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彼岸川  作者: 森 日和
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変質戦争

「許すまじ生徒会!」

「太田さん、今回はあなたが悪いと思います」

「そんなはずはなぁい!」

太田成美は激昂した

「見ておれ生徒会長!」

私はそれを見て、一句詠んでみた。


ちはやぶる神世の果てに名を連ねる

無下なる男太田成美。


あの私が憧れを寄せていた「孤高の帝王」太田成美は消え去り、今私の前にいるのは「孤高の変態」太田成美である。私は他人事であるはずのその案件についても絶望した。


かくして私は、太田成美との絶交を今度こそ決めたのである。「太田成美と話しただけで監獄棟行き」という生徒会の権力横行による校則が即断即決されてからというもの、周囲の私を見る目が変貌し、流石に私も太田さんとの縁は断ち切らねばならなかったし、ちょうど良い機会であった。

これで一件落着だろう、と私も思った。


そしてその後、部活には無所属だった私は食って寝ての夏期休暇を過ごす事となった。


ちはやぶる神世の夏はいかでかな?

我が夏過ぎされ怠惰な夏よ。


こんな適当な句を詠んだ地点で既に私の精神は夏の怠惰神によって犯されていたのだろう…私は自らの才能を呪った。



夏休み中は、太田成美とは縁がなかったし、太田成美が何か行動を起こしたという情報は耳には入ってこなかった。てっきり私は

「あの太田成美が折れたのか⁉︎」

と思ったそれも束の間、明くる九月十二日…

私はいつも通りギリギリの時刻で学校へと登校したのだが、そんな私の目に映ったのは人波の雲霞であった。

そう、学校の正面玄関の掲示板のど真ん中、即ち一番目立つ場所に貼られていたポスターは、それを見た大衆の注目を独り占めした。そのポスターこそが、後に大事件への引き金となった「生徒会長淫乱簿」であった。

説明しよう。

「生徒会長淫乱簿」とは、生徒会長の本性である女誑しを何者かが言及した資料であった。生徒会長淫乱簿のポスターには大きく生徒会長、それに高校女子の会の会長が睦言を交わし合っている、けしからん写真が大きく見出されていたのだ。

私は犯人の姿をはっきりと思い浮かべる事が出来た。そして焦燥に駆られた。

「あの変態め!かの美貌で知られる五組の生徒会長の写真を……俺にもよこせ!」

私は太田成美の家に押しかけた。


その事件以来、学校情勢は大荒れとなった。

生徒会や高校女子の会の中にも太田成美に味方するものが現れ、学校機関は大きく二分化された。

生徒会長は女子の会会長と、機関を追われた者同士で「対太田連合会」を作り、旧生徒会長が連合会会長として君臨し、彼らに付いて行く者たちの数も少なくはなかった。

「太田成美、許すまじ!」

高らかに野卑な理由から成るスローガンを掲げて、対太田連合会は戦力を整えた。


「どうするんですか、太田さん?」

私は太田成美の家にいた。

「どうするもこうするも、既にこうなることは予期していたのでな。私は私なりに新たな策というものがある」

「しかし、幾ら何でも相手が相手です」

「そんな事はどうでもいい」

彼はいつも通りの赤縁眼鏡、白シャツ、ブリーフ姿でありながらも、かつての神聖さな失いつつあった。

「策はある」

そう吐き捨てた。



九月二十九日

太田成美は二回目の飛行実験を行った。

赤縁眼鏡に白シャツ、ボサボサの髪に青いブリーフ一丁の卑猥極まる姿で、ブリーフで再構築した翼を空にはためかせた。

「対太田連合会」並びに「高校女子の会」が同盟を締結し、太田成美に対していよいよ制裁を加えるべく動き出した。

「どうか止めるんだ!」

新生した生徒会は学校組織としての役割を果たし、彼らを止めようとしたものの連合軍の戦車によって強行突破される事になった。

生徒達はやはり狂乱し、学校は混沌に満ちた。

「こんな事をして何の得になるというのだ、太田!」

「これは私の魂だ、決してお前などに冒涜はさせない」

「たわけ、構うな撃て!」

撃たれるや直ぐに太田成美は地面へと降り立った。裏をかかれた連合会はすかさず戦車から降り、太田成美を成敗せんと総動員で走り出した。

私は太田成美の事を見直した。

彼は決して卑猥で無下な人間ではなかったのだ。ただ己の信念に任せて邪道をひたすらに突き進む、心情に溢れた人間なのだ。

そう思うと、赤縁眼鏡、白シャツ、ブリーフという卑猥な姿の中に、かつて私が見た絢爛さが垣間見えた。

こういう事だったのか、私はようやく太田成美という人物に光を見出したのだ。

「ああ、太田さん!」

私は逃げる太田さんを追いかけた。



さて、太田さんがどのようにして数多の軍勢を具す連合会の追っ手から飄々と逃れる事が出来たのか…答えは簡単であった。

やや高台に位置する公園に彼は籠城を展開し、あろう事が道という道に油を撒き散らしたのである。

「おのれ…!」

道が滑って登れないことに、連合会長は苦渋の顔を浮かべていた。そしてその事実が、彼の思考をより一層危険は方向に走られた。

「もういい、戦車だ戦車を持ってこい!」

「しかし…市街地の道は狭い…」

「構わん!そんなもん何とかなるだろう」

連合会長は独断に任せて戦車を連れて来た。

「これで奴もろとも吹き飛ばしてしまえ!」

「何たる狼藉か!」

連合会長は太田さんに負けた事が随分と気に食わず、ただひたすらに強硬策を取ろうとした。それに対して、連合会の会員達が一斉に声を上げた。反旗を翻したのだ

「やはりあなたは私たちのリーダーには相応しく無かった!」

「黙れ、貴様ら会長に従わないというのか⁉︎会員の分際で生意気な」

「は?俺らはあんたと同じ高校生じゃ、ちよっとは考えろぼけ!」

こうして、太田さんの眼下で連合会による内戦か勃発したのだ。やがて日も暮れかけ、太田さんは日暮れと眼下の阿保な争いに愉悦を感じていた。

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