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彼岸川  作者: 森 日和
3/3

彼岸川伝説

「やめろ!」

「何をする、私は止まらないぞ!」

「そんな事をしたって無駄だ!今すぐやめろ変態会長!」

「黙れ!私は奴を成敗するまでならば地獄の果てからでも蘇ってみせる」

「言ってくれたな、ならば地獄へ行け!」

「先に地獄へ行くのはお前らだ!」

連合会の内戦は熾烈を極め、辺りが暗くなろうと風が強くなってこようと雲行きが怪しくなってこようと不毛な争いは続いた。

太田さんへの復讐を誓った連合会長(旧生徒会長)は戦車に乗り込み、それを会員たちが必死に止めていた。

「離せ!」

「いやだ!」

「おのれ!」

連合会長はついカッとなってしまい、戦車の操縦装置を滅茶苦茶に押しまくった。途端に戦車が踊り出し、周りの油を跳ね除けながら木々に激突した。

「うわ!」

会員たちが戦車から振り落とされ、戦車に轢かれそうになり、顔面蒼白の様子でその場から立ち去っていった。戦車の中に取り残された連合会長は、暴走を止めなかった。太田さんや他の会員たちを道連れにしてでも復讐を果たす、そんな魂胆だったのであろう。戦車は踊りをやめなかった。

太田さんはそれを、まるで虫ケラの戦いを見るように眺めていた。

「太田さん!」

私が公園付近に来た時には既に連合会は退散しており、油の天の川のこちら側に戦車が、向こう側に太田さんがいた。太田さんは私に気づいた様子であり、余裕の笑みでこちらに笑って返した。

戦車は尚も暴れていた。

「おのれ太田め!」

連合会長は狂乱の最中である。私は届けと大きな声で叫んだ。

「そんなこと止めたらどうなんですか⁉︎」

「うるさい!そんな事を言うなぁ!」

もはや私が何を言っても馬の耳に念仏であり、向こう側で太田さんが莞爾の笑みを浮かべているのも目に入った。私はこの場に出くわしてしまった自らの運命を呪い、現在の状況に焦りを隠せなかった。

私が立ち往生している間に、戦車は踊りに踊り、そしてあろうことか時たま轟音を立てて砲撃を展開した。

「なんてことを…貴様街を壊す気か⁉︎」

私は忿怒した。しかし生身の人間には暴れ回る戦車を止める術など皆無であったのだ。私は目の前で行われる狼藉に対して何もできない自分を許せなかった。

しかし、連合会長の暴走は街を壊すだけでは終わらなかった。なんと戦車の砲撃により油の天の川がたちまち火河に生まれ変わり、私達の目の前で大きく屹立した。そしてすぐさま木々という木々に燃え移り、燃え移り……

あっという間に公園付近の森は灰塵と化し、その火の手は私にも襲って来た。

「うわぁぁあ!」

私は死を覚悟した。しかし次の瞬間、私は何と…宙に浮いていたのだ。

「太田さん⁉︎」

そう、私を助けてくれたのは、ブリーフ翼をはためかせ空を優雅に飛ぶ太田さんであった。

「どうして私など⁉︎」

「決まっておるだろう、私は友情を蔑ろにはしない」

「しかし、私など放っておれば…」

「見たまえ」

太田さんは地上の方に顔を振った。私も太田さんにつられて地上を見た。

「これは……」

街は燎原、炎に包まれており、人の悲鳴や喧騒が飛び交い大混乱の様相であった。

「これは全て、私の責任だ…」

太田さんは一つ溜息をついた。

「いいえ、決してそんな事はありません。太田さんは悪くない!」

私は心からの言葉を太田さんに伝えた。太田さんは悪くない、悪いのは連合会長であって、決して太田さんは悪くない。太田さんの生き方を否定する奴が悪いのだと、私はきっぱり言った。

しかし、太田さんは納得している様子ではなかった。そして私に言いかけた。

「良いかお前さん、私の生き方を決して真似てはいけない!」

「そんな……」

「私の苦心の賜物であるこの翼も、飛び立つ際に無下なる炎に晒されて今は燃え尽きつつある。私はイカロスの二の舞となってしまう。だからせめてお主だけでも行くが良い」「太田さん、それって…」

「さあな、だが一つ言っておく。お前さんは、私を理解してくれた唯一の人間であった…感謝する!」

そして太田さんは、私を地上へと投げ捨てた。

「太田さん!」


私は落下し、川の中で滔々なる濁流に呑まれた。かろうじて岸にあった木の枝にしがみついて川の中から顔を出した。

私は足のつかない川岸であっぷあっぷしながら空を飛ぶ太田さんを目で捉えた。

太田さんの左翼は盛大に燃えており、燃えるたびにブリーフの灰が川に降ってきた。

「太田さん…」

私の目の上で太田さんは次第に高度を失って行く。

「このまま川へ飛び込んでください!」

私は叫んだが、丁度そのタイミングで連合会長の乗る戦車が仰角に砲撃を始め、私の声は全く届く様子はなかった。

私は再度忿怒した。連合会長に対する憎悪の念が積もりに積もるばかりであった。

「なぜそうして争いを起こす!」

私は轟音の鳴る赤い夜空に言った。

「なぜそうやって憎しみを増やす!人の生き方に対して、お前達はそこまで酷い仕打ちをするのか!」

私は声が枯れるほどに叫んだ。

「殺すなら私を殺せ!例え太田さんは変態でも、彼の生き方を否定するな!」

私がそう叫んだ次の瞬間、砲撃が激しい轟音と共に太田さんに直撃した。夜の真っ赤に染まる街、轟音が鳴り響く街…そんな中、私の目の前に黒くなった翼の破片が落ちてきた。

「太田さん……」

私は嗚咽を催した。次の瞬間、私の枝を持つ手が力を失った。そして私は波に呑まれ、そのまま……






「不思議だな、この川は…何か力を感じる気がするんだ」

「急にどうしたの広人?」

「ああ、聞いた話なんだけどね。決まって毎年九月二十九日になると、この川は何故か流れが急に速くなって…氾濫してしまうらしいんだ」

「へぇ…不思議な事もあるのね」

「そう、不思議な川なんだ。その不思議さ故に、この川はあの世にも流れていると言われているらしいよ」

「そうなの⁉︎」

「うん」

「面白い言い伝え…なんて言う名前の川なの?」

「彼岸川」

「不思議な名前ね」

「うん。大昔の九月二十九日に、死んでいった恋人を追いかけてこの川へ飛び込んだ男がいました。二人は彼岸の国で幸せに暮らしましたとさ…と言う事で彼岸川って名前らしいよ」

「いい話」

「同性愛だったんじゃないかって言われてるけどね」

「本当に?」

「本当」

「なにそれ、おかしな話ね」

「本当にね」

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