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机上のナニは、いわゆる一つの「おかず」に違いないな


 明晰夢の中では自分の思い通りに行動できる、はず。


 ……普通の夢と違って。


 だから俺は、まず机の上にあった小型の時計を持ち上げ――む……なんか掴みにくいな。眉をひそめ、何度か練習する。四~五回繰り返して、ようやく掴むことができた。


 で、試すというのは、この時計をこう――。





「全国のイケメンリア充はぁああ、とっとと滅びろぉおおおっ」



 絶叫しつつ、時計を思いっきり壁に叩きつけてみる。

 すると……おお、見よ! 有り得ないほど、気持ちよく粉々になったぞっ。


 こりゃもう、絶対に修理無理だ。




「よぉーし、調子に乗ってネクストゴー!」


 ついでに机も、星一徹式に豪快にひっくり返してみた。

 言語道断な音がして、PCが転がり、床が震えたが、それでも周囲はシーンと静まり返っている。本来なら、時計を叩きつけた時点で妹が駆けつけるはずだから、こりゃ夢に間違いないなっ。


 だいたい、机を持ち上げる時だって、ひとっかけらも筋力使ってないし。




「ていうことはだ……ここはあくまで俺の夢なのだから、別に妹の部屋にズカズカ入っても問題ないわけだ。夢の中であり、単なる想像の産物だものなっ」


 なにもわざわざ確認する必要もないのだが、あえて声に出して、己を奮い立たせる。

 いや、別に妹の部屋に押し入ってあいつを押し倒すとか、そんなつもりはさらさらなく、ただ、なにしてるか「見たい」だけである。


 でも、この夢の中が俺の想像の産物だとするなら、あいつは今頃、部屋の中で筆舌ひつぜつに尽くしがたい行為を行っている可能性があるなっ。

 あえて「どんな行為」かは指摘しないが、間違っても、しかめっ面でコマ回してる最中とかはないね! 断言できる。


 それもこれも、俺の夢ならしょうがない、ああしょうがない。


 ……というわけで、俺は早速、妹の部屋に向かうことにした……最後にもう一度、ベッドの上の自分を見たが、相変わらず爆睡してる。


 ほ、ホントに夢だよな、これ?


 まあ、夢じゃなきゃ、とっくに妹が様子を見に来てる、うん。

 安心して歩き出し、部屋のドアを開けようとして、試しにそのまま突き進んだ。壁のところで多少の抵抗を感じたが、目を閉じて「ふんっ」と気合いを入れると、普通に壁抜けできた。


 夢は便利でいいなぁ。




「……おっ」


 成功に気を良くしたところで、俺は自分の右手に気付く。

 気合い入れたせいか、またしても例の赤い糸がっ。一本は妹の部屋に向かい、そしてもう一本(絵里香ちゃん?)はあらぬ方向へ伸びている。


 夢の中でも見えるものな。 

 気になってもう一度自分の部屋に戻ると、しかし俺の本体である寝てる方には、全く赤い糸が見えないというね。


 夢の姿である、幻の魂の方に見えるとは、なにか妙な気がする。





「……ま、いいか」


 少し考えたものの、俺は目先の興味の方が勝り、急いでまた廊下へでた。


 妹の部屋へ入るのには、やはりドアを開けるのではなく、さっきの要領で壁抜けして中へ入った。

 すると、予想通り妹は、窓際に置かれた机に着いていた。


 PCを点けるでもなく、明かりを最小に絞った薄暗い部屋で、机に置かれた「なにか」を熱心に眺めていて、こちらを見向きもしない。

 姿勢的には、上体を深く倒し、机の上をガン見している感じか。


 これで、片手が下の方に伸びてたら、もう完全に決まりだが、暗いし、そこまではわからない。

 ……ただ、今あいつが熱心に見てる机上のナニは、いわゆる一つの「おかず」に違いないな。

 自分の経験則からそう決めつける。


 当然ながら、食材の話ではない。

(夢とはいえ……い、いよいよか)


 俺は無闇に緊張し、その必要もないのに、抜き足差し足で、近付く。すると、いきなり妹が振り向いて、心臓が口から飛び出すかと思った!


「うおっ」


 声も出たし、手も動いたっ。声の方は、昼間経験した反響しない妙な声だが。

 多分、いま俺が反射的に両手でガードした姿勢は、UFOからの謎光線を浴びた通行人みたいに見えたかもしれない。


 ていうか、なんだよおいっ。俺の見てる夢じゃないのか、これっ。


 しかし、パジャマ姿の妹は部屋の四方をぐるっと見渡したのみで、俺の姿を見ても反応しなかった。

 ただ、やたらと顔が赤いっ。



 俺が「こいつぅ、やっぱりかあ」と思うほどに、真っ赤っかである。



 そのまままた正面を見て、「はぁああああ」とため息をつく……情緒たっぷりに。


「こんなこと……もうやめないと」


 か細い声で呟き、その実、視線はまた机上の「おかず」に固定である。

 なんだ、結局は俺の夢か……脅かしやがってぇ。


 こ、こんなことって、どんなことさ!


 二度と邪魔が入らないように、俺はつかつかと歩み寄り、横からさっと「おかず」を覗き込んだ。


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