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一瞬で、遠足の空気に


「もちろん、ヤバいのは、一般人が偶然撮ったUFO動画だけじゃない」


 俺達が考え込んでいるのを見て、高原が補足説明してくれた。


「別に動画サイトに限らないが……自分がアップしている動画を、誰が見ているかなんて、大抵の奴には詳しくわからないわけだ。正直、男か女かさえ、確かなことは言えないだろ?」

「それはそうですね……」


 兄の前ではやたら丁寧な薫が、コクコク頷く。


「前にWebゲームに参加して、ある高レベルチームに入れてもらったことがありますが、あたしに色々教えてくれた自称十五歳の忍者キャラが、ひょんなことから、実は八十五歳のおじいさんだとわかったことがあります」

「おぉおお」


 思わず声が洩れた。

 ネカマの話はよく聞くが……まあ、そういう可能性もあるか。


「話を戻すが」


 高原が両手を広げて、続けた。


「つまり、ネットにある動画だって、同じく誰が見ているかわからない。そこら辺の学生とか会社員とか、普通人がほとんどだろうが……中には、思わぬ大物が見ている時がある。たとえば、立場上、断ることが出来ずに、UFOの秘密に触れてしまった科学者とか技術者とかな。そういう連中がこそっと本物のネタを送ってきたりする時もあるわけだ。そういうヤバいネタを、何も知らない動画主がアップすると……後はわかるな?」


 いや……そんなこと言われても。




「ちょっといいですか」


 興味が出て来たらしく、珍しく俺の正面に座る可憐が、真面目に手を上げた。


「そもそも、宇宙人の実在についてはどうなんです? 確かにわたし達は昨晩、巨大なUFOを間近で見ましたけど、それって他国の新兵器って可能性はありませんか?」

「なかなか良いところをつくな、可憐」


 なにやら満足そうに、高原が頷いた。


「俺がテレビの某解説者なら、『あぁ、よい質問ですねぇえええ』と大仰に指差すところだ」

「い、いえそんな」


 みんなの視線が集まったせいか、可憐は恥ずかしそうに俯いてしまった。


「第二次世界大戦当時、実は同じ疑問を各国が共有していた時がある。当時、プロペラ機が当然の戦場で、なぜか円盤型の、超高速で飛ぶ飛行物体が目撃されているんだな……それも、何度も。どこの国も、『ありゃきっと、敵の新型だっ』と信じていたが、いざ戦争が終わってみると、どこの国もそんな機体なんか持っていなかったという……当時、そういう勘違いされた飛行物体は、フー・ファイターと呼ばれていた。まだUFOなんて言葉がなかった時の話だ」


 いつしかみんな、車体にもたれた高原に大注目していた。

 それを知ってか知らずか、高原はまだ続ける。


「もちろん、これだけじゃ、別に宇宙人の実在を示す証拠にはならない。そのフー・ファイターだって、本当は名乗り出ないだけで、どこかの国の兵器だったかもだしな。……だが、実は宇宙人の実在については、驚くほど有名な要人が証言しているのを知らないか? たとえば、カナダの元国防相とか」

「こくぼうしょーっ」


 なぜか楽しそうに空美ちゃんが復唱した。

 こういうネタは大好きらしい。


「国防相って、本物の?」

「実際に職務についてたのはだいぶ昔だが、もちろん本物だ。だからこそ、大騒ぎになったのさ。だいたい、政治家でそういう暴露する奴は、意外にも多いぞ? ロシアにも似たような発言した大物がいたはずだ」


 興味深そうな絵里香ちゃんに高原は大きく頷く。

 友達みたいに語るのが渋い。


「内容はいちいち話さないが、宇宙人とUFOは遠い昔から地球に来てるとよ。ついでにもう一人挙げると、CIAの某元職員が病に冒され、死の間際に重大な証言をしてたな。YouTube☆にも動画があるが。彼は、エリア51には、本当に宇宙人の死体とUFOが隠されていたとインタビューで断言している。人は、自分が死ぬ間際には、あんまり大嘘は言わないと思うぞ。特に大勢から物笑いの種にされそうなネタをわざわざ動画にアップするとか、普通はないと思わないか?」


「人の中に紛れ込んでとうに住んでいるのかもねぇ、宇宙人さん」


 また空美ちゃんが無邪気に言ってくれたが。

 インプラントの疑いがある俺としては、仮に本当にそうだとしても、その宇宙人とやらがいい奴だとは、とても思えん。




「ま、今は樹海の謎の町のことを考えつつ、メシでも食おう。まだ到着まで時間あるしな」


 ふいに高原が話を打ち切った。


「えっ」


 驚いて時計を見ると、おお……もう昼近いのか……すっかり話に引き込まれたなぁ。

 しかも高原は、本当にこのバスモドキに人数分の弁当を積んであったらしく、前方の座席の方へ行ったかと思うと、人数分の弁当を運んできて、俺達に配ってくれた。


「焼き肉定食が基本だが、苦手なら、豪華シャケ弁当もあるぞー」

「空美、シャケがいいのっ」

「おう、食え食え。空美が魚食うと、さらに頭がよくなりそうだしな。ほれ!」

「ありがとう!」


 こいつしかし、用意がいいな、いつもながらっ。

 薫まで、手伝ってペットボトルのお茶なんか配ってるし。


 今まで宇宙人のヤバさを語っていたし、その前には不気味な電話もあったのに――もうこの一瞬で、車内が遠足の空気になったじゃないか。



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