ひ、ひみつなのよっ
とは言うものの、そりゃ俺だって、余計な事実を知ってしまった以上、原因を知りたいとは思う。
特に気になるのは、俺自身、去年のUFO目撃事件のことなど、さっぱり覚えてないことだ。
やむなく俺は、散々脅かしてくれた高原と、明日早朝の集合を約束した。
つまり、樹海探索に向かうってことだ。
あんまり楽しい場所とは思えないので、その夜俺は、「空美ちゃん歓迎&樹海での無事を祈って晩餐会」を提案し、近所のファミレスで夕食を摂った。
「……それはいいですけど、どうしてまた夜中に絵里香さんを呼び出すんですか? ご迷惑じゃないですかっ」
俺がスマホで絵里香ちゃんを呼び出すと、早速可憐が文句つけやがったが、これは絵里香ちゃん当人が素早くフォローしてくれた。
「あら、あたしは声かけてもらって、嬉しいわよ! もちろん、明日も同行するからっ」
「そ、そうですかっ」
引きつった笑顔の可憐は、すっかり大人しくなったな。
「いざという時に、絵里香ちゃんは頼りになるからな。殴れる相手なら、エイリアンだって余裕だ……多分」
俺が期待を込めて教えてやると、既に説明を聞いていた絵里香ちゃん本人が首を傾げた。
「さすがに宇宙人の相手は初めてねぇ。そもそもあたしの元の世界じゃ、そんな概念はなかったからね。自分達の星の周囲を、太陽が回ってるとみんな信じてたし」
――思いっきり、天動説ですかいっ。
ちなみに、絵里香ちゃんと可憐は、ボックス席の正面に並んで座っていて、俺は空美ちゃんとペアだ。
空美ちゃん、そんな素早いように見えないのに、いざ座る時は必ずいつの間にか俺の隣にいるという……つか、この子の処遇をどうしたものかね……まさか、そんな場所へ連れて行くわけには――。
「――空美もいっしょに行くうっ」
ハンバーグステーキをつついていた空美ちゃんが、ふいに俺に申告した。
「どわっ。考えていること、わかった!?」
「ん~んっ」
空美ちゃんがゆっくり首を振る。
「でも、そろそろ空美がお留守番する話になりそうかなって」
聞いた途端、女性二人がため息をついた。
「す、凄い」
「これは、新たなる人類の形かもね」
可憐はともかく、絵里香ちゃんまでそんなことを。
まあ、俺も賛成だけど。ニュータイプだと真面目に思ってるからな。
「ありがとうな、空美ちゃん。心配してくれてるんだよな」
「うん……それもあるけど」
ずごごっとアイスティーを一口飲み、空美ちゃんが濡れたような黒い瞳で俺を見上げる。フクロウの目と違って白目部分がちゃんとあるせいか、空美ちゃんの瞳は全然平気だ。
むしろ、この深い色合いの瞳に見惚れるな。
『あのね』
なぜか背伸びして、俺の耳元でひそひそやる。
『昨晩、おにいちゃんと空美の夢を見たのよ』
「なんですと!?」
思わず声が出たっ。
絵里香ちゃんと可憐が注目したが、愛想笑いで誤魔化し、今度は俺がひそひそ返す。
『それって……もしかして、俺が膝枕されてなかった?』
『違うけど――え、おにいちゃんも空美の夢を見てくれたの?』
ひどく嬉しそうに言われ、俺は小さく頷いた。
『空美ちゃんの見た夢は?』
こそっと訊くと、なぜか空美ちゃんはぼっと赤くなった。
『ひ、ひみつなのよっ』
そのまま囁くのをやめて、俯いてしまう。
気になるじゃないか!
「おほん。……二人でひそひそ話はやめてね、気になるから」
絵里香ちゃんに注意されてしまった。
「そうですよっ。感じ悪いですよ、兄さん!」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと公に言えないようなこと――」
その時、俺はいきなり思いだした。
今朝見た空美ちゃんの夢……その中で、俺と空美ちゃんがいた部屋だが……今思えば、八畳間だった。
ひょっとしてあの夢、正夢というか、起こりえる未来の一つなのか、マジで!?
だとすりゃ、空美ちゃんが見た夢の方は、どんなだったんだろう?
「兄さん?」
「あ、ごめん。……うん、内緒話はもうやめだ」
俺は慌てて絵里香ちゃんと可憐に笑いかける。
「とにかく、今日はうちの奢りだから、じゃんじゃん食べて、みんな」
「うちの奢りというか、うちの家計から出るんですよっ」
可憐に突っ込まれたが、俺は上の空でまだ考え込んでいた。
こんな時じゃなきゃ、この予知夢の方を詳しく調べてみるのにな。