数字の急上昇と、光の乱舞
すっかり緩んだ空気になった俺達は、もうすぐ樹海へ到着するという辺りで、小休止をとった。
車内でも休憩しているようなものだったが、自動販売機が集まっている道の駅みたいな場所があったのだな。そこにはお手洗いもあって、ドライバーの人が「ちょっとトイレ行かせてください」と言い出したのがきっかけだ。
どうでもいいが、ドライバーのおじさん、高原のことを「若社長」と呼んだぞ!
「おまえ、系列会社のどれかで、責任者でも務めてるのか?」
車を降りた俺が訊いてみると、こいつ平然と言いやがったね。
「そうじゃないが、今はうちの親父が調子悪くてな。名目上はまだ親父が社長だが、重要な決めごとはしばしば俺がしてるんだ」
「うおうっ」
「うおー!」
驚いた俺の声が面白かったのか、空美ちゃんが笑顔で真似た。
「すげーなー、その歳で実質、財閥を動かしてるのかー」
「別に継ぐ気はないがな」
自動販売機で缶コーヒーのボタン押しつつ、高原が驚くようなことを言う。
「ええっ!?」
身内の薫が悲鳴を上げるわ、絵里香ちゃんや可憐が注目するわ。
「お兄様、次期当主になるはずではっ」
「おまえに譲るぞ、そんなもの」
高原がまた、あっさりと言う。
「俺は高校卒業したら、一度、世界中を旅して回るつもりだ――ケージも一緒にどうだ?」
「い、いや……そんなスナ○キンみたいなこと言われても。魅力的ではあるがなあ」
「駄目ですよっ」
黙って聞いていた可憐が、慌てたように言う。
「高原さんと違って、うちは兄妹で世界旅行するほど、余裕ないんですからっ」
「ええっ?」
絵里香ちゃんが驚いたように可憐を見た。
「ははは、こいつうっ」
驚きはしないが、高原が朗らかに笑う。
「自分もついてくる前提で割り込むとは、さすがに可憐だな?」
む……言われてみれば、今のはそういう言い方だよな。
可憐が赤くなってそっぽ向いたし。
あいつが注目浴びている間に、俺はまたしても気合い入れて頬――いや、今はおでこに注目した。
そろそろ数字下がったかな……て、むしろ上がったあっ。
なんと、さらに増えて119!?
昨日から様子がおかしい気がしてたけど、また上がってるじゃないか。しかも、上昇率が高くないか?
しまいには、救急車呼ぶかって話だよ!
「ん? どうした、ケージ」
「い、いやっ」
俺が慌てて可憐から目を逸らすと、なぜか絵里香ちゃんと空美ちゃんが同時に声を上げた。
「ああっ」
「きゃー」
「え、なに?」
「なにって、ケージ君も気付いたんじゃなかったの?」
絵里香ちゃんが、俺がなんとなく向いた方の空を指差す。
全員がそっちを見て――真っ先に薫が呻いた。
「……嘘でしょ?」
「おおっ。昨晩おまえらが見たのも、あんなのか?」
高原がわざわざ指差した方には、青空を横切る、目立つ光点があった……数えると四つも!
「い、いや。俺達が見たのはもっと母船みたいな巨大なのだが」
「そうか、じゃあ後の楽しみだな」
呑気なこと言いやがるっ。
「そう言えば、この辺りからもう目撃情報が多発している地区に入っていた。俺としたことが迂闊だったぞ」
言いつつ、素早くスマホで写真など撮ってやがる。
「車に一眼レフを取りに戻りたいが――」
高原が呟いた途端、光点はいきなり、それぞれデタラメな動きを見せて、乱舞した。それこそ、中に人が乗っていたら「ありゃ乗員がタダじゃすまないだろっ」と思うような急激な上下運動や、ジグザグ運動で、UFOがしばしば見せると言われる飛行の仕方だった。
実にわざとらしく、俺達の遥か上空でそんな動きを見せると、そのまま一瞬で消えた。
「あそこっ」
空美ちゃんが素早く別な方を指差す。
「消えたんじゃなくて、もうあんなところまでっ」
いつのまにか視界の外へ出たUFOを見て、薫がまた声を上げる。
「ていうか、方向的には俺達が向かう方だよな、あっちは」
高原は平然と不吉なことを言いやがった。
「あと半時間ほどで到着だ。楽しみにしておこう」
「……よせやい」
俺は盛大に顔をしかめてしまう。
ていうか、ついてきてしまった空美ちゃんも心配だが、この調子だと可憐も心配だぞ。この馬鹿高い数字に、どんな意味があるんだろうか。