四次元通路? みたいな
俺を含めて、メンツの大半はドン引きしていたが、高原は平然と中へ入っていく。やむなくも俺達も続いた。
最後に入った絵里香ちゃんが扉を閉めると、外であのカムフラージュ雑草群を動かす音がした。
「え、今の誰?」
振り向いたが、もちろん扉を閉めたので見えない。
「……開けて確認する?」
絵里香ちゃんが尋ねたが、高原が首を振った。
「いや、元々後続のスタッフが、最後にまた入り口の状態を元へ戻す手筈だったんだ。追いついてやってくれたんだろう」
ホントかよ!? と俺などは思ったが、絵里香ちゃんは別に逆らわずに肩をすくめ、俺達に追いついてきた。
そこで、全員歩き出したはいいが――。
「なんかここ、少しずつ道が広がってないか?」
振り向いて比べた俺が言うと、高原は頷いた。
「だよな? 実はもうすぐ先に、うちの先遣隊が辿り着いた場所があるんだが、そこの時点で、既に四車線道路くらいの広さがあるんだぜ?」
「それ、私有地じゃないんですかー?」
ルールにはうるさい可憐が、即座に指摘した。
「このまま遠足気分で入っちゃって、いいんでしょうか?」
「私有地なら、役所に当然、記録があるはずだよな?」
高原は唇を歪めて笑った。
「事前に俺が調べてないと思うか? もちろん、ちゃんとチェックしたとも。しかし、この辺りの土地を管理する部署じゃ、『そこは国立公園の一部に過ぎず、民間人の地主はいない』と断言したぞ。そもそも、道も町もそこにはないはずだと。なら、国も知らないわけだよな? そういうことなら、事実上、ここは誰のものでもないだろう」
「でも……なんだかここ、涼しいですよ」
薫が今更のように両手で自分の身体を抱き、きょろきょろした。
「明らかに外より涼しいですし。上着だそうかしら」
「本当ねぇ。クーラー入ってるのねぇ」
空美ちゃんが感心したりな。
「あたし、そういうことに詳しいとは言えないけどー」
絵里香ちゃんが俺のそばまで来て、高原を見た。
「こういうの建造するのって、お金もかかるし、作業員の人も大勢いるんじゃない?」
「まあ、そうだよな」
相変わらず高原は他人事みたいに言いやがる。
「当然、重機だってガンガン入って工事しなきゃいけない……はずだ。しかし、これも調べた限りでは、そんな兆候はなかった。せいぜい、入り口のあそこで人が数日間ほどうろうろしていたのを、ここをルートにしている長距離ドライバーが見たくらいか。それが、まだ半年前の話だけどな」
「つまり、総合するとこういうことか?」
俺は顔をしかめつつ、今までの怪しい話をまとめてみた。
「なぜか地図には存在しないのに、上空から見ると綺麗な町が樹海の中に見える? このやたら豪勢な白壁の道は、どうもそこへ通じているらしい? しかし、状況から考えて、町やこの道は、少なくとも半年前以前にはなかった可能性がある?」
「いつから存在したのか、そんなことは知らんがな」
高原は上機嫌に言ってのけた。
「しかし、現代の技術で、果たしてそんな短期間にこれだけのものができるかだよな。それとほれ――」
こいつは前方を指差し、にんまりとほくそ笑む。
「先遣隊が最後に到達したのが、あそこだ」
「うおっ」
高原の顔ばかり見ていたので、気付くのが遅れた。
この道は、緩やかに湾曲してから、いきなり広場みたいな空間に出て、その反対側に、さらに先へ続く扉があった。
やはり金属製で――大きな錠前みたいなのがついているが、誰かがぶちこわしたのか、もう破壊されている。扉の隅にでっかい斧が立てかけてあったしな。
「これ……壊されてるぞ」
「おう、俺が破壊するように電話で指示した」
おまえが原因かっ。危ない奴!
「高原君は……ワルねぇ」
絵里香ちゃんが唸るように言うと、高原は「ふっ」と長髪を掻き上げる。
「照れるな」
「誰も褒めとらんわっ」
俺が言い返す間も、高原は壊れた錠前を外してそこらに投げ、俺に声をかけた。
「おい、見てないで手伝え。見りゃわかるだろ? 一人で開けるのは無理だ」
「……毒を食らえば、なんとやらか?」
やむなく俺は両開きの片方に取りつき、力を入れる。
意外にも、巨大な扉はスムースに動き、ちゃんと開いた。
「よし、ここから先が、ようやく未踏の地だぞ」
またしてもパッパッパッと、綺麗に奥へ向かって明かりがついていく通路を前に、高原が誇る。何が未踏だ、登山じゃないっつーの。
「金属製ですよ、ここから先っ」
可憐が眉根を寄せた。
確かに……明るくなって、わかったことがある。
さっきまでの道は、なんだかんだ言ってもまだ「人が建造したものだよな?」という気がした……見かけだけは。
しかしここから先はどうだ? ぬめるように光る銀色の壁と黒い足元が、どこまでも先に続いている……ように見える。
四次元トンネルみたいに怪しい外観で、人の手によるものとは思えない。
「……むっ」
「どうしたっ」
高原の声がしたので慌てて見ると、こいつは見たこともないタイプの携帯を持って、首を傾げていた。
「さっきまでなにもなかったのに、なぜか衛星携帯電話が不通になった。昨日の時点でも、まだ使えたんだが」
「えーせい携帯電話ってなぁに?」
空美ちゃんが俺の服の袖を引いたが、俺はなんと答えたのか、自分でも覚えていない。
正直、もう戻りたい気持ち全開だったが。
個人的にはそうもいかない事情があるしな……。