非通知と、薫の登場
いざ眠る時間になると、例によって空美ちゃんが俺と一緒に寝たがり――。
俺は別にそれでもよかったんだが、可憐と絵里香ちゃんの強固な反対があったため、仕方なく全員が俺の部屋で眠ることになった。
幸い、予備の敷布団はたくさんあったので、俺を中心に左右に女の子達が固まるという、異例の眠り方である。
掛け布団の方はなぜか足りなかったのだが、どのみち部屋がいろんな意味でむんむんしてたので、こちらはあまり問題にならなかった。
三人のパジャマ&寝間着&薄着の少女達に囲まれ、俺が当惑しただけだ。
眠りにつくまでにかなり時間かかった気がする。
それに、深夜になって、俺はひそかに誰かの気配がすぐそばで見つめているのに気付いた。ただ、もうその時には我慢できないほど眠く、結局、少し薄目を開けただけだけど。
……ぼんやりと霞んだ俺の目には、隣に横になる可憐の背中が見えた気がしたものの、自信はない。
翌朝、ようやく準備を終え、マンション前のバス停に俺達四人は集合した。
昨日帰宅する前に、高原の奴が「ここで集合な」と横柄に申し渡したからだが……時間に正確なあいつは、きっちり予定時刻になって現れた……なんと、結構デカいバスに乗って。
もちろん、町を走る本物のバスほどじゃないが、しかしマイクロバスよりは断然デカい!
「おい、雁首揃えて口を開けてないで、早く乗れっ」
自動でドアが開き、軽装の高原が早速顎をしゃくる。
おまけに、背後には奴の妹――え~、島で一緒だった薫までいた。
セーラー服みたいなデザインの上下を着込んでいて、俺を見てちょっと微笑したりして。
「……久しぶりね」
「いや、ホントに。薫も同行か?」
「ええ、どうせ暇だったし、興味あるから――ところで、ねえっ」
わざわざステップを降りて、俺をしげしげと見つける。
「UFOに攫われて、えっちな実験されたって本当なの?」
俺は憮然としたが、絵里香ちゃん達は軽く噴いていた……笑い事じゃないわっ。
もちろん、犯人は高原だろう。
「かもだよ!」
当人がバスの奥から叫んで寄越す。
「そういうことがあったかもしれない、そう言ったんだ。本当のことだしな」
「やかましいっ」
朝の挨拶代わりに言い返し、俺を先頭にみんなバスに乗り込む。
ちなみに、気まぐれで薫の数字を確認してみたが……71とかだったな。存外悪い数字じゃなくて、ちょっと驚いた。
そういや、前みたいな傲慢な感じしないし。
バスの車内は窓の大半が黒いスモークで覆われ、しかもバスに普通にあるような座席の代わりに、ぐるりとソファーが並んでいる。
床なんてふかふかの絨毯みたいなのが敷かれてるしな。
「すごいのねぇ、走るリビングみたいなのぉ」
楽しそうに空美ちゃんが感想を述べる。
ああ、とうとうこの子も一緒についてきてしまった……ホント、ちゃんと道中、気を付けてやらないとな。
俺は密かに決意する。
ついでに、「このバス、おまえんとこの?」と尋ねると、高原はあっさり頷いた。
既にバスはスタートしていたんだが、一度だけ運転席の方に手を振り、「うちの系列会社から、ドライバーを頼んだ。別に邪魔なんかしないから、安心してくれ。……それより、昨日あれから、何かあったか?」となぜか俺をじっと見る。
絵里香ちゃんが一緒だったせいかもだが、まあこいつは豪放磊落に見えて、意外と細かいところに気付くからな。
俺の顔がよほど不景気だったんだろう。
もちろん、隠す必要もないので、俺はUFO大遭遇の話をしてやった。
「昨日のネットニュースは、おまえ達だったか!」
実に嬉しそうに声を張り上げてくれた。
その間、薫が車内に点在するソファーを集めて(移動可能らしい)、俺達が固まって話せるように、準備してくれた。
「わ、悪いな」
「いいわよ、このくらい」
前と大違いの愛想のよさに、俺はてきめんに恐縮してしまう。
「おい、クッションは置いて、そのUFOの話を」
その時、俺のスマホが振動した。
「ちょっと待て」
俺はスマホを出して断り、画面を見る。
……む、相手の表示がない? 非通知か?
振動を続けるスマホを見て顔をしかめたが……なぜか皆が俺をそっと見ているので、やむなく出た。
「……もしもし?」
『あまり感心しないね』
いきなり挨拶抜きで言われ、俺は息を吸い込む。
「誰だよ、あんた?」
『わざわざ虎穴に飛び込むような必要が、本当にあるのかな?』
こ、こいつっ。
俺の喉が派手に鳴った。こっちの事情を知ってるのか!?
お祝いの言葉をくださった方達や、他に書き込みしてくださった方達、いつもありがとうございます。