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夢裡ですって!  作者: MEGUMI
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第一章 新なるカード

 廃城の空には星々が優しい光を放ち、人々に夜の到来を心に染み込ませる。 

 時は止まっているのだが、四六時中昼ではなく朝も来れば夜も来る。 

 それは、お師匠様に教わった不思議の一つでもあるが、ヨルは深く考えるはずもなかった。 

 そして、その夜を迎えた。


「ふふふ。 ヨル様。 楽しみにされて居られますね?」

「うん。 天下を目指すのだったら――強い戦士が不可欠ですよね? さっと引いてさっと天下を取れればそれで全て解決……何が解決なのか……まっいっか。 気にしないでおこう気にしないでおこう――」


 綺麗に拭かれたテーブルの上にカードブックが置かれていた。 ヨルが無造作にカードブックを置くのを、母親になった気持ちでアルミが先に用意しておいたのだ。


「この銀のカードは、いつ頃捲ることができるのです?」

「実はもう捲れる状態にあります。 夜の到来と同時に開放されるとのことですので、カード達が並ぶページを開けば、銀のカードの縁が強めの銀色に発光していると思いますよ」


 ヨルは見ていた。  アルミが盗み見しながら説明していたことを。 その本をまず読ませてくれたほうが話しが早いのではないかと染み染み思えたが、きりっとした顔で立っているアルミには言えなかった。


「なんじゃ。 新しい兵士はまだなのかあ? なんならワシが捲ってやろうかのお」


 いきなりお風呂上がりのお師匠様が現れた。

 そして、いきなりブック目掛けて歩きだしたのだ。 つい先程、二人に頭を叩かれ腹部を殴られた仕返しをしてやろうと企んでいるのが、その悪い顔つきで簡単に判断できた。

 またしてもアルミがちっちゃな胸元から桃色のこれまたちっちゃな杖を振りかざした。 

 何かは解らない何かが、お師匠様の胸部に直撃した。


 そして、お師匠様が故障した。 いとも簡単に故障した。


「お師匠様は大丈夫です。 これからも嫌がらせがありそうです、ヨル様も武器が必要かもですね。 ふふふ」


 カードを捲る度、お師匠様の嫌がらせと。 アルミの変なポージングが毎夜あるのかと思うと、ヨルは少し肩を落とした。

 

「さっヨル様。 銀のカードを」


 あっ……と、無駄な寒気がした。

 すぐ右横に立っているアルミから、何かしらの気が発していた。 敏感なヨルは恐る恐るちらっと見てみた……やはりあのポージングがそこにあった。 右目を右手のピースサインで覆い、ペロっと舌を上に出している、そうあのポーズだ。 そして、あの言葉を掛けてくるだろうことも確信した。


「じゃあ。 触れます――。 捲り? ます――。 ううううっ」


 これは悪い夢だと念じながら、銀のカードに手が伸びた。


「シルバーカード捲っちゃうぞおおおおっ! いええええっい!」


 言われた。 やっぱり言われた。 がっ。

 アルミのちゃちゃにもめげず、ヨルの細く繊細な指先が銀のカードに触れた。

 銀のカードがゆるりと浮かび上がり、瞬く間に部屋中が虹色の発光に染まる……。 部屋中に広がった虹色の発光が音も無く中央辺りに結集し始め……それと同時に人影が薄く現れ色味が増し始めた……。 


「ターンオーバー。 この私を呼び出して頂けたことを、深く感謝。 致します」


 そこには、ヨルと歳を同じくした少年が立っていた。 

 頭には綸巾を乗せ、涼やかな衣を纏い。 特に目を引いたのは手に持つ美しい羽扇であった。 

 その少年は浅く目を閉じたまま少し顔を下げていた。

 何故かヨルも頭を下げてしまった。 


「あなたの――お名前は?」


 名を尋ねられた少年は少し笑いながら返した。


「生まれたばかりの子鹿に名前などありましょうか。 名は親が決めるもの、あなた様がお決めになられればよろしかろうと存じます」

 ヨルは完全に飲まれてしまった。 違う。 その威厳に押されてしまったのだ。 お師匠様の場合はいきなり叱られたこともあり、威厳よりも威嚇を感じたのだが。 

 しかし、この少年には圧倒される気がしてしまった。


「ふふふ。 ヨル様。 気軽にいきましょう。 名が無いというのであれば名をあげればよいのです」


 アルミの助言にほんの少し肩が軽くなったヨルは、少しだけ悩んで見せたがすぐに言葉を発した。


「では。 君の名は班長! です!」


 実は、現実世界でのヨルは班長をしていた。 たったそれだけの理由なのだが、ヨルにとって班長とはリーダーであり、まとめ役になれる人物を指す言葉だと思っている。 

 事実、班長に任命されたその夜は眠りに就くまで母親に自慢した程だった。


「わかりました。 私はこれから班長と名乗らせて頂きましょう。 では、私は城の現状などを備に調べ、内情把握に努めます。 では。 失礼致します」


 羽扇をゆらゆらと扇ぎながら、班長は部屋を後にした。 

 終始注視していたアルミは班長の不敵に笑った口元だけが気になったが、ヨルには告げなかった。

 二度目のカードとの出会いは、不思議で不気味な少年班長となった。


 薄暗い廃城内を一人視察する班長に、思わぬ人物が声を掛けた。


「その方。 何故名を告げなかったのじゃ? カードの兵として召喚されし者は、名を明かすのが規則じゃ。 そして礼儀じゃろうて――」


 知らぬ間に部屋を抜け出していたお師匠様が、班長に声を掛けた。


「ははは。 では。 あなたは名を告げられましたか? あの――お嬢さんに」


 この問いにお師匠様は返答できなかった。 そして、その場を離れながら小さく笑う班長の声を、お師匠様は聞かされる事となった。

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