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97 真摯な態度の変態紳士

 僕はそのAIを知っている。そうだ知っているのだ。どんな組まれ方をしているのか理解できるレベルで。


「理由は分からないんですか?」

 スコヴィルは僕の目をしっかりと見つめて言う。そういうのは苦手なんだけど、今は目をそらすわけにはいかない。


「たぶん知っているんだと思います。記憶が戻ればもしかしたら・・・。」

「だからサドンさんは様子を見ようと言ったんですね。」

「?」

「私がサドンさんと話したときに、プレイヤーとしてブレアさんとアフタさんの名前が挙がりました。ブレアさんに関してはサドンさんが話を通しました。そのあと私もブレアさんと話をしています。」

 なるほど、既に二人は剣聖ブレアとコンタクトをとっていたのか。


「そして私がアフタさんにもプレイヤーの件について話をしようと提案したところ、サドンさんが止めました。彼については様子を見たい、他のPCとは様子が違うと言って。」

 う~ん、サドンは親しげに接してきた割には、僕のことを警戒していたのか?


「そうなるともしかして僕の記憶が色々と鍵を握っているとか・・・。でも思い出せない以上はどうしようも・・・。」

「一緒にダンジョン踏破をすれば、きっと記憶も戻ります!」

 何か根拠があるわけでも無さそうなのに、自信満々で断言するスコヴィル。だけど思い出したら出したで、実はちょっと詳しいだけのタダの人というオチもあり得る。本当にありそうで嫌だなあ。


「アフタさん、一つ提案があります。」

 彼女は意気揚々と言った。それはいいんだけど、何故顔をそんなに近づけるんだろう?


「一度地上に戻りましょう。」

「地上?」

「はい、そこでアフタさんのスキル鑑定をしてもらいましょう。」

 なるほど、そこで未帰還者というかプレイヤーの専用スキルを確認する訳か。そう言えばサドンが言っていたPCって、プレイヤーキャラクターの事だったんだ。今頃気がつくとは、本当に僕は間抜けだなぁ。


「スコヴィルさん、たぶん僕の能力は・・・十中八九なんの役にも立たない能力だと思いますよ?」

「? 何故そう思うんですか?」

「今までの経験則からです。」

 僕の言葉に彼女は首をかしげるばかりだった。まあ、理解はされないだろうなあ。正攻法で第五層まで来られる人には分かるはずが無い。


 しかし地上に戻るに当たって、最重要の懸案事項がある。リコッテだ。リコッテとエンカウントしたら、僕の命は風前の灯火だ。


「地上までのルートで、会いたくない人がいるんです。それが何とかならないと地上に行くのは・・・。」

「それは女の人ですか?」

 その言葉に僕はギクリとする。


「冗談で言ってみただけだったんですけど・・・。どんな関係なんですか?」

「故郷の村でいつの間にか許嫁になっていて、そのまま村に置いてきた女の子です。今は凄まじい実力を持った冒険者になっています。」


「・・・。」

「・・・。」

 いや、何か言って!


「その子のことは好きなんですか?」

「好きとか嫌いとか、そういうのはありません。強いて言うなら苦手です。」

 何故スコヴィルはホッとした表情をするんだろう?


「分かりました。それじゃあ、顔を隠しましょう。」

 彼女は自分の魔法の袋をガサゴソと漁る。そして赤い蝶の形をしたものを差し出してきた。これは・・・目の所に付けるアレ・・・。

「スコヴィルさん?」

「これで顔が隠せます。」

 いやいやいやいや、それ隠せてない、隠せてないよ。バレバレだよ。しかも変態紳士一直線だよ。


「大丈夫です。これには認識阻害効果があるんですよ。注目がマスクに集中して、それ以外の顔の認識が出来なくなる効果です。」

 それ、単にマスクがヤバイからそっちを見ちゃうってだけなんじゃ?


 そんなことを思いつつも、僕は既にマスクを装着している。なんたってYesとしか言えない男だからさ。これを付けて地上に向かうのか・・・。こうなると、次の通り名はきっとアレなんだろうなあ。はー、勘弁して欲しいなぁ。


「似合ってますよ。」

 その言葉、喜んでいいのか、悲しむべきなのか。


 ということで僕達は地上を目指す。出発はスコヴィルの体力回復のため一泊してからとなった。


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