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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生。復讐の刃。 ~我が魂のゆくえ~

作者: 社畜総大将

異世界転生ものです。




「…………ホントに来ちまったんだな、異世界……」


 村の広場で、俺はぽつりと呟いた。

 周りを見渡せば、のどかで牧歌的な風景が広がり、つい先程まで俺がいた日本の街並みなど存在しなかった。


 ──そう、俺はこの村の人間ではない。

  こことは違う世界からやってきた異邦人、いや、異世界人だ。


「何やってんのー? カインー?」


 遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる(・・・・・・・・・・)。俺がその方向に顔を向けると、こちらに走り寄ってくる赤い髪の少女が目に入った。

 やがて目の前まで近付いた少女は、俺の様子に何か思うことがあったのか、口を開いた。


「……んー? 何ぼーっとしてんの、カイン?」


「あ──あぁ、いや、今日は良い天気だなぁって、はは……」


 少し苦しまぎれな感が漂っていただろうか。少女はジト目で俺を見つめていたが、やがて「ま、いっか」と破顔し、


「何かあったら言いなさいね。この私──エヴァちゃんにねっ!」


「……あぁ、わかったよ。エヴァ」


 そう言うと少女──エヴァは踵を返し、どこかへと歩いて行く。

 去り行くその後ろ姿を、俺はずっと見つめていた。



◇◇◇



 ──どうやら俺は、あっけなく死んだらしい。


 横断歩道を渡る俺を、信号無視して突っ込んできたトラックがこれでもかと盛大にぶっ飛ばしたという。

 当然、俺は即死。そのままこの世とおさらばしたらしい。


 そんな、既に死者である俺が、何故そんなことをつらつらと冷静に述べられるのかと言うと。


「──やあ、調子はどうだい?」


 教えてもらったのだ。この眼前の光の球に。


 (いわ)く、俺達人間にとってその光の球は、神様のような存在らしい。

 神様は言う。俺を別の世界へと転生させてやる、と。


 正直、胡散臭い話だと思った。

 しかし話を聞いてみると、それは確かに魅力的なものだった。

 転生先は剣と魔法や、スキルが存在するファンタジー世界で、モンスターなども普通に生息しているらしい。

 

