表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/159

幽体離脱と明晰夢(めいせきむ)

  

 正常に戻ったのはめでたいが、今の出来事に対する驚きは、継続中である。

 俺は落ち着くために、ひとまず日記をしっかりと元の場所へ戻し、ハシゴも戻し、そして玄関のチェーンロックも解除した。


 これやったままだと、帰宅した妹が入れなくて、怪しまれるからな。


 その後、自室へ戻ってPCを点け、考え込む。

 まず、さっきの幽体離脱が真実か幻かだが――俺は、あれが気のせいや幻だとは、到底、思えなかった。


 別に起きた直後でもなし、頭はボケてなかった。はっきりしていたはずだ。


 だいたい、すっかり「俺の想像上の友達だったんだ」と思い込んでいた幼馴染みだって、まさに今日、実在が証明されちまったしな。

 異世界から迷い込んだ幼馴染みに比べりゃ、幽体離脱ごとき、ナンボのもんだって話だ。

そこで俺は、「困った時のグーグル先生」とばかりに、インターネットの海にダイブし、情報を探った。


 多分、望む答えが見つかるだろう。





 ……半時間後、俺はリビングのソファーに横になって、必死で特訓を重ねていた。


 ネット検索によると、どうやら幽体離脱には二つの解釈があるようだ。

 一つは「あんたそれ、明晰夢めいせきむを見ただけだよ?」というのと、二つ目は「ガチでマジの魂が抜けた幽体離脱でした」という、二種類。


 前者は、ほぼ「夢を見ていることを自覚している夢」に過ぎず、後者こそがガチである。


 まあ、専門的な区別は実は違うかもしれないが、魂なんてもんが絡む時点で、半分はフォースと同義な気がする。

 俺が知りたいことはだいたいわかったし、文句ない。


 話は戻るが、俺は非常に気の多い男かつ、好奇心旺盛な人間である。

 そこで、さっきの体験はほぼ「本物の幽体離脱だった」と仮定して、今こうして先程の再現を試みているわけ。


 さっきはびびったけど、もう一度できるものなら、やってみたいと思ったのだな。なにしろ、魂だけふらふら出歩けるというのは、割と面白そうだしな……まあ、いろんな意味で。


 言うまでもなく、覗きをするためじゃなくて、あくまでも好奇心が原動力……のはずだ。


 ネット情報によると、「身体の力を十分に抜き、もう少しで眠ってしまう寸前になったところで、軽く身を捻る感じをイメージ(意訳)」的なことが書いてあったので、それを練習している。


 そういや風呂場の時も、俺は慌てて身を起こそうとして、見事に(多分)魂が抜けたしな。やってみる価値はあるだろう……考えるな、感じるんだ俺。




「力を抜く……抜く……意識が曖昧になって来た……それ、ふんっ」


 声に出してやって何度もやってみたが、イマイチ上手くいかない。

 そもそも、声に出すと意識が逆にはっきりして駄目だ。よし、無言でがんばろう。


(力を抜く……抜く……抜く……意識がだんだんとろけてきた……今だ、ふんっ)


 身体を捻るイメージをしたが、全然駄目。




「なんだ、ガセネタかよ、くそっ」


 早くも飽きが来て跳ね起きると、「きゃっ」と小さな悲鳴がした。そして、鈍い音も。


「なんだ?」


 ソファーの背もたれの向こうを見ると、セーラー服姿の可憐が尻餅をついていた。ソファーを覗き込んだところへ、急に俺が起きたせいで、バランス崩したのだろう。


「だ、だめっ」


 両足を立てていたが、俺と目が合った途端、慌てたような声で両足を伸ばし、スカートをばっと押さえた。


「み、見ましたかっ、見ましたか!?」

「なにも連呼せんでも。安心しろって」


 ――ばっちり見たから!

 とは言わず、首を振ってやる。今日は純白レース付きか……ふむ。


「な、ならいいんですけど……一体、なにをやっていたんです? 虫歯が痛むような顔をして、鼻息荒かったですっ。驚くじゃないですか!」

「えー? 俺、眠そうな顔じゃなかったか?」

「あれが眠そうな顔なら、フルマラソンを走る選手だって、眠そうな顔ですっ。……本当ににいさんはもうっ……けほっ」


 説教に繋げる途中で小さく咳き込み、口元に手をやった。

 どうも……少し顔も赤いような。


「おまえ、風邪引いてない? 今インフルエンザが流行ってんだぞ?」

「大丈夫ですから、ご心配なく」


 やんわりと否定した後、「にいさんこそ、検査はどうでした? 今日は検査日だったんでしょう?」と尋ねた。いやなことを訊きやがる。


「いや、俺はサボった」

「ええっ!?」


 途端に、まなじりを吊り上げる妹である。

 自分だってサボるくせに、俺がサボると説教と嫌みが始まるという……今回もそのパターンで、俺はその後、こってり説教されちまった。




 ――まさに、その夜のことだ。


 もはや風呂場の出来事も可憐の長い説教も忘れた俺が、安らかに眠りに就いていたはずの時間である。


 俺はふと目を見開き、立ち上がった。

 振り向けば、幸せそうな顔で口を半開きにし、爆睡している「俺」が見えた。


 ……え、あれ?

 しばらく考え、腑に落ちた。


 ああ、これが明晰夢だな、と。夢の中で「これは夢だ」と自覚している状態である。


 明晰夢の中では好きなことができるが、ただし世界には反映されない。

 あくまで夢だし。



「だがまあ……ちょっと試すか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