いろかって胸? 胸のこと?
みんなが見守るうち、高原は平然と衛星携帯電話の代わりに、小型の別の機械を取り出し、通話し始めた。
最初、「なんだあれ?」と疑問だったが、自分が話すごとに交互に通話スイッチ入れてるので、「ああ、トランシーバーな」とわかった。
途中から、俺達と離れて背を向けたので、話の内容はこっちまで聞こえなかったが――。
通話を終えて戻った時、俺は呆れて言ってやった。
「おまえ……つくづく準備いいなあ」
「まあ、携帯が通じなくなる可能性は考えてたからな。短距離トランシーバーはまだ使えてよかった。ただ、外の連中と話してて、ちょっと謎ができたな」
「謎って?」
「さっき、最後に絵里香ちゃんが鉄扉を閉めた時、カムフラージュを動かす音がしただろ……外から?」
「ああ、あの雑草の固まりに見えたアレな。おまえ、そういう手筈だって言ってたな。ていうか、いきなりちゃん付けかい! 馴れ馴れしいぞっ」
遅まきながら、俺はそこに気付いた。
「なんだ、嫉妬か? 年上の色香にやられたかっ」
こいつがまた、しれっとひでーこと言いやがるっ。
「やられたかー?」
真似して口にした空美ちゃんが、本気にして手を引っ張るし!
なんか、とても心配そうな顔で。
「いろかって、やっぱり、胸のこと? 胸なのー? 空美も大きくなるのよ、きっと! 今はそのちょっと……寂しいけど」
いや、将来の君は安泰だよ……とは、まさか言えまいな。
空美ちゃんが膝枕してくれてた夢を思い出すと、膝の上から見たアレが目立ってたもんな。小さい方じゃないのは事実だ。
思わず手が伸びそうになったし。
「ま、まあ……胸の話は置いて」
「わーい、嫉妬嫉妬! 嫉妬してくれてるんだー。なんなら、今晩はお風呂一緒に入る?」
「あははっ」
絵里香ちゃん本人が、嬉しそうに俺の肘をつんつんするし、薫はこっちを指差して噴き出すしっ。
笑い事じゃないぞ、くそ! それに、風呂は関係ないしっ。
「いや俺はっ――」
抗議しようとした途端、絵里香ちゃんの斜め後ろの、可憐の膨れっ面に気付く。
なんかこいつ、俺に怒ってないだろうなっ
。
「まあ、今の話はどうでもよくてだ」
――よくないわっ。
顔をしかめた俺に、無表情に言う。
「今の無線で、周辺を調査中だった彼らがバンに戻ったのは、たった今だとわかった」
「それって、つまり」
眉をひそめた可憐に、高原が頷く。
「うむ、誰がカムフラージュを戻したのか、謎になった」
俺達は密かに視線のやりとりをして、沈黙した。
「だからあたしが開けましょうかって言ったのにー」
絵里香ちゃんが言ってくれたが、後の祭りである……だいたい、開けた眼前に、宇宙人がモロにいても、嫌過ぎるしな。
「なんかいろいろ不気味だが、中止するか?」
俺が水を向けると、「俺は一人でも行く!」と高原は即答する。
「ここまで来て、誰が戻るか。いつ隠蔽されるかわからんしな」
「またそんな、四次元発言を」
「どうしても戻りたいなら、他人は止めないさ。俺もそこまで口だしはせん」
「……なら行くしかあるまいよ。おまえだけ置いていけない」
俺は肩をすくめ、率先して歩き出した。
本音は、一部だけでも置いていきたいんだけど。
「いや、勘違いすんな、馬鹿。おまえは他人の中に入ってないぞ。当然、一緒に行くのさ」
「俺は他人枠でいいよ、他人枠で!」
俺は振り向きもせずに、言い返した。
結局、一番最初のタイトルに戻して、申し訳ないです。いろいろあって、こうなりました(汗)。
もう変更しないので、ご容赦ください。