 マンガやゲーム、ライトノベルが好きな俺は、その世界に転生することを承諾した。このまま寂しく死んでいくのも嫌だった、というのも理由のひとつだが。


 そうして俺は、神様により異世界へと送られることになった。いわゆるチートスキルというやつも授けてくれるらしい。嬉しい限りだ。


 そして俺は、新しい世界へと一歩を踏み出す。

 去り際の、


「では──健闘を祈る」


 という神様の声を背中に受けて。



◇◇◇



 そうして俺は、この世界に来た。

 未だに魔法というものはこの目で見ていないが、村人達の話からすると、やはり実在しているらしい。


 それと、この世界での俺という存在。それは──


「おーい、カインー」


 俺を呼ぶ少女──エヴァの声が聞こえた。

 そう、彼女の言葉通り、今の俺はカイン──カイン・アヴェニールという名前の青年だ。

 どうやらこの世界に来た時に、元々この村で暮らしていたカイン青年に、俺の魂が定着したようだ。


 神様は俺を転生させてやると言っていたが、果たしてこれを転生と言えるのかは疑問だ。


「カイン? 何やってんの?」


「見てわかるだろ。剣の素振りだよ」


 話かけてきたエヴァに、素振りをしながら俺は答える。

 この世界では普通にモンスターもいる。故にそれらと戦う為の手段として剣や魔法が存在し、それを扱う『冒険者』という職業もあると聞いた。


 『冒険者』。その単語は俺の胸を強く打った。せっかくファンタジーな世界に来たのだ。剣ひとつで最強の座に登り詰めたいと思うのは不思議なことではないはずだ。


「へぇ~、やっぱり習慣なんだね」


「…………え?」


「子供の頃から言ってたじゃん。『俺は冒険者になるんだー!』って」


「そうなの──そうだったっけ?」


「そうだよー。幼馴染の私が言ってるんだから、そうに決まってるでしょ」


 ふふん、と威張るように胸を張るエヴァ。

 その様子を見ながら、俺は別のことを考えていた。


 なんと、カイン青年も俺と同じように冒険者になることを夢見ていたらしい。

 だからなのだろう。使い古されたこの長剣が、家にあったのは。


 カイン青年は、この剣を振り続けていたのだ。ずっと前から、それこそ子供の頃から。


「────」


 何も言わず、改めて剣を振れば、妙な親近感を覚える。


 一体、どんな人だったのだろう。

 もし叶うのならば、一度会いたいと思った。


 それが叶うことがないことは、俺が一番知っていたのだが。





◆◆◆




「ふっ──ふっ──ふっ、う──」


 呼吸は荒く。呼吸は浅く。

 光源のない暗黒の世界で、累々と続く何かの残骸を踏みつけて歩きながら、心に思うことは幾つもの疑問。


 何故こんなことに。

 何故こんな場所に。

 何故、自分が。


 何千、何万と繰り返し、未だ答えの見えない『何故』という問い。


 予兆はなく、また、予感もなかった。

 唐突に始まり、同時に、唐突に全てが終わった。


 まったく、自分は何をしているのだろう。行く当てがないまま歩き続けている。

 無駄なことだ。無益なことだ。


 それでも、歩き続けているのは、何故──


「ふっ──、───?」


 物音が、いや、何かの声が聞こえた。

 遠くのような、あるいは近くのような場所から。


 歩を進める。音の方向へ。ゆっくり、慎重にと決めていたのに、焦る心を落ち着けることは難しく、歩むという行為は次第に走る行為へと変わっていた。


 そうして、声のすぐ傍まで近付き、物陰からその発声源を確認する。


「────」


 そこには、人間がいた。


 白銀の鎧に身を包んだ青年。彼の腰に差してある長剣もまた豪奢な造りだ。

 黒いローブを纏った少女。身の丈を越える木製の杖に目を引かれる。

 何の変哲もない鎧を纏う女性。戦士、というにはどこか頼りなく、まだ駆け出しのような雰囲気だ。


 ……何の集まりだろうか。こんな陰鬱な場所にまで来て。


 彼らの放つその雰囲気はとても和やかで、暖かさを感じるほどだ。さぞや仲が良いのだろう。

 けれど、どちらかというとその雰囲気よりも、彼らの姿が気になった。

 特に、あの青年の持つ長剣。あれにはどこか、懐かしさを──


「ふっ──ふっ──」


 ……彼らに話を聞こう。此処はどこで、自分は何なのか。教えてもらって、そして、こう聞くのだ。

 もし良かったら、


 ──自分も連れて行ってはくれないか、と。


 決めたら、後は行動するだけだ。そう思い、一歩を踏み出した時に───そういえば、と。



 ああ──腹が減ったな、と思った。




◇◇◇



「……よし、これでここらのモンスターのスキルは手に入れたかな」


 先ほど切り捨てた狼のようなモンスターの亡骸を一瞥しながら、俺は一息ついた。


 そして少しの後、俺の頭の中で何かが閃いた。それが、俺が倒したモンスターのスキルを獲得した証拠であり、俺のチートスキルが正常に働いた証明でもある。


 ──スキル、『奪略者』。倒したモンスターのスキルを奪うというもの。


 このチートスキルを使い、俺は村の近くに出現するモンスター達を狩り、そのスキルを奪ってきた。と言っても、ここらに現れるモンスターなど大した強さでもなく、獲得したスキルだってまともに使えるかどうかもわからない。


 けれど、最初はそれでいい。

 冒険者になり世界を旅する中で、もっと強い敵を倒し、そのスキルを奪っていけば、いずれきっと俺は最強に成り上がれるだろう。

 だからこそ最初は、地道にコツコツと、だ。

 まぁ、それも早いとこ冒険者にならないと意味がないと思うが。


「……一年、か」


 ぽつりと、独りごちる。

 そう、俺がこの世界に来て、もう一年になる。その間、冒険者になる為の準備期間として、モンスター狩りをしていたのだ。


 そろそろ、本格的に冒険者を始めてみたいと思っている。聞いた話では、街に行って冒険者として登録すれば、冒険者になれるらしい。


「明日、行ってみるかな……」


 善は急げ、というもの。思い立ったらすぐに行動だ。

 これで明日、晴れて冒険者になれば、俺とカイン青年の夢が同時に叶うことになる。


 ──もうどこにもいない、本来のカイン青年へ。

 君の叶うことのなかった夢を、俺が叶えてやる。

 そして、この世界に名前を残すんだ。最強の冒険者、カイン・アヴェニール此処にあり、と。


 だから、安心して欲しい。

 俺がきっと、上手くやってみせるから───




◆◆◆



 

