゃんを止めた。
だいぶ遅かったけどな! みんな鈍く光る銀色の剣を見た後だし。
薫が「それ、違法じゃないの?」と驚いたように口走る。
まあ……見た目は完全にスリムな長剣だよな、マジで。レイピア(細身の剣)ほどではないけど、多少、細身ではある。
ただし、鞘とか柄とか年季がはいっていて、ちょっと凄いぞ。
「も、摸造品とかですよ……ね?」
可憐がびびりつつ訊いたが、絵里香ちゃんはきょとんとした顔をしたね。
「え? 剣の摸造って、なにか意味あるの? これはあたしが実際に使っていた品で」
途中で空美ちゃんが割り込み、「わあ! じゃあ向こうの世界でそれを」とか言いかけやんのっ。
「わーっ」
慌てて俺は声をあげ、ヤバい会話を遮った。
唯一、しんねりと絵里香ちゃんを眺める高原の目が、実に危ない。こいつは、いざ興味を持つと、突き止めるまで追及する男だからな。
「さあ、張り切って行こう!」
俺はごまかすつもりで大声を上げ、元気よく歩き出したが、左手と左足が一緒に出てたかもしれない。
「なあ、おい」
高原が俺に並び、ひそひそと訊いた。
『ここだけの話、あの人は地球人じゃないだろう』
『な、なにを言ってんだよ、おまいは。エイリアンだとでも言うのか?』
『ちょっと疑い始めている』
馬鹿たれ! 外れてるわいっ。
ただし、地球人じゃないという部分は、地味に当たってて嫌だ。
『人にはさ、知られたくないことだってあるんだよ』
俺は皆に聞こえないよう、囁く。
『絵里香ちゃんが自主的に話すならともかく、暴こうとするなよ?』
「……ふん。まあ、おまえの女だしな。俺も多少は遠慮するさ」
声を低めろ、馬鹿馬鹿っ。
お陰でみんなの視線が痛いだろっ。
「兄さん! いつの間にそんな不潔なことにっ」
「なんだ、そりゃっ。いちいち高原の言うことを真に受けるな、可憐っ」
「思い出すわぁ、あの運命の夜のことを……うふふ」
絵里香ちゃんがまた、銀髪を払って思い出し笑い(の真似)をするので、俺は冷や汗ものだっ。たまに悪ノリするからな、この子。
あと、長剣というかブロードソード的な武器は、今や腰のベルトに差してたりして。決まりすぎてて、怖いぞ。
「兄さん! 運命の夜ってどういうことですかっ」
「絵里香ちゃんの悪ノリだって! それよりほら、本当に外に出るぞ」
俺は慌てて前を指差した。
実際、未知の通路は、いつの間にか普通のコンクリート製の登り坂になっていて、緩い確度で上に続いている。
さすがにみんな黙り込み、後は用心しつつ――ついに俺達は外に出た。
トンネルの向こうは、真っ白な街だった……などと脳裏をよぎったくらいで、やたらと白い壁が目立つ、お洒落な街が左右に広がっている。
今、俺達の眼前にあるのが、街の唯一のメインストリートらしい。
もちろん、普通にアスファルト製だが……どう見ても真新しいな、これ。
今のところ、人の気配はない……気がする。
「コンビニがあるのよっ」
空美ちゃんがふいに、ちょい先を指差した。
え、いきなりなんだ? その日常キーワードは。
だが言われてみれば、道の右手に――。
「なんと!」
「助かったわ! 日焼け止め、あるかしら?」
「敵はいないのねぇ」
最初に驚いた俺の後、薫が呑気に笑い、そして絵里香ちゃんがつまらなそうに呟いた。
みんなで慌てて店の前へ行くと、○ーソンをモロにパクったようなカラーリングの店がっ。店名がまた渋いっ。
「コンビニモデルて……そんな店名ありか? どっかの国の偽ディ○ニーランドかよ」
「奥に店員さんも座ってますよ!」
むくれていた可憐が、ふいに元気を取り戻した。
「なんだぁ! ここ、普通の街だったんですよー。心配して、損しました」
「おい、フラグ立てるな、馬鹿」
俺は思わず可憐を窘める。
「おまえが『普通でしたぁ』的なこと言い出すと、必ず真逆のことが起きるんだよっ」
「事実、全然普通じゃないね」
高原が一人、冷静に指摘した。
「気付かないか? 見た目からしておかしいだろ、ここ?」