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最強に怪しい場所


 俺がちらちらと可憐を眺めている間に、半時間くらいたちまち過ぎてしまった。


 ドライバーの人が笑顔で「着きましたよっ」と景気よく言って停車したが。

 俺がリュックだけ背負って降りた場所は、なんの変哲もない二車線の……多分、県道だった。


 ただし、樹海に着いたという意味なら、まさに正解である。


 なにせ、左右は鬱蒼うっそうとした森が広がっている。 

 なんか街灯というか、明かりの設置もあんまりないし、こりゃ夜になるとたまらんぞ。怖いなんてもんじゃないわ。


 それともう一つ――停まったバスの前の方に、黒いバンが三台ほど停車してて、車体にナントカサービスとか書いてる。




「あれ、おまえのとこの車?」

「そう」


 ジーンズとシャツの軽装で、高原が頷く。


「万一の時の用心にな」

「たとえば、どういう時の?」

「それは、起きた時に言うさ。先に不吉なことを言うと、本当になりそうだしな」


 ……真顔で言うのやめて。


「じゃあまあ、それはいいとして」


 俺と高原は本当に軽装だが、可憐はデカいトランクをバスから降ろそうとしているわ、薫はコンパクトで髪型直しているわ……こいつら、ここがどういう場所か、見えてるのかよ?


「可憐っ」


 俺はまず、妹に叫んでやった。


「そんなのいくら俺でも、持って歩けないって。戻せっ」

「えっ。でも下着が一週間分入って――」

「そんないらんし、持って行けないのっ。いいから、小型リュックにちょっとだけ詰め替えろ」「わ、わかりました……確かに、無理がありそうですね」


 十重二十重に折り重なるような木々の森を見て、可憐がため息をつく。


「当然!」


 俺は即答した。


「ついでに服も着替えような」

「は、はい」

「薫、おまえも同じだぞっ。荷物は最小限な」


 高原も妹に指示した。


「えっ……会社の人に荷物運びを頼むのでは?」


 他人事みたいにやりとりを聞いてた薫が、可憐よりさらにナメたことを言う。

 おまえは、エベレスト挑戦する登山家かよ。ここにゃ、便利なポーター的な人はいないわい……いや、もしかしているのか?


 一応高原を見たが、さすがにしっかり首を振ってくれた。


「真っ先に突入するのは俺達の役割だから、余人は連れていかない。薫、いいから荷物を加減して、服も着替えるんだ。動きやすさ、第一!」

「わ、わかりました」


 もの凄く嫌そうに、バスへ戻ったぞ。

 どうでもいいが、服装もフリルミニとブラが透けてるシャツってどうなんだ? あれで樹海を渡ろうってか!?


「でもここ、あたしはともかく、可憐ちゃんや薫……さん? とにかく、あの二人は無理じゃない?」


 ジーンズと長袖シャツの絵里香ちゃんが肩をすくめる。

 こちらはさすがにふさわしい格好だが、ディパックの後ろに竹刀袋みたいなのを括り付けてるぞ。まさか、木刀じゃないだろうな。


「空美は心配しなくていいのか?」


 高原が不思議そうに絵里香ちゃんに問うと、空美ちゃん本人がにこっと笑って俺の手を握った。


「無理だと思ったら、おにいちゃんに抱っこしてもらうから、平気なのよっ」

「はははっ、こいうつっ」


 綺麗な髪をわしゃわしゃさせて俺は破顔する。

 いや、空美ちゃんなら喜んで抱っこするさ。うん。


「しかし、ここって下は大昔に富士山が噴火した時の溶岩が固まってるんだろ? 歩きにくいなんてもんじゃないと思うんだが」

「そう思うだろ?」


 なぜか高原がニヤッと笑った。


「それが……そうでもないんだな……下調べしてくれた連中の報告だが」


 なら、自分の手柄みたいに言うなよ……と俺は思ったが。

 高原がへそを曲げて、「ならおまえだけ、荒れたところを歩けや」と言われたら嫌なので、黙っておく。

 そのうち、可憐が短パンと黒ストッキング、薫が競泳水着にパレオみたいなのを付けた格好で降りてきた。可憐もアレだが、薫はなに考えてんだ。


 高原はしかし、ちらっと見ただけで肩をすくめた。


「よし、みんな揃ったな? では出発だ」




 皆が緊張して頷いた……のと同時に、目の前のぐちゃぐちゃに不揃いの森を見て、うんざりした表情を見せる。

 しかも、なぜかすぐ眼前には、わさわさした丈の高い雑草モドキが立ち塞がってるしな。


「迂回しようぜ、これは」

「馬鹿、気付いてなかったのか?」


 高原が呆れた目つきで俺を見た。


「これは、先に下調べの連中が置いてくれた、カムフラージュ用だ。まあ、元々隠されていた入り口で、最強に怪しい場所だけどな」


 言うなり、両手で雑草群を抱えて、あっさり脇へ避けた。


「作り物だったのかっ」


 慌ててその後ろを見ると……なんと、四角く口を開いた真新しい入り口が。防空壕の入り口みたいだが、コンクリートだぞ、これ。


 金属製の扉はあるが、鍵は外れていて、高原があっさり開けた。

 その先には……自動で次々と明かりが点灯していく、やたら綺麗な道がっ。


「わあっ」


 空美ちゃんだけは歓声を上げたが、高原は例外として、俺達はそっと顔を見合わせた。こんな場所にこんな入り口……ヤバくないのか、これ。


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