ある、有名動画サイトの消失
「何が言いたいんだ?」
『難しいことは言ってないよ。これまでが平穏だったんだから、なにも今、改めて行動を起こす必要はないじゃないかって言いたいのさ』
なかなかもっともな意見だが、あいにくそれじゃ俺の気が晴れない。
顔をしかめていると、なぜか高原が身を乗り出し、ゼスチャーで俺に貸せっという手つきをした。少し迷ったが、なにか考えがあるのかと思って、そのままスマホを渡してやる。
すると、いきなりこいつは問い詰めたね。
「おまえ、MIBとかか?」
俺達は顔を見合わせたが、しばらく黙って聞いた後、こいつはまた言った。
「番号非通知で電話してくるようなショボい奴に言ってもしょうがないかもだが、だが、これだけは覚えておけ。ケージはあれで俺のたった一人の友人でな。こいつがいなくなると、俺は本当の意味でボッチになっちまうんだ。だから、なにか仕掛けるなら、まず俺にした方がいいぞ? 生き残ると、とことんうるさいタイプだからな、俺は」
「おい馬鹿、敵を煽るなって」
慌てて俺が声を張り上げたが、どのみち高原は肩をすくめてスマホを投げ返した。
「言い分は聞こえたらしいが、切れちまったな」
「……お、おまえなっ」
文句つけながらも、俺は密かに感謝していた。
だが、友人を犠牲にして自分だけ助かるのは頂けない。
「一人だけいいかっこすんなよ、馬鹿」
「なに、元々は俺が巻き込まなきゃ、電話なんか、かかってこなかったんだ」
「今の、誰だと思う?」
「わからんが、本当にMIBかもしれんぞ」
高原は大真面目に答えた。
「あの……」
「質問だけど」
遠慮がちな可憐の声と、絵里香ちゃんの声が重なった。
高原が黙って二人を見比べると、代表して絵里香ちゃんが言った。
「MIBって、映画に出てた黒服の人達のことかしら?」
「そう」
あっさり高原が頷き、俺は脱力した。
「あのシリーズかぁ」
「おいおい、馬鹿にしない方がいいぞ。言っておくが、黒い服の男達の噂は、元々映画より遥か以前からあったんだからな」
「UFOに関する目撃者とか、写真とか撮った人達のところへ押しかける、二人組の男達のことですよね、お兄様?」
薫が確認するように問う。
意外そうな目で、高原が妹を見た。
「なんだ、おまえも知ってるのか?」
「むーで立ち読みしました」
「またもや、むーかいっ。人気ありすぎだろ」
「まあ、むーに限らず、リアルの噂も多いからな。……たとえばMIBの仕業とも限らんが、YouTube☆関連で、こんな事件が多発しているのを知っているか?」
高原が思わせぶりに声を低める。
空調の効いた車内で、俺達は思わず前のめりになった。
「よく、動画系サイトで、不思議系のネタを動画の趣旨にしてるユーザーがいるだろ? 古代遺跡とかUFOとか、タイムリープとか」
「空美、病院でたくさん見たのよっ」
空美ちゃんが俺の隣で元気に手を上げた。
「影のいんぼー論とか、UFO見た機長さんとか、そんな話がたくさんあったの」
「うん、まさに空美が見てたような、そんな動画さ。しばしば、本物のUFO動画もネタとして上がる。なにせ、今はネット社会だからな。人気のある動画主のところへは、熱心な視聴者からバンバン情報が届くわけさ……」
「それがなんか、問題でも?」
「大いにあるね」
俺の質問に、高原は断言した。
「たとえば、俺が調べたところじゃ、嘘みたいに鮮明なUFO動画がネタとして届けられた例がある。もちろん、その動画主は大いに喜んで即座にアップしたさ。ところが――数時間後には、自ら問題の動画を消して、そのままばっくれてしまった。もう何年もやってた、人気動画主なのにな」
「それは……ただ飽きたとかじゃなくて、ですか?」
可憐が小首を傾げると、高原は「違うね」と断言した。
「そいつは、YouTube☆で食ってるような男だったんだぞ。だいたい、俺は本人と会って、アカウントを削除した理由を直接教えてもらったしな。……不気味な連中に脅されたから、とはっきり言ってたな」
『脅された!?』
俺達の声が、嘘みたいに重なった。
……ああいう動画サイトってデタラメばかりだと思ったが、中にはヤバいネタを知らずに弄ってた例もあるってことか?
似たようなことをみんなが考えたのか、場がいきなり静まり返った。