謎数値の意味と、密かな計画の開始
7月1日 心にもないことをしちゃいました
お兄様が気を利かせて、お洗濯の時にわたしの服と下着も洗ってくれたのですけど、わたしは感謝より先に恥ずかしさが先に立ち、めいっぱい怒ってしまいました……。
頬を打ってしまいましたし、心にもない罵倒を、たくさんしちゃった気がします。
どうしてわたしは、いつもこうなんでしょう。
本当はこんなに愛しているのに……。
お兄様は今度こそ……ええ、今度こそ、わたしを嫌ってしまったに違いありません。
もう昨日のことなのに、そう思うとひどく気分が悪くなり、今日は学校を休んでしまいました。
今から図書館へ向かい、自習でもして過ごします。
……ごめんなさい、ごめんなさい、お兄様。
どうか許してくださいね。
深い後悔を秘めた可憐より。
○――――○
「マジかよ」
たまたま見つけてしまった日記を読んだ俺は、思わず唸った。
樹可憐……言わずと知れた俺の妹で、中学二年生(俺は高一)
あいにく、血は繋がっていない。いないが、この日記の記述は、どう考えてもドッキリの仕込みじゃないのだろうか?
だいたい俺の妹は、こんな殊勝な性格じゃないんだが。
プ○グスーツが似合いそうな完璧なスタイルと、お嬢様系の美人だが……性格は毒舌プラス冷徹と、いいトコナシだ。
しかし、その妹に昨日、思いっきり張り倒されたお陰で、俺には奇妙な力が備わってしまった。つまり、意識して見れば、妹の頬に数字が見えるという……それに加えて、この日記の記述。
俺、もしかしてあいつに好かれてる!? 初耳なんだが。
戸惑った俺は、とにかく日記を元通りにプラスチックケースに収め、風呂の天井にある配電口の戸をスライドさせ、元のようにそっと隠しておく。
こんなアレな隠し場所にあるからには、本物の日記だと思いたいが……なにしろ昨日は、妹の下着を干してたところを見つかって張り倒されるわ、その直後から、あいつの頬に数字が見えるわ。
さらに、今日になって学校から帰宅して風呂掃除してたら、偶然にも日記を見つけてしまうわで、連日、有り得ないことが続きすぎた。
だいたいあいつは、俺をお兄様などと呼ばない。そう呼んでいたのは、小学校の頃までだ。
これはやはり、なにか悪巧みの仕込みの可能性が――。
「あっ」
そこでふと俺は思いついた。
ないとは思うが、まさかこの日記の記述があいつの本心なら……あの数字って、よもや好感度とか、そんな数字なのか。
頬に赤い字で100とかあったが。
いやぁ、まさかなあ。
「ただいま」
やがて、休んだ代わりに図書館へ行っていた可憐が帰ってきた。
あの日記の真偽を探るべく、わざとらしく俺はリビングにいたんだが――妹は廊下を通り過ぎる時にちらっと俺を見て言った。
「……いたんですか、にいさん。相変わらず、もの凄く暇そうですね」
冷えきった声に、ぐさっと来たああっ。
「夏休み前のテストで、早めの帰宅なんだよっ」
「では、お勉強くらいした方がいいのでは?」
愛するお兄様どころではないっ。
いつもの妹そのまんまやんけっ。
しかし、顔を見ると、感心するほど色白の肌――その頬の部分を気合い入れて注視すれば、やはり数字が見える。
赤い数字で100! 増減ナシだ。
「ふうっ」
「な、なぜため息を」
いつものように罵倒を返さない俺を、可憐はやや動揺した様子で眺めた。
「いや、俺も人並みに傷つくこともあってな」
「……えっ」
初めてするような返事だったせいか、可憐が切れ長の瞳を見開いた。十四歳のくせに大人びたクール系の顔立ちをした奴だが、今回ばかりはなぜ妙に驚いていた。
「い、いつもの挨拶代わりじゃないですか。今日に限ってどうして」
おおっ……なんか言い訳しとるぞ、こいつ。いつも死者に鞭打って、最後に足で踏むよう勢いの奴がっ。
ひょっとしてひょっとするのか。ここは、いつもと違う対応が吉か?
俺は密かに、実験をしてみる気になった。
つまり、「まあ、いつも散々罵倒していい気になっているおまえには、わからんだろうさ」などとアンニュイな声で呟き、そのまま引き上げたのである。
さて、これで可憐はどう出るかな?
他で好感度ゲージなんて出したので、むしろ「数値化の方がわかりやすい」と思い、本作に転用してみました。
ただ、ヒロインが一人だと寂しいので、後でまだ出てきます。
例によって当面は短期連載予定ですが、基本的に長さは未定です。