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夢裡ですって!  作者: MEGUMI
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第一章 動きあり 

 ヨルは異常なまでに悩んでいた。 

 実は毎日捲る事が許されているその銀のカードから、三日連続スーパータワシを引き当ててしまったのだ。 簡潔に言うとハズレだ。 そして、このハズレから学んだ事がある。

 銀のカードに頼ると怪我をする、だ。 そして、ヨルは以前から悩んでいる事を皆に告げる事にした。 ヨルのこの決断が後に、大きな渦に飲まれて行く事になる。

 ヨルの呼び掛けで、部屋に全員が集まり待機していた。 

 そこに、一人遅れてヨルが部屋に入った。


「みなさんお集まりありがとうございます――。 僕は……物凄く悩んでいたのだけれど、今日を以って王を宣言しようかなと――!」


 この棒読み口調の狂気に対し、アルミがすかさず口を挟もうと前に出ようとした。 

 しかし、お師匠様が目でアルミを静止させた。 


「ふむう。 ヨルよ、急いては事を仕損じるというがのお。 何故にそう急ぐのじゃ?」


 ヨルには以前、王の宣言は他国の王の知る所となり、カードブック目当てで戦が起こりうるとアルミに教えられているはず。 そうお師匠様も思ってのこの発言に、何も可笑しな空気は流れなかった。

 しかし、ヨルの顔から迷いが感じられず、その場に居る三人は静かにヨルの考えを深く待った。

「……実は、僕。 よく一人で森や川に出かけては美しい自然と遊んでいるのだけれど。 その自然や動物達を、僕達だけのものにしているのはもったいなく感じて、残念だと思うんです……」

 この発言に対して、誰も同調はしなかった。 たったそれだけの理由で、王であるヨルの身に危険が降りかかるのとでは、釣り合いが取れないと判断したからだ。

「ヨル様――。 現実的に考えまして。 王の宣言はお控えください。 王とは兵と塀が無くてはただの人です。 時期尚早だと思うのですが――」

 アルミの顔に笑顔が見えなかった。 その真剣な顔つきに、さすがのヨルも危機感を募らせた。

 しかし、ヨルの顔から迷いが感じられず、その場に居る三人は静かにヨルの考えを深く待った。


「――実は、僕。 よく一人で森や川に出かけては美しい自然と遊んでいるのだけれど。 その自然や動物達を、僕達だけのものにしているのはもったいなく感じてて――ははは――」


 この発言に対して、誰も同調はしなかった。 たったそれだけの理由で、王であるヨルの身に危険が降りかかるのとでは、釣り合いが取れないと判断したからだ。


「ヨル様――。 現実的に考えまして。 王の宣言はお控えください。 王とは兵と塀が無くてはただの人です。 時期尚早だと思うのですが――」


 アルミの顔に笑顔が無かった。 

 その真剣な顔つきに、さすがのヨルも危機感を募らせた。

 しかし、ここぞとばかりに班長が割って入ってきた。

 

「ははは。 私は一向に構わないと存じます。 ただで民と兵が増えるのです、何を迷う事がありましょう。 直ぐにでも王の宣言をお済ませください」


 羽扇をゆらゆら揺らしながら、班長が助言をした。 

 だが、同時にそれは余りにもヨルを小馬鹿にしている助言だと感じたアルミとお師匠様は班長をぎろりと睨みつけた。

 それもそのはず、戦う兵士が一人も居ないのだから。 失いかけた自信がゆるゆると増えるヨルに班長が追い打ちをかけた。


「人とは風であり。 また林にも火にもなります。 居着けばまたそこで、山ともなりましょう。 それに――私一人では城の修復も出来ませぬので。 ははは」


 お師匠様が癖なのか、生えていない髭を撫でながら班長の助言に対しコクリと頷いた。

 その頷きの意味を察したアルミが前に出た。


「ヨル様。 王の宣言とは、命のやり取りの開始を意味します。 その意味だけは常に胸にお残しくださいませ――」


 そうヨルに伝えると、アルミが王の宣言をする用意を始めた。

 王の決意は絶対である、アルミもそれ以上止める理由はなかった。

 そして、アルミがポッケから携帯電話らしき物を取り出し、誰かと話しを進めていた。


「携帯電話あるんだ――電話――だ」


 ヨルの譫言も、今のアルミにはまったく届かなかった。

 全ての工程が程なくして済んだのか、アルミが全員にバルコニーに出ることを勧めた。


「ヨル様。 空を見上げてください。 ふふふ」


 そこには、金の花びらが辺り一面に降り注ぐ別世界があった。


「これが――僕の――王の宣言」


「はい。 この空から降る花弁に触れた者。 その者の心に声が届きます。 たった一度しか行えない大事な宣言ですので、よくお考えになって大陸中の皆様にお届けください。 ふふふ」


 そうヨルに伝えると、手に持っていた携帯電話らしき物を差し出した。

 そして、疑う素振りも見せず、ヨルは携帯電話を耳に当てた。

 ほんのりほっぺを赤く染めたヨルが、左手を空高く突き刺し、言葉を並べた。


「は、はじめまして――僕はヨル。 この世界で天下――」


 この、ヨルの宣言。 一時間を越えた……。

 


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