俺の行動は、向こうには筒抜けらしい
まあしかし、好むと好まざるとに関わらず、今はUFO問題に取り組むしかないようだ。
俺としても気が遠くなるが、高原が見つけたUFO多発地帯にいけば、なんらかの事実が判明するかも? と期待するしかない。
そんなわけで、後から来た絵里香ちゃんも含めて食事を終えた俺達は、「次は、無事に帰宅した後に美味いものでも食べようね!」という明るい約束をしてから、店を出た。
国道沿いのファミレスだったが、絵里香ちゃん以外はみんな同じマンションに帰るし、その絵里香ちゃんも途中までは一緒だ。
せっかく、見目麗しい少女達と歩いているのだから、俺は「今ぐらいは何かこう、明るいラブコメ的な話題をっ」と思ったんだが――。
なぜかふいにずきっと頭が痛み、自然と声が出た。
「……あっ」
「なにか来るわっ」
驚いたことに、なぜか空美ちゃんも俺と同時に声に出していた。
「怪しい奴でもいるのっ!?」
「なにかって、なんですかっ」
絵里香ちゃんと可憐が、それぞれ緊迫した声を出す。
しかし、俺と空美ちゃんが空を見上げていることに気付き、二人も夜空を見上げ――そして、絶句した。
「もしかして……あれが、噂のUFOというもの? あたし、初めて見るけど」
「わ、わたしだって初めてですっ。ていうか、こっちに来ますけど!」
絵里香ちゃんは落ち着いていたが、可憐は完全に慌てた様子で俺の腕にしがみついてきた。
「兄さん、逃げた方がよくないですかっ」
「……あんなのから逃げられるとは思えないな」
我ながら嘆息気味に告げ、俺はそのまま歩道で立ち止まる。
周囲に通行人はいなかったが、そりゃ都内の国道だし、車はそれなりにビュンビュン走ってる。なのに、まだ誰も気付いていない。
北方の空から恐ろしい勢いで……オレンジ色の光球が近付いてくることを。
「逃げない方がいい気がする。車の往来があるところにいる方が……まだマシだ」
俺が呟いた時には、もうその光球は俺達の頭上にいた。
しかもこいつ、猛スピード状態から、一瞬で静止してのけたぞっ。今更だが、既存の航空機では有り得ない。
あと、思ったよりデカい!
おそらく、直径数十メートルはあるだろう。オレンジ色の輝きの中に、なにか巨大な物体が浮いているのまで見える。
だいぶ降下してきたせいか、ようやく周囲も異常に気付いたようで、国道で次々と車が急停止する音がした。それにドアが開く音が続き、口々に叫ぶ声も。
誰かがスマホを夜空に向けるのが、視界の隅に映った。
まるで、それが合図だったかのように――オレンジ色の光球は一瞬で消えた。正確には、凄まじい速度で元来た北方の方へ飛び去った。
奥歯を噛みしめていた俺は、「ふうっ」とため息をつく。
可憐達三人も、例外じゃなかったな。
「時間は――」
俺はスマホを出して、時刻を確認する……もし再びUFOを見た時には、必ず時刻を確認しろ――去り際の高原に言われた通り。
「大丈夫、今度は時間が飛んでない。ファミレス出た時も、ちらっと時間見たし」
俺の言葉に、可憐が厳しい顔付きのまま訊き返した。
「でも、どうしてわたし達の頭上に? しかも、少し静止してただけで、すぐいっちゃいましたし」
「なにかの脅しなの?」
絵里香ちゃんもむっとしたように言う。
もちろん勝ち気な彼女は、これっぽっちも怯えてない。
「当たらずといえども遠からず、かも?」
どう言えばわかってもらえるか悩み、妹とは反対の腕にしがみつく空美ちゃんを見下ろした。
「今のは、警告……の気がするのよ」
どうやら俺と同じ意見だったらしく、空美ちゃんはためらいがちに言ってくれた。
「それはつまり――」
絵里香ちゃんがまた口にしかけ、しかし今度は首を振った。
でも、なにが言いたいかは、もちろん俺にだってわかる。
『向こうはあたし達の動きに気付いてるってこと?』
……と指摘したいのだろう。
正確には、連中は俺の動きに気付いて出て来た気がするが。
これは、いま起こったこと以上に深刻な話だ。
なぜなら、要するにインプラントは笑い事じゃないって話になっちまうからな。
俺の行動は、向こうには筒抜けらしい。