 思っていたよりも、血は赤くなかった。

 思っていたよりも、肉は柔らかかった。

 思っていたよりも、骨は脆かった。


 何十、何百と喰らい殺した感想は、そんなものだった。

 最初は自分の異常さに怖じ気づいたが、受け入れてしまったら──何のことはない。これが別におかしいことだとも思わなくなった。


 当然の摂理だ。強者が弱者を喰らうのは。


 そして今、自分は草木生い茂る森の中を歩いている。

 幾度目かの捕食の後、思い出したかのように自分の中で弾ける感覚があった。


 名前。故郷。夢。そして──大切な人。


 それは失ったのではない。奪われたもの、奪略されたものだ。

 だから、取り戻さないといけない。そう思った。


 それ(・・)がどこにあるのかはわからない。だが、何かに導かれるように歩き続けた。

 そして気付けばここにいた。それだけだ。


 そうして、見つけた。


「────」


 草木の隙間から見える田園風景。その外れ、人気(ひとけ)のない草原にその男はいた。


 見覚えのある顔。見覚えのある髪。見覚えのある体格。


 ──見覚えのある、剣。


「───あぁ……」


 ようやく、全てを思い出した。

 何故こうなったのかは、未だにわからない。だが、それでも、



 奪われたものを──取り戻さなくちゃ。




◇◆◇




 ───そして、その時が来た。




◆◇◆



「が───はっ……!」


 土の匂いが鼻孔を突く。

 俺は今、この大地に突っ伏している。

 村から少し離れた場所。そこでモンスターを狩っていた俺の前に現れた、一人の人物。全身を包む真っ黒な鎧には、生物の血だろうか、赤い斑点がいくつも付着している。


 あまりにも不気味な佇まいのその人物──黒騎士は、現れた直後に俺に向かって長剣を振り回してきた。

 当然、俺も反撃したが、俺の剣技もスキルも何ひとつ通用しなかった。


 あっという間に押し負け、圧倒され、この様だ。


「お、れの……スキル、がっ……効かな……!?」


 倒れたまま呟く俺に、


「──当然だ。俺が、ふっ、どれだけの冒険、ふっ、者を屠ったと、ふっ、思っている。ふっ」


 黒騎士が答えた。

 若い男の声だった。浅く荒い呼吸混じりのその声には、隠しきれない程の憎悪が顔を覗かせている。


 そのまま黒騎士は倒れた俺に近付き、首を掴み無理やり立たせ──いや。


「ぐ………ぁ……っ……」


 首を掴んだまま宙に持ち上げられた。

 信じられないほどの力だ。振りほどこうと抵抗し、バタバタと足を動かして黒騎士を何度蹴ろうとも、その手を離すことはなかった。


「──返してもらうぞ、ふっ、全てを」


 黒騎士は一言呟いた。

 そして──ずん、という音。


「ぎ」


 俺の胸の中心に。

 黒騎士の腕が生えていた(・・・・・)

 いや、違う。奴の腕が、俺の中に入っているのだ。


「あ──あああぁぁああがあぁあああ!!!」


 遅れて去来する苦痛。

 視界が赤い。頭が熱い。


 ばきばき。ぐちぐち。ぶちぶち。


 耳障りな音がする。俺の胸元から。


 そうして、何とも言えない喪失感を覚えた頃。


「最後に──」


 黒騎士が口を開く。何の感情も感じられない声だった。


「最後に、ふっ、お前の名前を、ふっ、聞こう」


「ぁ──う、っ───」


 霞む視界。虚ろな眼で黒騎士を見ると、奴の真っ赤に染まった右手の中にある、脈動する何か。

 それが、自分の心臓だと頭の隅で理解しながら、俺は黒騎士の言葉を思い出していた。


 俺の名前。それを聞かせろと黒騎士は言った。

 俺の名前。それは、幼馴染みだという彼女が、いつも呼んでくれる名前。


 俺の名前。俺の名前。俺の名前、は───



「カイ……ン、アヴェ………二──」



 息も絶え絶え、自分の名前を言おうと力を込めるも、


「─────────。バカが」


 吐き捨てるように言う、怒りを孕んだ黒騎士の声がそれを掻き消した。

 そして、最後に俺は。





それ(・・)は、俺の名前だ」





 ぐちゃり、と。

 肉のひしゃげる音を聞いた。





◇◇◇




「──あれ? 何してんの、カイン?」


 幼馴染みの少女の声で、意識を取り戻した。

 今、自分は故郷の村の入り口に立っている。

 何度も見た光景。あの広場も、彼方に見える田園風景も、のどかで牧歌的な雰囲気も、優しい風も、全てを覚えている。


 帰って来たのだと、思った。


「おーい? カインー?」


 少女が自分の顔を覗き込むように見つめてきた。何の反応もしない自分の様子を訝しんだようだ。

 ああ、と一言前置きして、自分は、



「──何だい? エヴァ」



 ()は、少女──エヴァにそう言った。


「何だ、って……まぁいいけど。ぼーっとしてたから、どうしたのかなぁって思っただけ」


 つーん、とそっぽを向いたエヴァに、俺は「すまない」と小さく呟きながら、彼女の顔を見て、


「なぁ、エヴァ」


「んー?」



「───ただいま」



 一言、そう言った。


 エヴァは、呆気にとられた顔をしたが、



「──おかえり」



 笑顔で、そう返してくれた。


 






◆◆◆




「ふっ──ふっ──、が……」


 呼吸は浅く。呼吸は荒く。

 胸を刺す痛みは、もう二度と消えることはないのではないかと錯覚させる。


 何故こんなことに。

 何故こんな場所に。

 何故、自分が。


 何千、何万と繰り返した疑問は、いつもひとつの答えに収束する。


 ───全ては、アイツのせいだ。


「ふっ──ふっ……待って、いろ……」


 だから、奪われたものを、奪い返さなければ。



「お前を──殺す──ふっ……」



 そうして、歩き出した。

 累々と続く何かの残骸を踏みつけながら。




◇◆◇




 廻り、巡る、復讐の連鎖。


 我が報復の刃。

 いつか貴様の心臓に突き立てん───。




ありがとうございました。

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